Wed.

Eureka 1  

「・・・ぷはぁーー!!あー、生き返る~~!」
「アレク、やめてよちょっと!おっさんくさいわよ!」

 一気にエールを煽ったアレクと、傍らでちびりちびりと強い酒を嗜んでいたジーニの会話に、カウンターの亭主がけらけらと笑い出した。

「お前さん、いい飲みっぷりだねえ。もう一杯いくかい?」」
「ああ、頼む」

 ここはリューンへと続く街道に位置する村酒場。
 ”金狼の牙”たちは遠出の仕事を無事に終えて、リューンの宿へ帰る途中であった。

「あんたら、その身なりからして冒険者だろ?どっから来たんだい?」
「ヴィスマールからです」

 アウロラがブランデーを垂らしたホットミルクを片手に答えると、亭主は感心したように何度も頷いてから言った。

「そいつはまた、えらく遠くじゃねえか。今日はうちでゆっくりしていけよ」

 ”金狼の牙”たちは宿の亭主と仕事の話や、自分たちの冒険談などでひとしきり盛り上がった。

「ほう、お前さん方、見かけによらずスゲエんだな」
「そうだぜ。俺たちみたいな偉大な冒険者には滅多にお目にかかれるもんじゃないんだ」

 自分で堂々と宣言してみせたのはギルである。
 亭主は愉快そうに腹を抱えて笑った。
 酒の味も客の入りも上々。いい酒場だ。酔いに身を委ねていたアレクが店内をゆっくり眺めていると、あるものに目が留まる。

ユリイカ1

「なあ、親父さん。あそこの張り紙は何なんだ?」
「ああ、あれは仕事の依頼書さ」

 使い込まれてよく光る欅製のカウンターを拭き清め、彼は説明を始めた。

「ここはリューンや他の大都市とを結ぶ街道の中継地でな。毎日ひっきりなしに色んな連中がやってくる」
「ふーん、冒険者の宿みたいだね」

 普通のホットミルクで干し葡萄入りのパンを流し込み終わったミナスが感想を述べる。
 亭主は小さく首肯した。

「そんな奴らの頼みを聞いてるうち、いつしか冒険者宿のような真似事をするようになったのさ」
「どんな内容があるの?」
「内容は行商から護衛など、田舎にしちゃあ結構あるぜ。興味があるんなら見てみな」
「うん!」

 高いスツールから身軽に飛び降りた小さなエルフは、張り紙のほうへと寄っていく。
 片肘をカウンターについていたエディンも、

「へえ~。もしかしたらいい儲け話があるかもしれないな。ちょっと見てみるか」

などとちょっと興味を引かれた様子である。

ユリイカ2

 結局ほかの面子も覗き込んでいると、不意にギルが一枚の張り紙に注視した。

「・・・ん~と、なになに?」

 彼が手に取った羊皮紙には、『森ん中の霊媒洞からユリイカ草を摘んできてくれる方を募集してるだ。報酬には600spを用意しておる』とある。
 羊皮紙の一番下に書かれている依頼者の名前を見て、ジーニが「へえ」と漏らした。
 そこには、『錬金術師キク=ヤクシ』と書かれていた。
 この辺りでは、聖北教会の勢力もさほど強くは無いのだろう。
 禁断の学問と見られがちな錬金術を修めている者は、狂信的な聖北教徒から弾圧されることも多い。もし教会勢力が目立つような場所ならば、このように堂々と錬金術師を名乗って依頼を出すというのは難しいはずだ。
 ちなみにジーニが錬金術師を名乗っていないのは、弾圧を恐れているからではなく、ただ単に本人が賢者であることに固執しているからである。
 そのくせ使用している魔法の媒体は≪死霊術士の杖≫で、最近の趣味は練成だったりするのだからよく分からない。
 そうやってやいのやいの張り紙に注目していると、彼らの後ろを通りかかった少女が、こちらを見て足を止めた。

「お前さん方、その仕事に興味あるんか?」

 見た目の年はアレクと同じくらいだろうか、珍しい白蛇を首に巻きつけている。ペットというよりは使い魔であろうか?
 前の仕事でワコクまで取りにいった≪着物≫を来ている彼女に、戸惑った様子のギルが頭を掻きながら返事をした。

「・・・あ?別にそういうわけじゃないが」
「・・・もしかして、あなたがこの仕事を依頼なさったのですか?」

 アウロラの言葉に彼女は浅く頷いた。

「ああ、そうじゃ。丁度今、研究に使うユリイカ草を切らしちまってよ。誰かんに採ってきてほしいんじゃ」
「・・・・・・ふむ。話くらいは聞いてみるか」

 エディンが勧めた椅子に腰をおろした依頼主は、

「おお、そうか!えがった、えがった。わっちはキク。この村で錬金術を研究しとる」

と笑顔になって自己紹介を始めた。

ユリイカ3

「俺はギルバート。リューンの冒険者だ」

 ”金狼の牙”たちも、リーダーが名乗ったのを皮切りに次々と自己紹介をした。
 落ち着いた辺りでギルが頼む。

「じゃあ早速、依頼について話を聞かせてくれるか?」
「話が早くて助かっぺ。まずはこいつをみてくんなよ」

 キクは袂から青々とした一本の草を取り出し、皆に見せた。
 しげしげとそれを眺めていたアウロラが、「・・・これは?」と訊ねる。

「これはユリイカ草といってな。わっちら錬金術師が使う、魔法の草なんじゃ」
「・・・ってことは、アンタは錬金術の中でも、本気で金を作るほうじゃなくて薬品とかそっちを扱う系統なのね」

 ジーニの指摘は確かだったようで、キクは特に反論することもなく話を続けた。
 ユリイカ草というのは非常に貴重であり、この辺りでは外の森の中にある霊媒洞という洞窟にしか生息していないらしい。
 わざわざその採取を金を出して冒険者に依頼するからには、相応の危険もあるのだろうと聞いてみると、意に反して彼女はのんびり首を横に振った。

「こっから霊媒洞までの森ん中は特に危険はないな。たまに猪が出るぐらいじゃ」
「・・・・・・ふん?」
「霊媒洞までは道もあるし迷うことはないと思うが、一応、森ん地図は渡しどぐ」

 エディンが腑に落ちないといった態に眉をしかめたのに気づき、キクはピッと人差し指を立てた。

「問題は霊媒洞の中だっぺ、霊のたぐいがウヨウヨしちょる。あとは霊気にやられておかしくなった変異植物もいたがな」
「霊のたぐいか。なるほどな」

 眠たげな黒瞳が、すっと緋色の髪の僧侶のほうへと動いた。
 依頼者の話が確かであれば、バンシーやレイスといった危ないアンデッドは見た事がないそうだから、彼女の【浄福の詠歌】があれば大体は対処できるだろう。
 酒場の亭主に分けてもらった羊皮紙へメモを取っていたジーニが振り返る。

「霊媒洞の中の構造は分かる?」
「ぐねぐね曲がっちゃいるがほぼ一本道じゃよ。んだども、道が狭いんでそこは気いつけんしゃい」
「ユリイカ草はどうやって探そうかしらね・・・正直、あたしならともかく、他の仲間じゃ雑草と間違えるわよ」
「うむ。素人ではなかなか見つからんじゃろうな。こいつを貸しちょる」

 ぶら下げていた朱鷺色の巾着から、依頼者はそっと「あるもの」を取り出した。それを目にしたミナスが目を丸くする。

「なあにこれ?ネズミ・・・?」
「こいつはノヅチといってな。魔法生物の一種じゃ。こいつは近くにユリイカ草があると鳴くんじゃよ」

 実際に先ほど袂に入れていたユリイカ草を近づけられると、ノヅチはみゃうみゃうと高く可愛らしい声をあげて鳴いた。
 その愛らしい様子にミナスが目を細め、小さい手でノヅチを撫でる。
 ユリイカ草には4種類あり、全種を採取するのが彼女の希望だという。

「最低でも4束は欲しいがな。それで600spわだす。あとはわっちの気分次第じゃ」

ユリイカ4

「・・・ずいぶんとアバウトね。まあいいけど」
「植物の採取くらいならやってもいいんじゃねえか、リーダー。専用の魔法生物がいるなら、それほど時間のかかるものじゃなさそうだし」
「そうだな~。じゃ受けてみるか」
「おお!そうかそうか!さすがは偉大なる冒険者じゃ」
「・・・・・・キクさん、あの話聞いてたのかよ・・・」

 ノヅチと森の地図を渡された”金狼の牙”たちは、その日は早めに休むことにし、翌朝から目的地へと向かうことにした。

2013/05/01 06:21 [edit]

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