Sun.

グライフの魔道書 5  

 数十分後。
 ”金狼の牙”は、ミレイと思わしき人影を捕える事に成功した。

(いた・・・。あそこだ)

 エディンの囁き声にミナスが反応する。

(うん、ここからじゃよく分からないけど、多分そうだろうね。生命の反応がそれっぽいもの)

グライフ15

(!?おい、他にも誰かいるぞ)

 エディンに促されるまでもなく、もう一人誰かが居ることには全員が気づいていた。

(仲間・・・かしら?気づかれないように近寄ってみましょう)

 ジーニの指示に、エディンがヘマすんなよと囁く。
 アレクがそこでやっとニヤっと笑った。

(そっちこそ)

 気配を殺し、できるだけ物音を立てず接近を試みる。
 すると・・・もう一人――ローブ姿の男から、

グライフ16

「ご苦労だったなミレイ」

という台詞が聞こえてきた。

「軽々しく呼ばないで!」
「それは失礼・・・約束の物は持ってきたろうな?」
「答えを知ってるくせにわざわざ聞く奴はキライなのよね!」

 憤然とした様子のミレイに、ローブの男は顔色を変えることもなく応えた。
 偉そうな物言いの割に、案外と若い顔立ちをしている。
 アウロラのそれよりも幾分か薄い赤の髪と瞳は、緑の濃い森の中では異質なほど浮いて見えた。

「おや?どういう事かな?」
「とぼけないでよ!遠見の魔法で私の行動と会話を盗み見てたくせに!」
「・・・ほう、気づいていたか。見た目より優秀な冒険者のようだな」

 ローブの男は腕組みしていた手を解き、ひらりと左手を振った。
 つまり――今回の件は、このローブの男がグライフの魔道書を欲したことが発端であったようだ。

「ま、だからこそキミに協力してもらおうと思ったのだがね」

グライフ17

「あなたに褒めてもらったってちっとも嬉しくなんかないわ!それよりトリスはどこ!!」
「キミと一緒にいた冒険者の彼女かね?もちろんいるとも。”それ”と交換の約束だからな」

 ミレイは本を固く抱きしめて言い募る。

「ならトリスに会わせて!」
「そいつを渡してくれれば返してやるさ」
「彼女に会うのが先よ!」

 さすが盗賊というべきか、こういう交渉においても彼女は目的を達することは忘れないようである。
 存外に強情なミレイの態度に舌打ちしたくなったが、それをこらえて男は「・・・いいだろう」と言った。
 3語ほどのルーンを呟くと、彼は傍らの大木の陰に向かって指示した。

「足元の戒めだけ解いてやった。ゆっくりと出て来い」

 ゆっくりとした足取りで、エルフと思われる少女が木陰から姿を見せた。
 ≪呪符≫のようなものをたくさん身につけているところからみると、どうやら彼女は”呪符魔術師”という、符を媒介にすることで魔力を高める種類の魔術師らしかった。

「トリス!無事だった?・・・えっちな事とかされてない?」

 ミレイのとんでもない言葉に、エルフらしき娘は抗議するように身を揺らした。だが、その口からは声が発せられていない。
 たちまち、藤色の眉がしかめられる。

「!?」
「魔法を使われては面倒なのでね。彼女には沈黙しててもらっているよ・・・彼女の代わりに、先ほどの質問にも答えておこうか」

 ローブの男は堂々とした挙措で、それ以上ミレイとトリスと呼ばれた娘が近づくのを止めつつ口を開いた。

「安心したまえ。人質に危害を加えたりはしていない・・・悪いが何の興味も感じないしね」

 それはそれで失礼な話ではある。案の定、トリスはすっかり怒りの表情に変わり、地団駄を踏みそうな雰囲気を漂わせていた。
 ・・・・・・と、それまで彼らの様子を伺っていた”金狼の牙”にも、ようやくミレイの不審な行動の理由が分かったわけである。
 そういうことだったのかと腑に落ちた表情のジーニの頭の中で、素早く計算機が動いている。この状況を打破する為には・・・。

(となると・・・・・・)

 彼女は身振りだけで仲間に指示を出した。

(仕方ありませんね)

 小さく頷いたアウロラや他の仲間たちは、その意図を的確に理解し即座に行動に移す。無論、物音には細心の注意を払わなければならない。
 幸いにして、一番やかましい音を出しそうな男には、≪霧影の指輪≫という便利なマジックアイテムを渡してある。
 これは盗賊の【闇に隠れる】という技のように、暗闇に同化して隠れてしまう効果を持っている。洞窟から見つけた碧曜石と大精霊の護衛料に貰った紅曜石で、ジーニが練成したものであった。
 舞台裏で彼らが移動している間にも、ローブの男とミレイの取引は続いていた。

「・・・いいわ。ここに置くからトリスをその場に残して取りにきなさい!」

 そう言うとミレイは魔道書を地面に置き、自分は後ろにさがった。
 魔道書に呪文遮断の呪札を貼り付けてあることを目視で確認した男は、今度こそ舌打ちをしたが、

「・・・抜け目の無い女だな。いいだろう」

と言って、ミレイに言われたとおりトリスを置いて魔道書を取りにいく。

グライフ18

(いまよ!!)

 ジーニの合図とともに、”金狼の牙”は一斉に飛び出した。人質となっていたトリスを助け出す為に――。

「――!!何!?」

 男が濃紺のローブを翻して振り返った先には、拘束を解いてもらったトリスの姿と、こちらをねめつける冒険者たちの姿があった。
 クスッとその様子を笑ったジーニが、奥にいるミレイに声をかける。

「これでいいんでしょ?ミレイ」
「ジーニ~!よかった、あなたならやってくれると思ってたわ」
「ミレイに利用されていただけの冒険者が・・・何故ここに!?」

 男の台詞を、ジーニが鼻先で笑い飛ばした。

「ミレイとあたしたちの方が一枚上手だったって事よ!」
「・・・だが、まぁいい。魔道書さえ手に入れば他はどうでもよい事だ」

 ギルが金色に輝く魔法の斧を構える。

「おっと!そういうわけにはいかないな。そいつが無いと報酬がパーになっちまう」

 だがローブの男は口を歪めて嘲った。

「報酬・・・?」
「そうじゃないわ!その魔道書じゃないの!!」

 意外なことに、そう叫んだのはミレイであった。

「なんだって?」
「そいつなの!!今回の獣人化の騒ぎの元凶は!!」

 そしてミレイは、男の名前を明かす。

「ラルゴ・A・ウルフ!全てはその魔道書欲しさに彼が仕組んだ事!!」
「そうかお前が『赤き狼』か!召喚術と幻影術、さらに暗黒魔術まで手を染めた魔道士・・・赤き狼、ラルゴ・A・ウルフ」

 アレクは賢者の搭出身者である母から得ていた知識の中にあった情報を思い出した。愛剣である≪黙示録の剣≫の切っ先を向ける。
 魔力の宿った鋭き刃には目もくれず、男は余裕の構えだ。

「フッ。ではどうするね?」
「決まってるじゃない!なら尚のこと、黙って帰す訳にはいかないわね!!」

グライフ19

 ダンッ、と足を一歩踏み出し、杖の先の髑髏を向けてジーニは宣言した――まさにそれは宣言というに相応しいものであった。

「ブラウム村のため、あたしたちの報酬のため、あたしたちやミレイたちの恨みのため!ここできっちり落とし前つけてもらうわよ!」

2013/04/28 14:03 [edit]

category: グライフの魔道書

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