Thu.

金狼の牙の再調整 1  

 死霊たちのために【解放の讃歌】という歌を吟遊詩人の寄合所で覚えたアウロラだったが、ジーニの≪エメラダ≫による敵の束縛まで解除してしまうと仲間から苦情があった。
 そのため、似たような効果をもたらす別の歌を探しているうちに、リューン思案橋のたもとで盲目の歌い手と出会い――アウロラは、シリリドと名乗った彼から【浄福の詠歌】という歌を習ったのである。

「技巧の良し悪しよりも、歌に込められた強い思いを私は聴きたいと思います」

 見えぬ眼差しは閉じたまま、盲目の歌い手はそう語った。

「眼が見えぬからこそ、見えるものがあります」
「・・・・・・あなたはその心で、唄に込められたものをご覧になるのですね」

 シリリドは放浪楽師という立場である。
 誰の庇護をも受けぬ代わりに、隷従すべき主人も持たなかった。
 安息を得られる家は持っていないが、広い天地を棲家とする――琴を抱えた美女や笛を携えた少年と共に歌う彼は、そう言ってひっそり笑った。

「唄は世につれ、世は唄につれ。誰にも、その人生と重なる思い出の深い唄があるものです」

 願わくば、自分の教えた【浄福の詠歌】もそのような唄になるように――彼の言葉に、アウロラは静かに首肯した。
 礼と共にいくばくかの銀貨をシシリドに渡して歩き出したアウロラは、幾つかの冒険者の店が集まった界隈から駆けてくる仲間に気づいた。ミナスである。

「アウロラー!ねえねえ、聞いて聞いて!」
「どうしたんですか、急に。ちゃんと周りを見て走らないと危ないですよ?」

 いつでも無邪気な子ではあるが、今回は殊更興奮した様子である。
 背中を撫でて落ち着かせると、彼は唾を飲み込んで深呼吸をした。

「えっとねえ・・・・・・。アウロラの唄に、氷のお姫様の歌あったでしょ?」

 それは”歌の一族”というエルフ達が並べた中からアウロラが選び、習い覚えた、伝説上の氷姫の美貌を称える歌である。
 歌を聴いた敵全てに対して、精神的なダメージによって動きを一瞬だけ止めるという効果があるのだが・・・。

「なんとかの希望亭ってお店にいたお兄さんがね。その話を聞いて、『彼女』のことじゃないのかって教えてくれたんだ!」
「・・・『彼女』ですか?」

 中々、エルフの少年の話が見えず、アウロラは首を傾げた。
 ――続けざまに言われた彼の言葉を聞くまでは。

「そう、”吹雪の姫君”だよ!色んな装飾品を使って魔法を使うんだ」
「・・・・・・え?」
「それでね、今の僕の実力だったらきっと大丈夫だからって、”吹雪の姫君”に取り憑いてもらう魔法を教えてもらったの!すごいでしょ?」

 ぴしりとアウロラは固まった。
 氷雪の精霊の中でも高貴なる王族と称えられる”吹雪の姫君”は、雪精の筆頭たる”雪の女王”の幼生だといわれている。
 魔力だけなら上位精霊に追従するほどで、強力な吹雪でダイヤモンドダストを起こすほどの冷気をもたらす。
 豪奢にして華麗、幻想的なほど美しい容姿をしているという彼女であれば、確かにアウロラが歌う【氷姫の歌】との類似点が多いとは言えるが。

「あの・・・・・・ひょっとして取り憑くって・・・」
「憑精術だよ?」
「・・・・・・召喚して使役するのではなく、精霊を身に宿す術ですよね?」
「うん!」
「それがミナスに憑依して、魔法を使うんですか? 美貌を称えられるお姫様が?」
「うん、そうだよ。・・・・・・どうしたの、アウロラ。汗がすごいけど?」

 自分が【氷姫の歌】を”歌の一族”から習わなければ、ミナスも男の娘にならずに済んだのだろうか――アウロラは遠い目になった。

「いえ、本人がいいのなら別に構わないのですけど・・・」

 ミナスの言うなんとかの希望亭とやらに心当たりがガンガンある彼女は、

(・・・あの人、一体どんな真面目な顔でこの子に新しい魔法を教えたのでしょう・・・。そして周りの誰も、男の子にお姫様になる魔法だってこと、指摘しなかったんでしょうか・・・・・・。)

と心の中で呟いた。

2013/04/18 05:39 [edit]

category: 小話

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