Thu.

異国の華 3  

「・・・・・・で、出た結論が傭兵登録か。結局リーダーの発案に乗ったんだよな、俺たちは」
「恨みっこいいっこなしよ。仕方ないわよ、結局は一番現実的だったもの」

 大人コンビがしみじみと述懐しながら、ベラスの街の様子へ目を走らせた。ワコクへ行く途中の経路で戦争を起こしている国の主要都市である。
 さすがに戦時中だけあり、大通りにすら人通りが少ない。
 その中を巡回している若い兵士に、走り寄ったミナスが「傭兵募集の張り紙を見たのだけど・・・」と声をかける。

7異国の華

 兵士は最初、あまりに若すぎるその希望者に何の冗談だと叱りかけたが、後ろからゆったりと追いついてきた彼の仲間たちを見て口を噤んだ。
 只者じゃないということは分かったのであろう、存外丁寧に審査会場である城のとある一角まで案内をしてくれた。
 傭兵登録はすぐできるわけではなく、一応戦闘能力がどれほどあるかを擬似的な魔法生物との模擬戦で示してから、契約の価値があるかを審査するのだが――。

「ベンヌ、スネグーロチカ!奴の足止めを!」
「いいぞ、ミナス。・・・・・・ほらよっ、【双翼の剣】!」

 最年少の精霊術師と、最年長の戦闘型盗賊が大活躍したおかげで、至極あっさりと終了してしまった。

「合格だ!!君たちを傭兵として認めよう!!」

 興奮した審査員が、”金狼の牙”たちに忙しげに握手しながら結果を報告する。その強い力にほとほと辟易したアレクは、

「やれやれ・・・で、俺たちは何をすればいいんだ?」

8異国の華

と問うた。

「宿を用意してある。本日はそこで休まれるがいいだろう。しかし、わが国は現在戦力が不足しているため、おそらく明日からでも働いてもらうこととなろう」

 にっこりと微笑んだ審査員の回答は、ある程度までジーニやアウロラが予測していたものと同じであった。
 わざと戦力が不足しているほうに参加したのは、傭兵登録のテストを受かりやすくするため。そして、一刻も早くワコクへ向かう船に乗るためでもある。
 契約書へのサインを勧められ、ギルが代表して書いた羊皮紙を満足げに眺めた審査員は、宿の地図を一行に渡して明日の朝またここに来るよう告げた。
 城を出た彼らは、ふと道具屋や魔道書が置いてある店の看板に目を留めた。リューンからちょっと離れたベラスの街であれば、何か珍しい物を置いているかもしれない。

「やっぱりここは・・・・・・」
「見るわよね?」

 ギルとジーニが仲間を振り返ると、もうすでに予想していたであろう他の4人は、苦笑を浮かべつつも首を縦に振った。
 最初に寄った道具屋では、リューンの下水道で会ったあの怖い魔法生物を象った瓶の酒が置いてあり、冒険者たちの度肝を抜いた。

9異国の華

 やややつれた感じのある女性店員の説明によると、アルコール濃度が高く、独特な味わいが得られるという。飲めば闘志が湧く、という話もあるようで、さっそく好奇心旺盛なギルがこれを購入していた。
 気軽な様子にエディンがすかさず釘を刺す。

「おいおい、リーダー。それ600spするんだからな?」
「分かってるって。でも俺達の今の財政からすれば、二つくらい買っても大丈夫だろ?」

 ため息混じりにアウロラが応えた。

「・・・・・・まあ、確かにそうなんですよね。っと、ギル、エディン!こちらの≪魔法薬≫の値段・・・」
「へ?」
「・・・・・・えーっ!?」

 アウロラの示した値段表を二人が覗き込むと、なんとリューンでの売値の半額――500spと書いてあるではないか。
 慌てたジーニが鑑定をするが、どうやらリューンで売っているものと遜色のない品で間違いないようである。

「これはすごいお買い得ですよ、エディン・・・・・・」
「確かになあ。・・・先々のことを考えると、買占めとはいかなくともそれなりの本数を購入した方が良さそうだ」

 ≪魔法薬≫はそもそも、物理的な技や魔法などを繰り出す気力が尽きた時に、それを賦活させるための薬品である。
 精製困難とされているために、普通の道具屋でお目にかかれるものではないというのに、戦争の影響かこの街には呆れるほどたくさん在庫があった。
 同じ作用を持つ、希望の都フォーチュン=ベルで作った≪知恵の果実≫が後4つも残っているとは言え、備えあれば憂いなしとは≪狼の隠れ家≫の先輩連中がしょっちゅう彼らに言っていることでもあり、彼らたちも後輩に伝えていることだ。決心したエディンが店員へ声をかけた。

「買える内に買っておこう。お姉さん、これ6つ包んでもらえる?」
「かしこまりました!」

 たちまち線の細い顔に赤みが差し、女性店員は瞬く間に目当ての品を包装してくれた。
 その後入った魔道書の店でも、当然ジーニが購入欲を爆発させるのだろうと思っていたのだが、これは予想が外れた。
 大きな目を瞠ってミナスが訊ねる。

「ねえ、ジーニ。本当にいらないの?」
「んー。妖魔を呼ぶ風の魔法と、混乱と毒を与える胞子の魔法。どっちも面白いっちゃ面白いんだけど・・・」
「なんだ。詠唱がしづらいのか?」

 アレクが首を傾げると、ジーニはぱたぱたと顔の前で手を振って否定した。

「いや、今あたしが持ってる魔道書のストックで、大体事足りてるかなあって。毒もねえ。使うときの風向きとか大変だから」
「・・・結構、いろいろ考えてるんだな」
「アレク。それはちょっと、ジーニ相手でも言ったらダメなんじゃ・・・・・・」
「あのね、アンタたち・・・」

 余計な一言を言わずにいられない年少組みを、ジーニがねめつける。
 こんな風に、”金狼の牙”は猶予期間を過ごした。
 そして翌日。

「そろったようだな」

 夫が戦地から帰って来ない若い妻や、びっこを引いているために兵役から外れた市民などに見守られながら、”金狼の牙”たちは待ち合わせ場所に到着した。
 すでに壇上には審査員役を務めた将校が、長剣を片手に作戦の説明を始めている。

「では、作戦の説明をする。諸君も知っていると思うが、現在我々の本陣はベネル平原にて敵と対峙した状態にある」

10異国の華

 こちらは4500人に対し、敵軍は6000人。数の多いほうが勝つと言うのは、戦の常道だと言える。
 奇策を用いて勝つ例を挙げる者もいるが、そう言うのはよほどの戦略と戦術の達人に状況が合致して、初めて実現できるものだ。そんな軍師がいるのなら、そもそもこの国は戦争を始めたりしなかったであろう。
 将校は自分とともにそこへ赴き戦って欲しいと口にした後、

「ちなみに、敵将を討ち取ったものには3000spの追加報酬を約束する」

と付け加えた。
 その言葉にぎょっとしたアレクとエディンが視線を一点に注ぐ。
 ・・・・・・案の定、約一名の目が爛々と輝いていた。

「なんと言いましょうか・・・確かに現実的なんですが・・・」
「アウロラ、しっかりして。ジーニだもの、仕方ないんだよ・・・」
「敵将かあ。どのくらい強い奴かな」
「あなたもあなたで、何に期待してるんです!」

 わくわくを押さえきれないギルに、アウロラがつっこんだ。

2013/04/25 12:22 [edit]

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