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Wed.

金狼の牙の行進曲 5  

 深緑都市ロスウェル、キルヴィの森。
 かつて”歌の一族”と呼ばれたエルフが森の管理者として、至高の歌い手として平和に暮らしていた場所である。
 だが、その平和な世界は数年前の内乱によって打ち砕かれた。
 一族の大多数が死に絶え、もはや歌の一族の滅亡は目に見えた。
 生き残った者たちは歌をうたい、失われた呪歌を取り戻そうとする。
 彼女もまた場所こそ違えど歌をうたい、一族を想うものだった・・・。

「相変わらず・・・この森は空気が綺麗だね」

 ミナスは肺いっぱいに森の空気を吸い込んで堪能した後、にっこりと笑って言った。
 ”金狼の牙”たちは、ルーンディアにて多少の冒険――海賊退治や遺跡に巣食う怪物討伐――を行なった後、リーリンを連れて”歌の一族”の元へと案内していた。

行進曲10
行進曲11

 小さなエルフの傍らを歩く、淡い桃色の薔薇を銀髪に挿した美女は逡巡した後に頷く。

「そう・・・ね」
「どうした?故郷はもうすぐだってのに元気ないじゃないか」

 アレクは彼女の様子に気づいて声をかけた。
 彼の黒っぽい外套の肩の上には、小さな雪精がちんまりと座り込み、外套の襟をしっかり掴みながら森の様子を珍しげに眺めている。
 声をかけられたリーリンは、困ったような顔で笑った。

「う・・・ん。ちょっとね・・・」

 魔光都市ルーンディアから列車という最新鋭の乗り物で二時間かかるレーシアの森。そんな辺鄙なところで音楽館をちゃんと営んでいたほどしっかり者の彼女である。何故こんな急に煮え切らない態度になるのだろうかと、エディンも首を捻った。

「・・・?どうした?」
「私、内乱のとき森から逃げちゃったから・・・森に嫌われちゃったかも、って思ったら気が重くて・・・」
「・・・森から嫌われる、なんざ考えなくていい。森であれ何であれ、お前さんの帰郷を妨げる理由にはならんよ」

 ぽん、とエディンは軽く彼女の肩を叩いて励ます。

「姉さんや弟に会いたいんだろう?向こうだって会いたいと思っているさ」
「そうだよ!大丈夫、きっとショコラだって喜ぶよ!」

 リーリンの手を痛くないよう握り締め、ミナスも自分の意見を言い募る。
 その亜麻色の頭を撫でつつ、エディンはにやりと口角を上げた。

「だから、ほら笑いな。そんな辛気臭い顔で彼女らに会う気かい?」
「エディンさん・・・・・・ありがとう」

 彼女は金色の双眸を、よく伸びた梢の向こうにある晴天に向けて言った。

「そうね・・・悩んでいてもしょうがないわ」

 くるくると杖を振り回しつつ、ジーニが促す。

「それじゃ、リーリンに笑顔が戻ったところで・・・先に進もうか」

 10分ほど進んだだろうか、ふとリーリンの足が止まった。
 しかし、それは気の重い理由からではなく、懐旧の思いからくるものであった。

「わあっ懐かしい!ほら見て、リフェンの花が咲いてるわ。咲いているところを見るのは何年ぶりかしら・・・」
「そうだね。僕達でもそう見ることはないのにね」

 悪戯っぽく微笑んだミナスが、人差し指でピンクの花弁を突付く。
 後ろに立つギルが、「なんだ」と言って笑った。

行進曲13


「やっぱり歓迎されてるじゃないか」
「そうとも考えられるわね。・・・ありがとう、キルヴィの森。・・・・・・ただいま」

 リーリンは土ごと花を摘み、手持ちの瓶に丁寧に保管した。
 こうしておけば香りが長時間持続するという。
 大事そうにその瓶を抱えて歩き出した彼女は、ふと思いついたようにギルを振り返った。

「ねぇ、そういえば姉さんは呪歌を教えているのよね?」
「ああ、”憩いの滝”と呼ばれる場所でな」
「どんな歌を教えていたの?覚えているなら、教えて?」

 そう言われて、たちまちギルは答えに窮してしまった。ミナスと一緒にショコラの話を聞いていたはずなのだが、咄嗟に曲名が思い出せないのだ。
 やれやれと苦笑したジーニが、よく手入れされた爪で額をつつきながら記憶を掘り起こす。

「え~と・・・”道化””妖精””豪壮”小悪魔””人魚””天女””戦場””亡霊”・・・」
「”魔女””竜神””氷姫”・・・それと”堕天使”・・・」

行進曲14

 呪歌を教えてもらっていたアウロラも、当然ながらすらすらと楽譜に記載されていた曲名をジーニに続けて答えていった。
 その一番最後の曲名で、リーリンが首を傾げる。

「・・・”堕天使”?聞いたことの無い歌ね・・・誰の歌なのかしら・・・」
「あの、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「ん、何を?」

 アウロラは、あなたにとっては辛いことかも知れませんが、と注釈を加えてからずっと疑問に思っていたことについて口を開いた。

「どうして内乱は起きたんですか?継承者の弟と黒エルフの目的は一体なんだったんです?」
「・・・・・・・・・。継承者の弟の名はエルク。彼は自意識過剰で自己顕示欲の強い男だった」

 ぽつり、とリーリンは応える。

「それで、いつも兄のノヴァに対して劣等感を抱いていた・・・そこを黒エルフに唆されたってところじゃないかしら」
「・・・かしら?」
「実際のところ、私は一族のその後の様子を知るのが怖くて逃げてきちゃったから・・・正確なことは分からないわ」

 そう言って薔薇を挿した歌姫は肩をすくめた。
 ひとつだけ確かなことは、虐殺を行なったのは黒エルフだということだけ・・・。
 リーリンはそうそう、と瓶を抱え直しながら続けた。

「そういえば内乱が起こる前にノヴァは森を離れたのよ。姉さんたちと一緒にね」
「へえ・・・ノヴァさんはその、サラーさんとは・・・?」
「サラー姉さんはノヴァの恋人だったのよ。ノヴァ・・・無事だといいけど・・・」
「・・・・・・・・・そう、ですか」

 ありがとうございますと、アウロラはリーリンに頭を下げた。
 その後で、瓶を代わりに持とうと申し出るエディンや、ショコラから聞いた話を一所懸命に彼女へ話そうとするミナスとともに、リーリンは前の方を歩いていく。
 やや列の後方に下がったアウロラの、まだ不明瞭そうな顔に気づいたのはアレクで、「どうした?」と彼はリーリンに聞いたのと同じ口調で問うたのだが、アウロラは先ほどのリーリンのはかばかしくない態度まで真似たかのようである。

「サラーさんの態度や、リーリンさんの知らない”堕天使”の歌・・・。ひょっとしたら・・・いえ、憶測は良くないですね」
「・・・・・・?」
「いえ、何でもありません。さあ、”憩いの滝”へ急ぎましょう」

 さらに進むこと数十分。
 清涼な水が飛沫をあげているのを眺めながら、リーリンは嬉しそうに目を細めた。

「懐かしいなぁ・・・ここは夏場のオアシスだったわ」
「さ、いよいよだよ」

 ミナスは彼女の手を引っ張って歩いた。
 そのまま例の道を潜り、あの二人が待つ場所へと進んでいく。
 一足早く気づいたサラーが、こちらを振り返った。

「あら、”金狼の牙”の皆さん。ごきげんよう――」

 その青い瞳が驚愕に見開かれる。

「姉さんッ・・・!」
「リーリン・・・!?あなた・・・無事だったのね・・・!」

行進曲16

 二人の美しいエルフの姉妹は抱き締め合い、互いの無事を喜んだ。
 その様は言葉に出来ない神秘性があり、まるで聖母の抱擁のようであった。
 滝のすぐ傍にある茂みから、ひょっこりと顔を出したショコラがこちらに気づく。

「ただいま、サラー。・・・どうしたの?」
「ショコラ・・・私よ、リーリンよ!そっか、五年前は赤ん坊だったわね・・・。こんなに立派になって・・・」

 歌姫の白い手が、そっとショコラの黒髪と尖った耳を愛しそうに撫でた。

「え?え?じゃあ、リーリンはお姉ちゃんなの・・・?」

 事態が飲み込めず、困惑しているショコラをよそにリーリンは強くその小さな体を抱きしめた。
 その様子を涙ぐんだままのサラーが見つめた。ほう・・・・・・と感に堪えないように長いため息をついてからこちらを見やる。

「”金狼の牙”の皆さん・・・リーリンがお世話になりました」

 彼女は深々と銀色に輝く頭部を下げた。

「ありがとうございました・・・おかげさまで五年ぶりの再会を果たすことが出来ました・・・」
「いや、気にしないでくれ」

 アレクが片手を上げてそれを制する。
 もともと、ここに寄る予定はあったのだ。まあ、今回のこの様子では、アウロラの当初の目的を果たすことは出来ないだろうが・・・それはまた後日に回せばいいだけの話である。
 後は気兼ねなく積もる話が出来るようにと、彼は暇乞いを告げようと思った。

「それじゃリーリン、俺たちはこれで・・・」
「あ、お待ち下さい・・・!」

 今度はサラーが彼を止めた。

「リーリンが帰ってきた事ですし、これから墓参りに行きたいと思うのですが・・・もしお時間がおありならばご一緒しませんか・・・?」
「うーん・・・断る理由がないな」
「アレクはん。墓参りくらい、お付き合いしはったらどないです?」

 肩の上の小さな友が誘う。
 アレクが他の仲間を振り返ると、彼らもまたトールと同じ意見のようであった。
 サラーがぱっと明るい顔になる。

「良かった!それじゃ、ショコラ。アレを持ってきて」
「は~い」

 ショコラは手の平より少し大きめの小箱をサラーに渡した。鍵付の、古ぼけた木箱だった。

「それじゃ、行きましょう」

2013/05/01 20:13 [edit]

category: 小話

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