Thu.

異国の華 1  

 ある日の昼過ぎのことだった。
 昼食を食べ終わって何刻かは経っている冒険者たちが1階のテーブル席でうだうだとまどろんでいると、宿へ入ってきた上流階級風の女性が親父さんへ何事か話しかけ――。
 断る親父さんに業を煮やした彼女が、”金狼の牙”の一人であるアレクの腕を引っ掴んで話を聞いてくれと言い始めた。
 いきり立ってその手を離すように言ったギルを宥め、アウロラがどうしたのかと女性に問う。

「私はリューンで服飾に関する仕事をしている者なんだけど、今度私にとってはとても重要な企画を担当することになったの」 

1異国の華

 珍しくも≪狼の隠れ家≫の親父さんがしきりと「やめとけ」と口を出した依頼を、その女性は手際よく説明し始めた。

「今リューンではちょっとした異国文化のブームよね?そこで、異国の服やアクセサリーやらを集めた展覧会をやることにって・・・その担当者が私ってわけ」
「まあ、ブームといえばブームね。特に東の国の文化が、上流階級のサロンでもてはやされてるのは知ってるわよ」

 ジーニの言葉に、癖のない長い黒髪を持つ女性は頷いた。
 その様子をよそに、アレクは頭を抱えている。

「東国か・・・・・・」

 以前、”金狼の牙”が駆け出しだった頃に、東の国からリューンに移り住んだサトウという男の依頼を受けたことがある。
 屏風と呼ばれる特殊な家具に封じられたモンスターを退治せよという内容で、首尾よく依頼は果たしたものの、実入りが期待していたほどではなかった為に仲間へエールを奢らされたのだ。
 かつての苦い思い出を回想する羽目になった男を、ジーニはちろりと横目で見たが、変わらぬ口調で女性に続きを促した。

「それで?」
「一番の目玉だった東の国、ワコクのドレスが運搬中に海難事故にあって・・・」
「あら。異文化ブームの中でも東洋の人気は貴族の女性にとりわけ高い・・・それは厄介なことになったわね」
「そして、彼女たちは私の良いパトロンでもあるのよ」

 杖を抱きかかえて腕組みをしたジーニに同意するように、女性は困惑した顔で言う。
 事情がうっすらと飲み込めてきたアレクは、静かに推察を口にした。

2異国の華

「俺たちにそのドレスを何とかして手に入れてくれってわけか?」
「そのとおり!」

 ふむ、と顎に手を当てたアレクが気になった点を確かめる。

「だがな、それは商人とかに頼む仕事だろ?俺達の専門じゃない」

 依頼として頼まれれば下水道の探索まで行なうのが冒険者であるが、被服の仕入れについてはまったくの無力である。
 彼がそう代案を出すのも無理はなかった。
 しかし女性は眉を顰めて首を横に振る。

「私も最初はそう思って、彼らに片っ端から当たってみたわ。でもね・・・」

 声のトーンを落として続ける。

「東国にいくための通過点にいくつか国があるのだけど・・・今その国同士で戦争が起きてるの・・・」

 そのため、商人たちは一様に「そんな危ない仕事はごめんだ」と断ってきたのだという。おまけに、できたとしても完全に予定している期間中には届かないのでは・・・という意見すらあった。
 命がけの仕事になる上、仕事の期限を守れない可能性が大分にある――それは、一般的な商人であれば尻込みするもしようというものである。
 しかし。

「・・・でも・・・なんで冒険者?」

3異国の華

とギルに首を傾げられるのも、また当然というべきだった。
 女性は早口になり、手を忙しく上下に動かして理由を説明した。

「冒険者はいろいろな国や土地に旅するから、ひょっとしたら商人達も知らないようなルートを知っているとか・・・可能にするような手段を知っているかも・・・と思って」
「手段・・・ルートねえ・・・・・・」

 うーむと唸り声を上げたエディンに代わり、ギルが頭を掻いて質問する。

「前と同じルートじゃだめなのか?」
「これも完全に期日オーバーよ。展示会まで後3ヶ月しかないの。あなた達の今までの冒険者としての力が必要なのよ」

 リューンの”金狼の牙”と言えば、黒魔導師アニエスの討伐やザンダンカルの魔王退治、キーレで戦争に参加し蛮族の長の首級を上げたこと等でも知られている。
 確かに有名と言えば有名だが、それと商品の新ルート開拓は話が違うんじゃないかなあと、ミナスは心中で思った。
 女性は白い手を胸の前で組み合わせて懇願した。

「報酬として900sp、内前払い分として500sp払うわよ。やってくれる?」

 本来の仕事とは大分違うし、親父さんは一度ならず諦めるよう促している。
 そういう依頼は受けないのが”金狼の牙”のスタンスなのだ、が・・・。

「とは言え、ここんとこ戦ってばっかりだったからなあ」
「血なまぐさいのもねえ。続くのは気が滅入るわ」

という意見がギルとジーニから出れば、

「異国かあ・・・僕、そんな遠い国まで行ったことないな」
「東はここと大分文化が違うらしいからなァ」
「季節もどのくらい違うものなんでしょうね?想像もつきません・・・」

という、なんとものんびりした会話がミナス・エディン・アウロラから発せられる。
 そんな様子の仲間たちを見て、アレクが苦笑しつつ言った。

「なんだ。皆、結構興味があるんじゃないか。受けてみるか?」
「お前ら・・・アホだろ・・・」

 カウンターの向こうで親父さんが呆れ返っていたものの、好奇心に負けた”金狼の牙”たちは女性に依頼承諾の返事をして、彼女から名刺と前金を受け取ったのであった。

「東国のドレス・・・その・・・ワコクっていう国のものじゃないとダメなんですか?」

 アウロラの質問に女性――異国文化展の担当者であるタリサ・コクラン嬢はゆったりと否定の意を表した。

「いえ・・・そうではないのだけど・・・ただちょっとこだわりがあって」

 煮え切らない言い方に、ジーニとアウロラは顔を見合わせた。女同士の勘というやつだろうか、彼女にはなにやら事情があるらしい。

「・・・できたらワコクのドレスをお願いしたいわ」
「ふーん」

 一方で鈍感というか大雑把というべきか。
 ギルは気の抜けるような返事をして「ま、なんでもいいいさ」と前金の皮袋を卓上からひょいっと取り上げた。

「よ、よろしくね」
「ああ。出来得る限り頑張る」
「それじゃ、さっそくいってきまーす」

 タリサの縋るような眼差しに真顔で首肯するアレクの横で、暢気な調子のミナスが手を振る。親父さんはもう何も言うまいと、無言で彼に手を振りかえした。

2013/04/25 12:16 [edit]

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