Wed.

Eureka 3  

 ブーツの半ばまでが水に浸っている。
 これでは容易に足音を消せないな、と盗賊が内心でため息をついた時に、ミナスがギルの赤いマントをぐいと引っ張って言った。

ユリイカ10

「・・・何か来る!」

 小さなエルフの声が合図だったかのように、ひときわ強い霊気が辺り一面を覆う。やがてそれは水から滲み出るような3つの怨霊へと姿を変えた。

「いよいよお出ましですか・・・!」
「魔法は温存しておけよ。これなら俺達の武器でもどうにかできる」

 ギルはパーティ唯一の聖職者にそう言うと、斧に神聖な力を溜めて迎撃の態勢をとった。
 ところが、それが放たれる前にジーニの体を覆っていた【旋風の護り】が怨霊を魔力の刃で切り刻んでいく。

「うおおおぉおぉん・・・・・・!」
「あら、あっけない」
「温存しろって言った傍から・・・」
「仕方ないでしょ。一度戦闘の雰囲気を感じ取ったら、勝手に飛んでいく仕様なんだから」

 ばっさりと言い捨てたジーニは、転ばないよう足元に注意しながら周辺を見回す。

「この辺りにユリイカ草らしきものは見当たらないわね」
「ノヅチも反応無しだ。もう少し奥へ進んでみよう」

 エディンの台詞に同意した”金狼の牙”は、今度はその奥でウィードご一行さまと戦うことになったのだが、その途中でノヅチが鳴き声をあげた事にぎょっとする。

ユリイカ11

「にゃー」
「・・・・・・おい。ネズミもどきが反応したぞ。一番手前のウィードに対してのようだが」
「ウィードに?ユリイカ草じゃないのか?」
「接触不良か?」
「からくりじゃないんだからさ・・・」

 エディンとギルの間抜けた会話に、肩を落としてジーニはつっこんだ。
 その理由は分かってみれば納得できるもので、戦闘後に「どう?」とジーニから訊かれたエディンが反応したウィードを調べていると、目の前で見る見るうちにそれは青いユリイカ草へと姿を変えたのである。

「・・・このユリイカ草からは特に強い魔力を感じる。洞窟内に充満した霊気の影響で、ウィードに変化したんじゃないだろうか?」

 アレクがじっくり考えてから口に出した意見に、一同はなるほどと膝を打った。
 その青い草を手際よく濡らしたハンカチに包み、そっと荷物袋に入れると、ギルは「これで後1個だな!」と言った。

「そうね、ええと・・・紫のユリイカ草がまだだわ」
「この奥か・・・ちょっと先行してみる」

 エディンはミナスへノヅチを預け、一人で様子を見に行った。
 すると、そう長い時間待つこともなくエディンが戻ってきたのだが・・・どうにも、釈然としないといった顔をしている。
 アウロラが首を傾げた。

「何があったんですか?」
「何がっつうか・・・・・・。うん、見てくれれば分かる・・・」

 こういう時のエディンは、他の仲間が正確に状況を判断できるように、むしろ詳しく分かりやすく説明してくれるのだが・・・。
 それをしないということは、よほど突拍子も無い事があったということである。
 やや不安げに他の一同は顔を見合わせたのだが、エディンの顔は困惑こそあれ危険や悲嘆などとは無縁なように見える。

「分かった、自分で見てみる。行こう」

 ギルの呼びかけで、彼らはその「突拍子も無い」場所へと進んだ。

「ここが洞窟の最奥か」

 今までよりいっそう長く垂れ下がる鍾乳石を見上げて、アレクが言った。
 そしてその下には・・・・・・。

ユリイカ12

「ユリイカ草の群生地みたいだな。ひい、ふう、みい・・・。とにかくすごい数があるぞ」
「なるほどねえ。こりゃ、見れば分かるって言いたくなるわ」

と、ジーニが杖の髑髏で前髪をつつきながら呟いた。
 とにかく、依頼人のためにも必要な分は全部採取しようと、エディンがユリイカ草を掴み摘み取ろうとするが、ノヅチは全く鳴く気配が無い。

「・・・・・・ん?反応しない?」

 彼が首を傾げたその時、伸ばした腕に突き刺さるものがあった。

「ぐお!!!」

 突然地面から突き出したそれはは、木の根っこのような形をしている――変異植物とやらの一種だろうか?

「――来るぞ!!」

ユリイカ13

 アレクが愛剣を抜き放ち、エディンに刺さった部分を斬りおとした。
 背後からも化け物たちが現われ、すでに退路を塞いでいる。
 周りを取り囲まれた、ということだ。

「上等だ!やってやらあ!」

 ギルが斧を振り回し、エディンやアレクも加勢する。
 事態が早く決着を見たのは、「元が植物なら火に弱いのではないか」と考えたミナスの魔法のおかげであった。
 彼が唱えた【業火の嵐】が、洞窟内の水気を一気に蒸発させるほどの勢いで辺りをなぎ払い、敵を黒焦げに変えていった。

「ミナス、ありがとう。おかげで早く終わりましたわ」
「えへへ・・・。でもビックリしたね。あんな敵もいるんだね」
「まさか魔物が化けているなんて。・・・予想外でしたね」

 足元の木炭にしか見えないそれを眺めながら、アウロラが言う。
 それに頷きながら辺りを探索していたエディンが、深々としたため息をついた。

「残ったのはこの3つだけか。ったく、魔物どももやってくれる」

 ノヅチで確かめながら、慎重にユリイカ草を摘み取る。

「緑が2つに紫が1つか。今まで手に入れたのを合わせると全部で6つ」
「これで依頼は達成だな。早いとこ、ここから出よう」

 アレクの言葉にすぐ動こうとした一行を、アウロラが止めた。

「ちょっと待ってください。かすり傷とはいえ、一応手当てはしておきましょう」
「そうだな・・・。トール!」
「ハイハイ、お呼びでんな」

 黒っぽい外套の懐からまろび出てきた雪の精霊は、エディンの腕にできた傷口をその魔力でゆっくりと塞いでいった。

「これでええんとちゃいます?」
「ああ、すっかり良くなった。ありがとよ、トール」

 エディンは怪我する前となんら変わらない状態に戻った自分の体を撫で擦りつつ、得意げな顔をしている小さな精霊に礼を言った。

2013/05/01 06:39 [edit]

category: Eureka

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top