Wed.

Eureka 2  

 翌日。
 霊媒洞付近の森にて――。

「ぎゃあああああああ!」

 森の中に、”金狼の牙”たちの悲鳴が響いていた。
 彼らの足には、地元の猟師が仕掛けたらしい見るからに頑丈そうな罠が噛み付いていた。トラバサミだ。
 珍しい回復の力を秘めた木の実を見つけ、そちらに歩み寄ろうとした瞬間、エディンの鋭い目でも見抜けないほど巧妙に隠蔽されていたそれらが、彼らの足止めを行なったのである。

ユリイカ5

「だぁあああああ!!何なんだ!これは!!」
「こんなすぐそばに同じ罠を何個も仕掛ける?普通に考えてよ!」

 ギルとミナスが手持ちの武器で一生懸命に叩き壊そうとする中、鞘がついたままの≪黙示録の剣≫を構えつつアレクが言う。

「でも今の俺達を見る限り効果は絶大だよな」
「とにかくさっさと罠を外しましょう。こんな状態で魔物にでも遭遇したら、さすがにまずいですよ」

 そうアウロラが指摘した時、緑濃い森の中に、ある生き物の咆哮が響き渡った。半ば以上その正体を察知しつつも、なおミナスは「・・・何?」と言わざるを得なかった。
 咆哮とともに現れたのは巨大猪。通称、ワイルドボアであった。
 その性質はきわめて好戦的で、人里近くに出現する害獣でもある。≪狼の隠れ家≫にワイルドボアの駆除依頼が来ることもあった。
 つうとギルの背中に冷や汗が流れる。

「・・・なんだかやばくないかい?」
「やばいどころじゃないですよ、早く罠を外しましょう!」

 ”金狼の牙”たちが急いでトラバサミに掛かろうと手をかけたのと同時に、6頭の猪たちは猛烈な勢いでこちらめがけて突進してきた。

「きゃあああああ!!!こっちに来ないでぇえ~~!!」

ユリイカ6

「ベ、ベンヌ!!影から出てきて!」

 ジーニが彼女らしからぬ悲鳴をあげる中、ミナスが霊媒洞の霊たちを警戒し、予め影に潜ませていた晃鳥ベンヌに呼びかける。
 神聖な気を伴った炎を発する金の鳥は、小さな影から素早く飛び出すと、土煙を上げて突撃する猪たちを焼き上げた。

「ブ、ブルゥ・・・」

 こんがりと焼けた6頭の猪たちは、どうと重い音を立てて倒れる。
 バクバク鳴っている心臓の辺りを押さえつつ、エディンは額の汗を拭った。

「し、死ぬかと思った・・・」
「不用意に道を外れるのはよそうね。ここはトラップの森だよ・・・」
「そうだな・・・お前さんのおかげで助かったよ」

 そして各自でトラバサミを外し、名もなき薬草による簡易的な手当てを行なった彼らは、また霊媒洞を目指して歩き始めた。
 しばらく穏やかな行軍が進んだが、やがて小さな小川に行き当たる。
 やや目を眇めたアウロラが、何かに気づいて指をさした。

「・・・皆さん、あれを」

 楽器だこのついた指の先には、ぽっかりと洞窟が穴を開けている。貰っていた地図と照合すると、霊媒洞で間違いないようだった。
 じっと穴を見つめていたミナスがぶるりと身を震わせる。
 地上に漏れ出てきている洞窟内の霊気を察知したものらしい。

「・・・・・・用心して行こう」

 アレクの台詞に全員が首を縦に振った。
 入り口から下へと続く岩の階段を下がると、少し開けた場所に出た。
 近くの岩肌からは水が滴り落ち、耳を澄ますと川のせせらぎが聞こえる。

「・・・外と比べると洞窟内はひんやりしてるわね」

ユリイカ7

「いえ、むしろ寒いくらいかと。これも洞窟内に充満してる霊気の影響なのでしょうか?」
「あんまり長居したくないとこだね。さっさと用を済ませて帰ろうよ」

 最年少の意見に女性陣も同意する。
 エディンが周囲を探索すると、奥のほうからさまよい出てきたウィスプが辺りを漂っていたが、やがてそれは武器を構えていた”金狼の牙”たちを無視してどこかへ消えていった。

「・・・・・・ウィスプだ」

 ぽつりと呟いたギルにアレクが頷く。

「だがこちらには目もくれなかったな・・・何か他に気になるものでもあったか」
「とにかく見つからなかったのは幸いだ。今のうちに進んじまおうぜ」

 エディンが先頭に立って探索を再開すると、奥のほうへ進むにつれ、霊気のほかに洞窟内の水気も濃くなってきた。
 周りの景色が鍾乳洞のような按配になってくる。
 ぴちょん、と上から滴り落ちた水がブーツに撥ねた。

「見てください、ウィスプたちがいます。それと・・・」

 白く透ける体の向こうの草を目で示し、アウロラは続けた。

「向こうに見えるのはユリイカ草ではないでしょうか?」
「どれどれ」

 懐から魔法生物のノヅチを取り出したエディンは、その反応を確かめようとした。

ユリイカ8

「・・・反応しないな。もっと近づかないと駄目か」
「ということは、あれと戦うってことだね」

 ミナスの囁きに彼は頷いた。
 ふよふよと漂うウィスプたちは大した脅威でもなく、最後にジーニの旋風が残った霊たちを駆逐すると、そこには一本の草が残されているだけだった。

「どうだ?エディン」
「にゃーにゃー鳴いた。ユリイカ草に間違いないな」
「よし、このまま進もう」

 洞窟内はキクの言っていたとおり、グネグネと曲がってはいたが基本一本道である。
 何度目か分からないカーブを曲がろうとエディンが足を踏み出した時、懐のノヅチが「にゃあ」と鳴いた。

「今、ネズミもどきが反応したぞ。この近くにあるのかよ?」
「・・・どこだ?それらしきものは見当たらないが・・・」

 ギルが辺りに視線を這わせていると、アレクがその肩を叩く。

「おい。もしかしてあれじゃないか?」

 彼がランタンを高く掲げると、エディンのちょうど真上の壁に橙色の草が照らし出された。

「お、アイツか。でも相当高い場所にあるなァ」

 エディンが岩壁の様子を窺う。
 しっとりと水に覆われている壁をよじ登るのは不可能なようだ。
 その意見を尖った耳に入れたミナスが、細い手首にはめた腕輪に触れ、かなり言い慣れているコマンドワードを口にする。
 ふわり、と華奢な体が宙に浮き上がった。

「それじゃあ取ってくるよ」
「ミナス、気をつけてくださいね」

 心配そうなアウロラの声に小さく笑って返すと、彼は羽毛のように天井近くまで浮き上がった。幸い、妙な敵の気配は感じ取れない。

「・・・よっと!」

ユリイカ9

 小さな体を伸ばしてユリイカ草を無事採取すると、彼はのんびりと仲間たちの下へ降下した。
 ノヅチを近づけ、本物であることを確認する。

「あと2種類だな」
「ああ。では先に進もう」

 ランタンを持ち直してアレクが言った。

2013/05/01 06:37 [edit]

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