Thu.

異国の華 5  

「ここが・・・・・・」

 そう言ったきり絶句したエディンは、辺りの街の様子を彼らしからぬ落ち着きのなさで眺めやった。リューンでは見たこともない樹木が赤い葉を揺らし、その下を往く人々は奇妙な衣服を身に纏っている。
 いつも頼りになる最年長者の呆れるような姿に、ギルは背中を叩いて水を差した。

15異国の華

「おいおい・・・感動してる暇なんてないだろ?ドレスを探そう!」
「あ、ギル。あの人に聞いてみようよ」

 ミナスが示したのは、かつて屏風の怪物退治を依頼してきたサトウ氏と同じ、地味な色彩の服を纏った見慣れぬ髪型の青年であった。
 柔らかな微笑みを浮かべてアウロラが「すいませーん」と声をかけると、ワコクではあまり見ない色彩の髪と瞳を目にした青年がびくついて彼女を見やったが、自分たちの目的を何とか告げると、

「あーあ。それならあの店だよ」

と言って赤い布――のれん、と言うらしい―ーを飾っている質素な店を指した。
 のれんを潜ると、そこには美しい色彩のワコクのドレスが置いてあった。
 奥から現れた若い女性は、「いらっしゃいませー」と言って珍しい来訪者を見つめていたが、ふとその視線がアレクの上で止まった。
 神々しいに近い白皙の美貌を見て、頬を染める。

16異国の華

「・・・・・・??」

 まったく意味が通じていないアレクの背後で、ギルとミナスがこっそり話をしていた。

「全然女っ気がないんじゃないと思うんだよな、アレクの場合」
「あれって、天然で気づいてないよねきっと。」
「なまじ顔が桁外れに綺麗なだけに、厄介ごとばっかりやってくるんだろうな」

 その向こうでは、「はっ!!すいません!」と己を取り戻したらしい店員が直立不動となっている。

「あの・・・なにかお探しでしょうか?」
「買い物を頼まれてね、どれがいいかと思って」
「それでしたら!当店自慢の商品があるんです」

 彼女は意気揚々と紙の貼られた扉の向こうから出してきた衣服を、「これです!!」と言って一行の目の前に広げてみせた。

「お客様なら、ぜっったい!似合うと思いますよ!!」

17異国の華

「・・・・・・え?」

 間の抜けたアレクの返答である。
 それはそうだ、ここに並べてある衣服はドレス――つまり、婦人用のものだという認識であり、依頼主の話からもそれは間違ってはいない。
 なにをどう考えたら、ドレスを自分用に買い求めに来たことになるのかと、アレクは珍しく目を吊り上げて抗議しようとしたが、あっさりとその口はジーニの杖の髑髏によって封じられた。

「アンタはちょっと黙ってなさい。・・・ねえ、店員さん。これってどんな品物なわけ?」
「あ、はい!桜という植物で染めた着物です」

 彼女によると、沈黙を癒すという特殊な効果があるらしい。代価は銀貨で1000枚だというが、他の着物に比べればこれが段違いに上等な品であることは見れば知れた。

「異国の衣服展示、見るのは上流のご婦人たち・・・だもんね。やっぱりこれかな、どう思うアウロラ?」
「その・・・正直、これを見てしまうと他の品は・・・」
「そうよねえ・・・ちょっと店員さん。この服、一着包んでくれる?」
「はい!毎度ありがとうございます!」

 ・・・・・・こうして無事、ワコクのドレスというものを手に入れた”金狼の牙”は、その後にエディンが勝手に入っていた賭博屋で稼いだり(ちなみに賭博は17回やった)、道具屋で売っているものを≪狼の隠れ家≫へのお土産に買ったりして時間を過ごした。
 そして。

18異国の華

「すごい!!さすがだわ!!本当にワコクのドレスを用意してくれるなんて!!」

 タリサの顔つきは、まさに天にも昇る気持ちといった按配であった。

「冒険者として当然だよ」

と言って、エディンが片目を瞑る。
 小さくふふっと笑い声を上げたタリサだったが、ふとその目が寂しさと――郷愁に翳った。肩書きに相応しい小さく敏捷な仕事をこなす手が、そっと薄紅色の布地を撫でる。

「それにこの柄・・・きっと・・・これが桜なのね・・・・・・」
「知ってるのか?」

 エディンは年の功だけあって、一応ワコクでしか咲かない「桜」という存在があることを知っていた。
 この話し方であれば、恐らくタリサもエディンと同程度しか知らないのだろうが――リューンでは見ることのないその樹木のつける花を、見たことはなくとも知っているということだけで驚きに値する。
 彼女によると、彼女の父親がよく話をしていたのだと言う。ワコクに咲く、もっとも美しいと彼が思う花のことを・・・。

「私は実物を見たことないけど、きれいな花・・・。このドレスを見ればそれがどんなにきれいかわかる・・・」

 まるで目の前で咲いているかのように、と言って眼を閉じたタリサの脳裏には、確かに「桜」が咲き誇っていた。

「・・・・・・私には半分ワコクの血が流れているの」
「ああ。気づいてたよ。なんとなく向こうの人と顔が似てるんだ」

19異国の華

 エディンの肯定に、依頼主は顔を綻ばせた。

「そっか。うれしいな。父は本名浦部勝郎(ウラベカツロウ)っていって・・・れっきとしたワコクの人間よ。桜の花は・・・父の好きな花なのよ・・・」

 彼女の脳裏に咲く桜を垣間見たような気がして、ミナスが無言で彼女の顔を見つめた。
 精霊使いはえして感応力が強く、それによって自然界に溶け込んでいる精霊たちの力を借り受けることができるのだが、この時のミナスはそれを懐旧に浸るタリサとのリンクに使ったようだ。
 つぶらな濃藍色の視線をどう捉えたか、タリサは小さく彼に微笑んだ。

「ごめんなさい。脈絡もなくて面白くない話聞かせちゃって。報酬渡さないとね」

 そう言ったタリサは、なんと1800spもの大金を入れた皮袋をこちらに寄越してきた。
 ぎょっとした顔になったアレクが口を出す。

「多くないか!?」
「気持ちよ。あと・・・」

 事も無げに答えた後に、タリサは全員の顔を眺めやって付け加えた。

「よかったらあなた達も展示会に来る?あなたたちなら大歓迎よ!!」

 行く!と間髪いれずに答えた冒険者たちに、タリサは今度こそ満面の笑みを返したのであった。

※収入1800sp+1360sp、≪ビボ酒≫×2≪魔法薬≫×6≪梅酒≫≪彼岸花の薬瓶≫≪桜の着物≫※
--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳

60回目のお仕事は、annさんのシナリオで異国の華でした。構想から制作まで一ヶ月ほどだったというこちらのシナリオ、1~10レベル対象なわけは途中にあった「ワコクのドレスを手に入れる方法」での分岐だったりします。
”金狼の牙”はワコクに行きたいのとレベル対象に合わせて、結局戦闘コースに進んでいってしまったわけですが、サルベージとかやっても面白かったでしょうね。それから今回の選択肢には出てこなかったのですが、判定に成功すると裏通りの店で手に入れるというやり方も出てきます。ただ失敗は多そうですが・・・。

リプレイの流れとしてここで終わらせるのがすっきりしたので書きませんでしたが、シナリオではこの後、タリサの仕切る展示会での冒険者の様子というのもあります。ジーニは東西を問わぬ化粧の歴史に興味を持ちアウロラを実験台にしようと企んだり、金ぴかで豪華な着物を見てギルが東国の将軍とかの着物かな凄いな~、と言ってる横でそれは女性用寝巻きだと関係のない人に突っ込まれたり、なかなか落ち着かない鑑賞でした。(笑)
とりあえず、依頼人に父親の故国であるワコクの桜を見せられて満足です。

≪桜の着物≫は後日、宿に送り返されてプレゼントされます。沈黙を癒す効果があるのならジーニにと思いましたが、データよく見ると「沈黙時に使えない」着物なんですよね・・・沈黙を癒すのに沈黙時使えないとは、これいかに。仕方ないので売る予定です。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/25 12:25 [edit]

category: 異国の華

tb: --   cm: 2

コメント

すでに新作も来ていますが、60回おめでとうございます。
思えばここまで続いているリプレイ、他には見たことがないです。

カードワース世界の和風要素、探してみるとちらほら見つかりますね。
「兵法指南所ミフネ」や「暁の剣」などの刀技能は重宝しています。
雲耀の太刀あたりを持たせて(脳内で)示現流を名乗ってみたりとか。

せっかくの報酬が使えなかった点、なんとも残念です。
連絡先が生きていればバグ報告もできるんでしょうが、もう8年も前に更新終了してる様子。
「隠者の庵」みたく機会があるといいんですが。

URL | 堀内 #wKzDXcEY | 2013/04/29 18:33 | edit

コメントありがとうございます

60回へのお祝いの言葉、ありがとうございます。
いい加減に気ままにやってるのが、続いてるコツなんでしょうか・・・。カウンターがもう5000越していて、まるで他人のサイト見てるみたいです。(笑)

そうですね、最近では「東方武術もんじゅ」や「桜通りのあばら家」、「睡蓮庵」とかも出てきて、ますます和風要素のパターンが多様化して助かります。

桜の着物、よく考えたら売却せずにギルからエセルへのお土産にしたら良かったです。(´・ω・`)
今さら思いついちゃったけど、売っちゃったからなあ・・・。実はリプレイのために遊んでいて、「あ、脱字が」「あ、あ、このアイテムって」とか色々あったりしますが、それもまたリプレイ書きの醍醐味だったりするのでしょう。(笑)
それにカードワースをしばらくやっておられない作者さんもたまに覗いてくれてるそうなので、もし作者さんとカードワースにご縁があったら気づいてくださるかもしれませんし。

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2013/04/29 20:22 | edit

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