Thu.

金狼の牙の再調整 2  

 後輩冒険者の怪我を、雪精トールの力ではなく自分の神聖呪文で癒す事ができたアレクは、深く安堵のため息を吐いた。
 リューン下水道に潜る仕事をしてきたそうなのだが、その時に鼠に齧られていたらしく、宿に帰り着くなりぶっ倒れたのである。
 慌てて親父さんがアウロラを探したが、あいにくと彼女は外出中。
 その時に偶々通りかかったアレクが、「どれ。俺に診せてみろ」と言ったのだった。

「これでよし・・・・・・と。毒のほうはどうだ?」
「すっかり良くなりましたよ!鼠の毒って、馬鹿にできないんですね・・・」
「鼠は病気の媒介になる場合もある。噛まれたら決して軽視せず、早めに治すことだ」
「はい。ありがとうございました!」

 仲間の方へと駆けて行く後輩を見送り、アレクはゴキッと痛そうな音を立てて肩を鳴らした。
 親父さんがそれを見て苦笑する。

「おい、まだ肩こりが酷くなるような年じゃないだろうに」
「上手く唱えられるか、ヒヤヒヤものだったからな。≪聖別の葡萄酒≫を裏で用意してたのは内緒にしといてくれよ」
「そろそろ自分の父親を追い越す英雄になりつつあるくせに、妙なところは変わらないんだな。どれ、オレンジタルトでも用意するか」

 そう言って奥の厨房に親父さんが引っ込んだのと入れ違いに、2階から欠伸交じりの挨拶をしながらジーニが降りてきた。

「んあー・・・・・・おはよう」
「もう昼過ぎだけどな」
「いいのよ、ちょっと昼寝してたんだから。あー、でもまだ何か眠い」
「仕方のない人だな・・・・・・」

 呆れたように呟いたアレクは、自分用に貰っていた薬草茶をジーニに渡した。
 ルーンディアで購入したのと同じ≪水銀華茶≫だ。しきりに試させろという親父さんに根負けして飲ませて以来、この宿でも出すようになっている。

「あ、これか。匂いがいいのよね、このお茶」
「葡萄酒と同じくらい高いけどな」

 エセルに頼んで、もう一杯≪水銀華茶≫を注文したアレクは、熱々のそれをよく冷ましてから口に含んだ。
 ちょうど親父さんも切り分けたタルトの一切れを持ってきてくれる。
 優雅なお茶の時間となった仲間を、肘をついて眺めやりながらジーニはポツリと呟いた。

「・・・・・・ねえ。エレンのこと宿に誘ってあげなくて良かったの?」
「・・・・・・・・・!!ゴフッ!ゲフッ、ゲフッ!」

 彼は≪水銀華茶≫を勢いよく噴出した。

「きゃっ!アレクさん汚い!」

 エセルが慌てて持ってきた布巾を受け取り、むせ終わったアレクは汚した箇所を真っ赤な顔のまま拭き清めた。

「ちょっと聞いただけで、どんだけ動揺するのよアンタ」
「・・・・・・それはその、不意打ちだったから・・・」
「だって、あの子が失くしたっていう赤い指輪、あれだけ一所懸命探してあげたのアンタだけじゃない。しかも玄関先で出てきたネズミ退治までやってさ」

 つい2週間ほど前に終わらせた依頼であった。真紅の都市ルアーナ近郊にある森で出現する魔物の調査・・・その実体は、神精族と呼ばれる聖なる獣と、それに仕える巫女の救援信号だったわけだが。
 神精族の幼生を操る歌まで教わり、巫女とその騎士の両方とずいぶん仲良くなった”金狼の牙”だったが、その最中に巫女エレンが一番親身となってくれたアレクに恋をしてしまったのである。

「エレンもサラサールも、村を滅ぼす原因となった宝珠の捜索をするって言うけど、何の当てもなかったわけでしょ?」
「・・・・・・ああ。宝珠を持ち去った男の正体も分からないままだしな」
「せめて引き止めて、こっちにつれて来てあげれば良かったのに」
「それが出来るくらいなら・・・・・・」

 アレクはそこで言葉を切った。
 しかし、ジーニは彼が何を言わんとしていたか理解してしまった。

「それやるくらいなら、彼女のほうに一緒について行ってあげたって?」
「・・・・・・うるさい」
「ラングといい、アンタといい、女に対して詰めが甘いのは同じね。『側にいて欲しい』くらい言ってあげればいいのにさ」

 ジーニの視界の隅に、金色の澄んだ輝きが映る。
 価値がつけられないほどのマジックアイテムであるペンダントは、その名を≪縁の首飾り≫という――。

「ま、その首飾りに免じてこれ以上のお説教はやめてあげるわ」
「待て、どこに行くつもりだ?」
「新しい薬瓶開発するのよ。前にメレンダ街行った後輩が、面白いレシピ持ってきてくれたからね」

 それは、通常であれば体力を回復してくれるだけの、甘い花の匂いがする香水に過ぎない。
 だが・・・・・・実は香水に仕込まれている術式によって、合言葉を発すると【魅了】の効果が現れるという、ある意味恐ろしいレシピだったりする。
 敵味方双方に作用させる事の出来る新魔法を、彼女は詳しく説明することなく再び二階へ上がった。

2013/04/18 05:40 [edit]

category: 小話

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