Wed.

金狼の牙の行進曲 1  

 荷物袋の中身をそれぞれ整理し終わり、ギルとアレクの部屋に集まっておやつの時間としゃれ込んでいた”金狼の牙”たちだったが、リーダーであるギルがふと皆に切り出した。

「なあ。酒が溜まってきたし、ちょっとブレッゼンのとこまで足を伸ばしてみないか?」

行進曲01

「あ~。そういえば、あの偏屈じいさんのとこにしばらく顔を出してねえな」

 顎の無精ひげを弄りながら応じたのはエディンである。
 彼の腰の後ろに吊ってある≪スワローナイフ≫は、ブレッゼンが鍛えた魔法の逸品だ。口は悪いし態度はいつもとほぼ変わらないが、それなりに気に入っているあの名匠に会えるのは嬉しいらしい。
 コテリ、と首を傾げてミナスが言う。

「行くのはフォーチュン=ベルだけ?僕、そろそろ遠出してみたいんだけどな」
「ん~。そうだな・・・」
「・・・なあ、ギル。地図作製組合から、ルーンディアの歴史や周辺地理について、もう少し詳細を報告するよう要請をもらっていなかったか?」
「あ!」

 幼馴染の言葉に、ギルは前から頼まれていた件をやっと思い出したように声をあげた。
 なんとも情けないその姿に、アウロラがため息をつく。

「さては忘れ去ってましたね?やれやれ・・・まあ、途中で注意しておかなかった私も悪いですが・・・」
「そういえば、アンタ珍しく口出さなかったわね。何で?」
「今までの冒険を楽譜にまとめておくのに、色んな吟遊詩人の方の話を聞いてましたからね。単純に時間が無かったんですよ」
「そっか、何か近頃忙しそうと思ったらそんな事してたのね」

 娘さんが作ったという薔薇のジャムのせクッキーを左手にキープしながら、ジーニはすっかり兼業吟遊詩人に感心していた。
 知識に対して貪欲なアウロラは、途中から習い始めた分野に対してもいい加減にするつもりは無いらしく、真面目に今までの体験談を書き留めては、懇意にしている詩人たちと話をしているらしい。
 当の彼女は、良い事を思いついたとでもいうように両手を打ち合わせて言った。

「そうだ、どうせちょっと遠出するのなら、途中で”歌の一族”のお二方にもお会いしませんか?詩の作り方などをお伺いしたいので」
「あ、僕もショコラに会いたい!」

 ショコラは、ミナスにとって数少ないエルフ族の友人である。
 元気よく手を挙げた仲間に目を細めたギルが、

「よし、じゃあ行くか!」

と言って彼を肩に抱き上げ、宙に放り出した。
 見かけによらず肝の太い小さなエルフは、たちまち歓声を上げて笑い出す。

「頭天井にぶつけるなよ」

と、エディンが声をかけた。その手には、”金狼の牙”たちが今までの冒険で少しずつ作ってきた独自の地図が握られている。
 長い器用な指が、すーっと一本のルートをなぞる。

「とすると・・・。まずはブレッゼンのところに行ってその後にルーンディア。そっから憩いの滝に寄って、地図作製組合に顔を出せばいいか?」
「うーん、そうね。その順番が一番いいんじゃない?」

 大人組みがこれからの行程を決め、傍らのアレクは膝の上にいるトールと人参入りのマフィンを分け合いながら、これから行く土地の気温について話していた。
 幸い、すっかり雪が溶けているとはいえ、トールが苦手とする夏の暑熱にはまだ遠い時期だ。憩いの滝あたりなど涼しくていい風が通るので、雪の精霊でも一休みには最適だろう。

「あまり日が照るようなら、例の魔剣にしがみつけばいい。俺が持ち運ぶから」

行進曲02

「助かりますわあ。ホンマ感謝してまっせ、アレクはん」

 アレクの言う「例の魔剣」とやらは、斬りつけた相手に凍傷を負わせる事が出来る、刀身1mを超える両手持ちの大剣なのだが・・・。
 旧文明期に滅びし王国の最期の王カナンが愛用した魔法の剣も、彼にかかっては、しょせん「大事な相棒のための冷房」代わりなのであった。

2013/05/01 20:00 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top