Wed.

金狼の牙の行進曲 6  

 サラーが案内したところは平原だった。
 ここが墓場と言われても墓標も何もないため、一般の者には理解できないだろう。

「一族のお墓はもうちょっと進んだところにあります」

 ”金狼の牙”たちの戸惑ったような顔に気づいたらしいサラーが口を開く。

「ここは当日に巻き込まれてしまった方々のお墓です」
「ほう、なるほどな・・・」
「ではご冥福をお祈りしましょう」

 一行は、アウロラやサラーに合わせて十字を切る。
 柄じゃないのが若干名いるが、これ以外で冥福を祈る術がないからだ。
 ショコラも一番つたないギルの真似をして十字を切る。
 その様子を見ると、祈りなんてものは形でやるものではないのではないかと考えさせられる。

行進曲17

「巻き込まれた者の中には・・・人間もいたのか?」
「ええ、吟遊詩人の方が数名・・・それと冒険者の方も・・・」
「・・・・・・・・・そう、か」

 ギルは格闘の用心に持っていた短剣を一本地面に突き立て、ルーンディアで手に入れた葡萄酒を柄から注いだ。冒険者流儀の墓標だ。
 ジーニがぽつりと呟く。

「戦争って・・・悲しいものね・・・」
「そう・・・ね」

 リーリンが首肯した。

「争いは人を幸せになんかしないわ・・・」

 祈り終わった一同がさらに背の高い草を掻き分けて進むと、木の枝を十字に組んだものが刺さっているところが見える。
 先導していたサラーがその簡易的な墓標の前まで歩き、足を止めた。

「ここが、一族のお墓です。祖母、祖父、父、母、叔父、叔母、それと・・・エルクが・・・ここに眠っています」
「エルクも・・・?」

 ギルが意外そうな顔をしてサラーの顔を見やる。

「ええ、黒エルフに唆されたとはいえ、彼もれっきとした一族の者ですから」
「父様・・・母様・・・」

 墓標の近くまで寄ったリーリンの目じりに、涙が浮かんでいた。

「さ、リーリン。弔いの儀式を始めましょう」

 そういってサラーはさっきの小箱からオカリナを取り出し、リーリンに手渡した。
 サラーによると、それは≪森のオカリナ≫という楽器で、一族の特別な儀式の時だけに用いられる大事なものだという。
 死した”歌の一族”の霊がオカリナを持つ者に新しい歌を授け、一族はそうやって歌を作り出してきた・・・・・・。
 ≪森のオカリナ≫を吹く者は自然に指が旋律を奏でる。つまり、歌を閃くというわけだ。

「新たな歌・・・」

 リーリンはそう呟いてオカリナを手に取ると、そっと口にあてがい、ゆっくりと自らの内にある旋律を奏でた。
 リーリンの奏でるその曲は、望郷の思いを秘めた物悲しいものだった。

(まさか、このオカリナは歌い手の心情を理解しているのか?)

 まるでギルの心を見透かしたようにサラーは言う。

「そう、このオカリナは心情を読み取る不思議な楽器です。私も、この儀式で歌を閃くことが出来ました」

行進曲18

 わずかの間、逡巡するようにサラーの唇がわななく。
 そして苦しげに彼女の口から言葉が発せられた。

「それが、【堕天使の歌】――」
「【堕天使の歌】・・・?どうしてまたそんな・・・」

 アレクは眉をひそめた。
 アウロラはいち早く何事かを察しているようであるが、彼にはまだ分からない。
 半神半人のような面持ちの青年に、サラーは悲しげな青の瞳をひたと向けて言った。

「リーリンから聞きました?歌の継承者、ノヴァの事を・・・」
「ええ、あなたの恋人だった・・・」
「そう、内乱の真の犯人・・・黒エルフは・・・ノヴァです」
「・・・・・・!?」

 混乱したように口を閉ざしてしまった幼馴染コンビに代わって、ミナスがサラーに訊ねる。

「ノヴァは一族の者なんでしょ・・・?なのに何で黒エルフ・・・?」
「経緯や手段、彼の心は分かりません。分かるのは、彼は一族を憎み、一族を壊したいと思っていた事・・・」

 そしてその協力者に弟であるエルクを得、虐殺を行い。
 最期は自らの手で自らの命を絶った・・・。
 そう語って俯いたサラーをじっとギルが見つめた。

「あんた・・・なぜそんなに詳しい・・・?街に出ていたんじゃ・・・?」
「私たちが帰った頃にはもう動いている者はいませんでした。首謀者であり、私の恋人であったノヴァ以外は」

 ”歌の一族”であり、妙なる歌を発するサラーの声が悲哀に蝕まれ、ひび割れている。
 押さえがたい悲しみと辛すぎる真実が、彼女を押しつぶしているようだった。

「そして私は彼の口から真実を聞き・・・彼の手からオカリナを譲り受け、彼を弔いました」
「そんな・・・そんな事って・・・」

 ぶるぶると震えるミナスの肩を、アウロラは後ろから手を置いて鎮めようと試みた。
 サラーの心の底に揺蕩う負の感情――。
 【堕天使の歌】の楽譜を見た時から疑問に思い続けていたアウロラにとって、サラーの告白は「やはり・・・」と納得できるものであった。
 それは人の心を歌い、人の心へと訴えかけるために歌う吟遊詩人の、端くれとなったからこそ気づいたことだったに違いない。

「その時に彼を強く想っていた私の心は堕ちていたのでしょう。そして、彼の心も・・・」

 そう言って彼女は悲しそうに笑った。
 最愛の家族と最愛の人を亡くした彼女を気丈にこの地に留まらせているものは、一族やノヴァへの想いに他ならない。
 ノヴァはサラーとショコラの二人を街へ買出しに生かせ、暗に避難させる事で生き長らえさせた。
 そこまで事情を語ったサラーが、遠くを見つめながら呟く。

「彼が・・・一族という括りを壊してまで得たかったものとは一体何だったのでしょう・・・」
「・・・・・・」

 ぎゅ、とアレクは自分の手を強く握りこんだ。

「事情をよく知らない俺に、大層なことは言えないが・・・彼は・・・ノヴァは・・・」 

 焦点のぼやけたサラーの目がアレクを捕える。

行進曲19

「彼は自分の道を進んだんだ。それは決して綺麗な正しい道じゃなかったが・・・そして、少なくとも君やショコラを愛していた」

 アレクのその指摘に、彼女はつと胸をつかれたようであった。

「きっと彼にとって掛け替えのない者が君たちだった」
「・・・・・・・・・」
「あと、これは推測の域を出ないんだが・・・。彼はオカリナによって一族の歌を引き出して欲しかったんじゃないか」

 その人の想いが宿る、永遠に語り継がれる歌として・・・。
 ぎこちない動きではあったものの、サラーはやっと搾り出すようにして声を出した。

「・・・そう、かも知れませんね」

 一同は空を仰ぐ。
 一陣の風が通り過ぎて行き、野原の草を揺らして音を奏でる。
 この森は音に満ち溢れているのだ。
 ・・・・・・数十分後。

「それじゃ、俺たちはこれで・・・また来るよ」
「ええ、是非またおいでください」

 今度こそ別れを告げたアレクに、サラーはゆっくりと首を縦に振って言った。

「・・・今回は何のおもてなしも出来ずにすみませんでした」

 そこでギルがにやりと笑う。

「いやいや、気にしないでくれ。・・・ショコラも元気でな」
「うん、またね。ギルバート」
「では、リーリンさん。またレーシアの森に来ますね」

 アウロラも、もう一人の”歌の一族”に再会を約束していた。

「うん、待ってる。・・・ありがとね」
「じゃ・・・」

 ミナスのその言葉を機に歩き始めた”金狼の牙”を、サラーが呼び止めた。

「あの、皆さん・・・!」

 リーリンに聞こえないよう、彼女は小声で言った。あの話――ノヴァの真実――はリーリンには内緒ですよ、と。

「私とあなた方の心の中に・・・」
「ええ、分かってます・・・」

 アウロラもまた小声で答えた。

行進曲20

「これは、私からのお礼です。受け取ってもらえますか?」

 サラーが差し出してきたのは例のオカリナであった。
 戸惑ったようにアレクが言う。

「これは・・・大事なものなんだろ?」
「これはあのオカリナとは別のものです。一族に伝わる歌い手の宝で、喉の不調を癒す働きがあります。きっと、あなた方のお役に立てることでしょう」

 銀の髪を揺らしながら彼女はうっすらと微笑んだ。
 キルヴィの一族との友好の証として持っていて欲しい・・・と。 
 そういうことならと頷き、アウロラがそれを押し頂いた。
 再び礼を述べる彼女に気にするなと声をかけ、そして彼らは歩き出した。

※収入3000sp、≪蒼薔薇の香水≫≪貴婦人の涙≫≪砂金≫≪黒こしょう≫≪ヴェーダ聖杯≫≪森のオカリナ≫※
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■後書きまたは言い訳
そんなわけで予告どおりの小話回です。今は特に買いたいものがない店シナリオでも、ぶらりと立ち入って気ままに話をするとか、色々イベント起こすとか(ブレッゼンの酒しかり、リーリンの帰郷しかり)ができると、プレイしていて楽しいものです。

・地図作製組合(CWGeoProject様様)
・魔剣工房(Djinn様)
・歌の一族(周摩様)
・魔光都市ルーンディア(ロキ様)
・異国の華(ann様)
・新港都市ポートリオン(Moonlit様)
・コデルモリアの英雄(たこおどり様)

小話中では詳しく書きませんでしたが、ルーンディアの「リスボンの英雄」「リストックの英雄」の各イベントをこなしたので、点数つき称号も入っております。≪砂金≫と≪黒こしょう≫もリスボンで売り払って、現金が増えました。
ただ、ドワーフ族からのお礼にいただいた≪ヴェーダ聖杯≫については・・・ご存知の方のほうが多いでしょうが、無制限の体力完全回復+精神力回復効果という最大級のチートアイテムなんですよね。
さすがにこれを使ってしまうとバランスが崩れますので、こちらは香水とともにエセルへのお土産にしようかと思います。こんな荘厳な杯をいきなりもらっても、エセルも困るでしょうけど。(笑)
あ、香水をニ種類購入したのは、片方は娘さん用のお土産にするからです。
2人でどっちにするか選ぶのを、片肘を卓につきながらボケーっと眺めるギルと、にやにやしながら遠目で観察するジーニ。・・・・・・うわあ、すごい楽しそうあの人。

魔剣工房を書いていた時に出てきた「スルトの巨人の魔剣の主」というのは、MoonNight-Waltz.さんに出てくる”月歌を紡ぐ者たち”のコヨーテ君です。作者の周摩様のリアル事情が大変お忙しいようなので、応援の意を込めてクロスオーバーをさせていただきました。
時間軸がどんな風に絡み合うか分かりませんので、「初めての打ち直しじゃない」ことだけ書いてあります。
よく考えたら、すごいことですよね。1-3対象シナリオで吸血鬼とバトルして無事封印してくるとか。
ブレッゼンが言うのじゃなかったら、容易に信じられることじゃないです。

サラーに貰った≪森のオカリナ≫につきましては、恐らく装備はしませんが、アウロラが歌う後ろでミナスが吹いて練習してる・・・という感じになると思います。
そしてたまに神精ヴァンがその音色に合わせて踊ってるといい。可愛い・・。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/05/01 20:25 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 2

コメント

ルーンディア良いですね。
当初ギルドで見かけて容量デカッ!MP3?再生できない!と色々戸惑ったのを覚えています。
異種族入り乱れてるあたり、よく言われるFF7よりもシャドウランに近い世界観だな、とも。

歌の一族関連のイベントはここで見るまで完全に見逃していました。
一時的にリーリンが宿に連れ込まれますが、何気にレベル6の支援特化型…そのままPTインして連れ回したくなります。

URL | 堀内 #wKzDXcEY | 2013/05/02 19:39 | edit

コメントありがとうございます

はい、あの時の並んでいた中で、飛びぬけて容量が大きかったですね~。(笑)シャドウランはあのごった煮のような種族観が楽しくて好きです。ビル街を飛ぶドラゴン・・・シュール・・・。
リーリンの帰郷イベントを全部終了させちゃうと、リーリンがアルバムに載っちゃうの寂しいですね。
レベル6の支援特化って、かなり宿に欲しい存在です。ただ、それだとルーンディアの技能も買えませんので、悩むところです。

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2013/05/02 20:39 | edit

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