Wed.

金狼の牙の行進曲 2  

 春の気配を多分に含んだ風が、気持ちよく足元を吹きぬけていく。
 ぽかぽかと暖かい道を何日も進むと、希望の都と名高いフォーチュン=ベルの名所となっている「幸せの泉」に差し掛かった。

「もう、着いたんですね…。案外早く着きましたね」
「はは、あんまり気持ちが良いから、時間が経つのがあっという間だったんだな」

 のんびりと最後尾を歩いていているアウロラとアレクが話をしていると、ふとアレクの方が足を止めた。
 目の前には、底まで透けて見える澄み切った湖が広がっており、彼はその美しさにため息をついた。

「それにしてもこの湖・・・こいつを見ると、『ああ、フォーチュン=ベルに来たんだな』って気になるよな」
「それと、あの山もですよね」

 彼女の胼胝がついた指が示すのは、フォーチュン=ベルを脇に構えた麗容を見せる桃仙山である。

「後はこの綺麗な湖に沿って進むだけですね。ブレッゼンさん、お変わりないといいですね」

 のんびりとした足取りのまま、ブレッゼンが仕事をする工房へ辿り着く。
 相変わらず剣を鍛えることに熱中しているようで、分厚い扉越しにも彼が槌をふるう独特の音が漏れていた。

「お、やってるやってる」

 気軽な調子でエディンがドアを開けて覗き込むと、ちょうど誰かの依頼の品らしい長剣を打ち終った名匠が、腰を叩きながら伸びをしたところだった。

「よう、偏屈じいさん。調子はどうだ?」

行進曲03

「また来たのか・・・・・・。ふん」

 いかにも仕事を邪魔されたというような顔をしているブレッゼンだが、その声には久々の客を喜ぶような響きも見受けられる。

「今日はちゃーんと酒も持ってきてるんだぜ。追い返さないでくれよ」

 彼の好物を心得ているエディンが背中の荷物袋を軽く揺さぶってみせると、たちまちブレッゼンの目の色が変わった。

「なにっ!?酒だと?一体どの酒を飲ませてくれるんだ!?」
「聞いて驚くなよ、じいさん。まずはポートリオンの≪紅の果実酒≫だろ。それからなんとワコクの≪梅酒≫に、名酒と知られる≪アーシウムの赤≫だぜ!」
「おおおお!?なんとも良いものを持ってきたではないか、お前ら!よし、早く寄越せ!」

 目がぎらぎらと輝いている。いかにもな頑固職人であるブレッゼンの変わり果てた姿に、やれやれとエディンは苦笑を閃かせた。

「そう焦るなよ、まずはこいつから」

 エディンの手渡した≪紅の果実酒≫の瓶を受け取ると、ブレッゼンは早速口を付けた。

「うむ、果実酒か・・・・・・!さわやかな自然の味が酒のうまみを引き立てるわ!」
「だろ?・・・まあ、前にそいつを使った時は、味どころじゃなかったんだけど」

とエディンは言った。
 前に≪紅の果実酒≫を使ったのは――そう、とある小村で”コデルモリアの英雄”を名乗っていた一人が、山賊の手下に射抜かれ気絶していたのを起こす時だった。
 しかし、これは今のブレッゼンとはなんら関係の無いこと。
 それ以上を語る愚かな真似はせず、今度は梅酒の瓶を渡した。

「お、梅酒か!珍しい物を持ってきたな」
「リューンやフォーチュン=ベルで売ってる≪葡萄酒≫みたいな扱いらしいな。でも、この綺麗な色は独特だよなァ」
「おお、そうだとも。どれ・・・・・・・・・。うむ、このまろみと癖のなさはやはり梅酒ならではだな・・・・・・!」

行進曲04

 ゆっくりと東方の珍しい酒を味わったブレッゼンは、すっかり上機嫌となっていた。
 酒豪と伝え聞く彼のこと、これくらいで酔うはずもないだろうが、久々の客人とその土産がよほど気に入ったのであろう。
 ”金狼の牙”たちもご相伴に預かりつつ訊ねてみると、今彼が手をかけているのは炎の巨人スルトの魔剣で、真の力を得れば念じるだけで刀身から炎を吹き出すという。
 この剣の持ち主は、なんとまだ駆け出しから抜けたばかりの頃に吸血鬼と戦い、剣をねじ切られながらも勝利を収めたそうだ。
 戦士であるギルとアレクは驚いて顔を見合わせた。
 彼ら自身はアンデッドたちと戦った経験はあるものの、まだ吸血鬼に出会った覚えは無い。
 それを今の自分たちの実力の半分もない青年が、やってのけたのだという――容易に信じられる話ではなかったが、ブレッゼンが言うのなら嘘のはずはなかった。

「わしも最初はなかなか信じ切れんかったが・・・。剣を見れば分った。あやつが尋常ならざる存在と戦ったことをな」
「すげえなあ・・・。そんな規格外の連中と渡り合うなんて」
「これが初めての打ち直しではないが、何度来てもあやつの目は変わらぬ。『誰かを守れる剣』が欲しいと、ここで宣言した時と」
「気に入ってるんだな、そいつのこと」

 ギルがにやりと笑うと、ブレッゼンはもじゃもじゃと生えている髭を弄りつつそっぽを向いてしまった。
 この後、”金狼の牙”たちは≪アーシウムの赤≫を飲み終わったブレッゼンや、工房の騒がしさを聞きつけたサンディ夫人と夕食までともにするのだが、その間も、彼が今までに打った剣とその持ち主の逸話を聞いて過ごしたのであった。

2013/05/01 20:03 [edit]

category: 小話

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