「あ~。それにしても3000spか・・・」

 特大のベーコンエッグを平らげたギルは、カウンターについていた肘を行儀が悪いと親父さんに払われながらもそう言った。
 何の事かと言われると、”金狼の牙”は新しく導入した魔法や技術の試運転に、ヴァルハラ闘技場まで出かけてバトルオリンピアトーナメントというイベントに出場してきたのである。 

1オリンピア

 コロシアムでの戦いは初めての経験であった(何しろかの武闘都市ですら技術の習得だけだった)が、【暗殺の一撃】に代表されるような急所をつくような技は禁止、死人が出ないようにという考慮のなされたルールの中での戦いであったから、ミナスも連れていったのだ。
 ・・・・・・まあ、もっともそれほど考慮されていても、死人が出てしまう時は出てしまうが。
 優勝賞金3000spという話に目を輝かせたのは、もちろんジーニであった。
 
「参加しましょう!あたしたち、こう見えても腕っ節には自信あるし」
「・・・腕っ節に自信があるのは確かだけど。ジーニがそうやって目を輝かせると怖いのは、何でなんだろうな・・・」

 それは金に釣られたジーニが関わると、大概がろくな目に合わないからであろう。ギルは頭が良いわけではないが、勘はたまに呆れるほど冴える男であった。
 ”金狼の牙”の後輩である”黄色い牙”も参加するということで、南方のイーストランドという国まで一緒に出かけて行ったのが1ヶ月ほど前の話。
 準優勝で1500sp、三位で1000sp、ベスト8でも800spと中々良心的な賞金体系であったのだが・・・。
 受付でパーティ名での登録はちょっと恥ずかしい、となり、適当に”リューン組”などと名づけた彼らの快進撃は、恐ろしいほど順調に進んでいた。
 一回戦では闘技場外で絡んできた柄の悪い連中を片付け。

3オリンピア

 二回戦では違う宿の冒険者たちを負かし。
 三回戦の奇怪な外見のチーム相手も、四回戦での騎士団との対戦も、”金狼の牙”は危なげなく勝ち進んでいった。

「邪魔をするんじゃない、おとといいらっしゃい!」
「輝いてる、ジーニが恐ろしく輝いてる」
「生き生きしとりますなぁ、ジーニはん」
「・・・・・・ミナス。これは見習っちゃいけませんよ。いいですね?」
「はあい」

 嬉々として風の召喚魔法を唱え相手を蹴散らすパーティの頭脳を、アレク&トールやアウロラ、ミナスは遠巻きに見守っていたりする。
 準々決勝では”黄色い牙”(実は去年ベスト4だったらしい)との対戦であったが、チームの回復役とアタッカーを見抜いた眼力までは賞賛されるものの、やはり彼ら”金狼の牙”の敵ではなかった。

5オリンピア

「だってなあ・・・あいつ、アレクのこと回復役だと思ってたもんな」
「・・・・・・俺じゃなくてトールがやってくれてたんだけどな」
「アタッカーがエディンと言うのも、まあ・・・・・・分からなくはないんですが」
「俺ァそんなに撃墜数稼いでたかねぇ。ま、敵に攻撃を当てる回数は一番多かったかもしれねえが、な」

 準決勝と決勝で当たったチームには何やら因縁があったそうなのだが、それもガン無視して彼らは優勝まで突き進んでいった・・・。

6オリンピア

「うーんと。僕ちゃんとお姫様を呼べることも分かったし、そろそろ冒険のお仕事、したい、なあ・・・」
「あー・・・そうだな」

 優勝賞金などでのんびりと今まで過ごしていた”金狼の牙”だったが、≪水銀華茶≫片手の最年少メンバーから異論が上がったのは、ある晴れた日の午前のことであった。
 のんびりと相槌を打ったギルを見て、「それなら・・・」と、アウロラやエディンが壁に貼り付けられている依頼書の数々をチェックし始めた。
 手ごろで割の良い依頼は、朝早くに起きてきた他の冒険者たちがチェック済みのためになくなっている。

「あまり長いこと留守にする冒険よりは、ぱっと終わる方がいいかね・・・・・・」
「そうですね。1000spに満たないお仕事でも、なるべく近場から選んでみましょう」
「僕もお手伝いするよ」

 人間の言語に対する読解を学んでしばらく経つミナスが、アウロラの横から羊皮紙の束に手をかけた。
 その瞬間、彼の袖に当たった羊皮紙が3枚ほど床に散る。

「あ、あああ。ごめんなさい・・・」
「かまいませんよ、拾えばいいのですから」
「そうそう・・・・・・ん?」

 エディンの手が止まる。

「どうした、エディン」
「リューン自警団から依頼が出てるぜ」

 アレクの呼びかけにそう応えると、エディンは一番遠くまで落ちた羊皮紙をぴらりと皆に見えるようかざした。その依頼書の右隅には、確かにリューン自警団との書き込みがある。
 ギルが席を立って覗き込む。

「なになに?えー、南西にあるレノの村がリザードマンの一族により滅ぼされた・・・」
「放置しておけば近隣の村にも進出する可能性が高いので急いで対処して欲しい、ですか」
「リザードマンだろ?俺らで受けて後輩に恨まれないかね?」

 ギルとアウロラが目を合わせて首を傾げるのに、エディンは「ここ見ろよ」と長く器用な指で一点を示した。そこには、「偵察した冒険者によると非常に統率された動きをとるらしく手強い」という文が書かれている。

「報酬は800sp。緊急依頼のハンコも押してあるし、この時間で誰も引き受けないなら、やっちまった方が親父さんも助かるんじゃねえ?」

 エディンはカウンターの向こうで皿を洗う親父さんを振り返った。
 当の本人も、苦笑しながら頷いている。

「そっか。じゃあちょっと行って片付けて来るか」
「それなら僕、ジーニのこと起こしてくるね!」

 パタパタと軽い足音を立てて走り出したミナスを見送りつつ、ギルはアレクに訊ねた。

「・・・何、あいつまだ起きてなかったの?」
「昨夜は結構深酒だったらしい」
「何で?」
「新しく開発した薬瓶のレシピで、何人かに惚れられて追っかけまわされたんたどさ」

 アレクはそう言って肩をすくめた。

2013/04/24 08:12 [edit]

category: バトルオリンピア+竜人族の邑

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