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Sun.

グライフの魔道書 1  

 ギルは≪狼の隠れ家≫の中を見て呟いた。

「・・・なんだかみんなあわただしいな・・・」

 「騒々しい」という日はよくあったが、この日は違っていた。
 明らかに「慌しい」のである。
 幼馴染の傍らで、≪魔鋼の篭手≫を無言で手入れしながら考えをめぐらせていたアレクは、ふと思い出した。
 そう、こんな日は決まって「大きな依頼があった」日だったと。
 仲間の呟きをきちんと耳に入れていたアウロラは、ちょうど近頃書き溜めている楽譜の束を整理し終わったところである。

グライフ1

 「理由を聞いてみますか」

と、羊皮紙を丁寧に丸めて言った。
 首を縦に振る仲間たちを確認し、彼女はカウンターの向こうへ呼びかける。

「親父さん、何かあったのですか?」
「何かって・・・お前達、何も聞いてないのか?」

 意外そうな親父さんの台詞に、”金狼の牙”は顔を見合わせた。
 好奇心ではちきれんばかりになったミナスが、目を輝かせて続きをせがむ。

「だから何を?」
「ふぅ・・・うちの宿でくつろいでくれるのは結構な事だが、あまり呑気なのは考え物だぞ」
「焦らさないで早く言ってよ。僕、早く知りたい!」
「まあいい、ブラウムの村は知っているな?」

 ≪狼の隠れ家≫があるリューンからも程近い、そこそこの大きさの村である。恐らく、ちょっとした財源でもあれば今頃は町と呼ばれるくらいにはなっているだろう。
 こくりと首肯した面々を見渡して親父さんが告げる。

「1週間ほど前から大変な事になっとる。・・・これも知らんのか?」
「その村なら知ってるが・・・大変な事ってのは?」

 エディンが剃り残した無精ひげを摘みつつ訊ねると、親父さんは呆れた顔をして結論を言った。

「獣人化だ・・・」

 思いもかけない親父さんの返答に、髑髏の杖を適当に振り回していたパーティの知恵袋がたちまち柳眉を顰める。

「獣人化?」
「突如として村人が次々に獣人に変化してしまったんだよ。それも全村民の3分の1がな」
「はあ!?」

 間の抜けた大声を上げたのはエディンである。しかし、他の仲間たちもやはりあんぐりと口を開けていた。

「そんなにも!?なんで?原因は?」
「不明だ。もともとそういった血統の者はいなかったし、事件直前に獣人やモンスターが出没した様子も無い」
「うーん・・・何の前触れもねぇのか・・・」
「全く普通に生活していた住人が突然変化し始めたんだそうだ。1週間前から次々とな」

 気分を落ち着かせようとする無意識の表れか、長い指を蒼い≪スワローナイフ≫の柄でタップさせながらエディンは質問を続けた。

「被害が広がってるのか?」
「いや、獣人化の進行は2日間だけだ。それ以降は誰も変化しておらず、被害の拡大には至っていない」
「・・・妙な話だな」

 ぽつり、と漏らした声は、だがこれ以上ない真剣味を帯びていた。
 ”金狼の牙”が実際の冒険で獣人化する敵と戦った覚えは無いが、エディンのそれなりの人生経験の中でもそんな獣人化現象は聞いた事が無い。
 そもそも獣人化が厄介なのは、獣人へ変化することにコントロールができない者が多いことや、獣人化の感染が早いことが挙げられる。
 一度獣人化した者がいる場合、もとの人間に戻るのが難しいということも、この問題の厄介さの一端であった。
 そんな真顔のエディンの横で、肘をついたジーニが親父さんに「ねえ」と問う。

「で、その獣人化というのは・・・まさか猫系じゃないでしょうね?」

 彼女の脳裏に浮かんだのは、恐らく月獣と化した猫族・イリスから受けた仕打ちと苦くて懐かしい思い出のことだったのだろうが、そんなことは知らない親父さんは普通に応対しただけだった。

「人虎(ワー・タイガー)の類か?いや、ハズレだ。人狼(ワー・ウルフ)系に近いという話だ」

 「≪狼の隠れ家≫に来たのが人狼の問題かよ・・・」というギルのぼやきをよそに、アウロラは気になった点を口にした。

「近い、というのは?」
「似ているが、違う可能性もある。としか言えんらしい」
「なんだそりゃ。ハッキリしてないのかよ」
「うむ」

 要領を得ない難問を嫌うギルらしいしかめっ面に、親父さんは頷いてみせた。

「ともかく、原因も全く分かっておらんからな。今は無事な村民も『自分も獣人化してしまうのでは?』と不安がっている」
「あ、ウルフといえば、親父さん以外にもそんな名前の凄腕魔道師がいましたね、たしか」

 現役時代の二つ名が”光輝の狼”というこっ恥ずかしいものだった親父さんは、未だに本名不明である。
 それは”金狼の牙”だけではなく、他の先輩冒険者たちですら知らないトップシークレットというやつだったりする。
 仕方ないので親父さんを名前で呼ぶ必要がある時は、皆ウルフと呼んでいる・・・という話だ。もっとも、宿の寄り合い以外で親父さんを名前で呼ぶ人間がいるのかどうかは分からないが。
 アウロラの指摘に、ハイオートンとイリスごと高所から落ちた時の記憶を何とか追っ払ったジーニが首肯した。

グライフ2

「ああ、『赤き狼』ね。相当できるらしいけど・・・」
「おいおい、話を脱線させんでくれ」
「あ、悪りぃ」

 謝罪したエディンは、ようやっと柄から指を離した。
 親父さんの注意に面白くない顔をしていたジーニだったが、急に「あ」と声をあげた。

「獣人化について一つ思い出した事があるわ」

 エディンが頬杖をついて訊ねる。

「なんだ?」
「満月の夜に獣の足跡に溜まった水を飲んでしまうと・・・!」
「獣人に変身してしまうって話?僕もかすかに聞いた事があるよ」

 まだ父親が生きてた頃に聞いた、という最年少の話を「ふーん・・・」とかすかに頷いて聞いていたエディンだったが、やがて頬杖をやめて問いかけた。

「でも、その話、本当の事なのか?かなり胡散臭いけど」
「実際にあったらしい。・・・って、聞いたけど」

 伝聞だから、と肩をすくめたジーニの前のカウンターを、親父さんが厚い手の平で軽く叩いて注意を引く。

「・・・話を戻していいか?真偽はともかく、村民3分の1がそんな水を飲むはずがなかろう」
「それもそうですね」

 あっさりとアウロラが同意する。
 ちょっとむくれたジーニが「それで獣人化を治す方法は?」と質問すると、親父さんは鼻の下の髭を左手で撫でつつ答えた。

「ああ、村人からも3000spで依頼が出ておるからな。結構な数の冒険者達が色々探ってはいるが・・・」
「それもまだ分かっていない・・・という事ね」
「いくつかは候補があるんだがな」

 親父さんの説明によると、現在解決法として有力視されているのは2つ。
 まずは住人に気づかれないように徘徊している獣人の仕業と推定し、その獣人を探し出すという方法。
 こっちは、犯人さえ分かれば後は何とかなる・・・という考えで行なわれているのだろう。
 可能性は確かに高いが、未だにその獣人が存在するということすら証明できていない。
 説明をしている親父さんの顔を見て、ギルがにやりとした。

グライフ3

「親父さんはこの説にはあまり賛成じゃなさそうだね?」
「フッ・・・相変わらずそういう所は鋭いな。ま、ただの勘でしかないがな」
「親父さんの勘はよく当たりますからね」

 自分のところのリーダーのように、とアウロラは心中で付け足した。全く、親父さんとギルときたら、本当に妙なところで勘が鋭かったりするのだ。
 もう一つは、と促すとすぐ親父さんは口を開いた。

「『グライフの魔道書』というのを知っておるか?」
「何よ、それ?」

 専門家であるジーニにも思い当たる事の無い名に、他の面々は顔を見合わせた。
 親父さんの様子からすると相当に長い話になりそうだと判断したミナスは、「簡単に教えてね」と釘を刺した。

「ま、詳しくは割愛するが、その魔道書に記されている魔法ならば・・・という話だ」
「こっちが親父さんの本命なの?」

 無邪気で真っ直ぐな双眸に見つめられ、親父さんは苦笑する。

「どうかな・・・話の出所が不確か・・・というのが気になる」
「じゃあ他に・・・?」

 何か勘に引っかかるものがあるのか、と言わんばかりのジーニの口調にも彼の苦笑は続いていた。

「他のも正直な・・・ま、どれかと問われれば、わしも魔道書説をとるが・・・」
「・・・」

 無言のエディンが自分のブルネットをくしゃくしゃと弄った。
 話の出所が不確か、というのは、「誰かが何らかの目的でわざと流した噂である」という可能性も存在するのである。
 流言蜚語を上手く使い分ける技術は盗賊ギルドでも習うことがあるが、この時エディンが案じていたのはそのことであった。
 すると。

「私もその意見に賛成だな」

 凛とした可愛らしい声が響いた。

「ミレイ!」

 驚きの声を挙げたギルの背後に、いつの間にか藤色の髪をショートカットにした娘が立ち、こちらに向かって手を振っていた。

「はぁい♪ギルバート元気そうね」

 彼女の名はミレイ。
 ギルたちと同じく冒険者である。
 拠点は別の宿に構えているが、活動地域は広いようでここ≪狼の隠れ家≫にも時々やってきている。明るく人懐っこい性格で、宿の親父さんはもちろん、常連の冒険者たちとはすでに顔なじみである。
 無論、暇を持て余しては宿でのんびりしている”金狼の牙”たちも例外ではない。
 久々に見た顔に喜色をあらわにしたミナスが近寄った。

グライフ4

「ミレイさんもこの件を?」
「ま~ね、依頼料もいいし。・・・で、親父さんが何かつかんだって聞いたけど?」

 つぶらだが油断の無い目つきで彼女は見やる。

「耳が早いな・・・おそらく、といったレベルだが魔道書の在り処が判明したよ」

 親父さんの台詞に、一同は「えっ」と言ってカウンターへ身を乗り出さんばかりに移動した。
 急かすミレイの声に、親父さんが人の悪い笑みを浮かべる。

「情報料は依頼成功時に報酬から500sp貰うがいいか?」
「OK♪ 私はそれでいいよ。ギルバート達は?」
「ああ、いいぜ。聞かせてくれ」

2013/04/28 13:59 [edit]

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