Wed.
泥沼の主 2 
・・・――宿を出て数刻の後、冒険者たちは馬折沼に到着した。
周囲には泥の匂いが漂っており、木々が空を覆っていて薄暗い。
「すごーい。靴が半分、泥に埋まっちゃった」
「まだ、山道に入ったばかりだというのに・・・」
ブーツにの埋まり具合にミナスが無邪気な声を上げ、服の裾をつまんでいたアウロラが、小さくため息をついた。
彼女の紫の法衣にも、容赦なく泥が飛び散っている。
しばらく進むと地面がぬかるみ始め、泥の道はやがて完全な沼地となった。
泥沼の上には粗末な板や石などが乱雑に並べられており、かろうじて道と呼べそうな程度のものが形成されている・・・・・・。
「・・・はい、到着っと。みなさん、ご苦労様。蛇はこの沼の何処かにいるとおもうから、適当に探して適当に退治しちゃって」
「アバウトだなおい」
「・・・いや、適当じゃ駄目でしょ」
ギルが呆れたように、ミナスが慌てて突っ込む。
「――へへっ。退治さえしてくれれば、何でもいいのさ。蛇は多分、奥のほうに居ると思う。足場が悪いから、くれぐれもご注意を・・・・・・」
一同が、すっかりテンションの盛り下がった様子で、「はーい」と返事をした。
それをとりなすように、ジャクジーが声を上げる。
「・・・ま、とにかく、ようこそ馬折沼へ!ゆっくりしていってね!」
彼は非戦闘員だということで、この辺りで退治終了の報告を待つつもりらしい。
心なしか、それを聞いたジーニの額に青筋が立ったような気がしたが、一行はそれ以上深く追求せず、進むことにした。世の中、掘り下げちゃいけない事柄もある。
その後、泥の道をかき分けるようにして進む中、先行して調査をするエディンが、≪髭天狗茸≫というものを見つけた。
大事そうに荷物袋へ仕舞いこむ彼に、ギルが訝しげに言った。
「・・・それ、食えんのか?キノコなんて、迂闊に拾い食いしないほうが・・・」
「大丈夫だ。珍しい植物だが、このままで薬として使える」
植物に詳しいのか、野外活動も得意なのか、エディンは妙に自信のある素振りだ。
潅木や朽木に生えるこの茸は、生のまま食しても高い体力回復効果が得られるのだ、と説明した。
(本当に大丈夫なんだろうか・・・・・・)
ギルとは違い、アレクは不安を口に出さなかったが、相棒と同じ感想を胸中に抱いていた。
板を並べた足場が南北と東に続く分岐点まできた。
この辺りは背の高い雑草が多く、先への視界を遮っている。
エディンが静かに索敵をすると、北の先から多数の蜂の羽音が聞こえる事に気づいた。
「・・・北の先が騒がしい。この先に蜂の巣があるのかもしれないな」
「蜂、イヤー。痛いのイヤー」
ミナスが長い耳をかばうように身を縮めた。
エディンがその頭を撫でつつ、他のメンバーに向かって言う。
「迂闊に近づいて興奮させると、集団攻撃される可能性がある。用が無いのなら進むべきではないだろう」
「なら、東へ」
一同はギルの決定のとおりに進むことにした。
羽音から離れるように歩くうち、陸に上がっていたトード達は、冒険者の姿を見つけると、その道を譲る様にして水中へと飛び込んでいった・・・・・・。
「ヒキガエルか・・・・・・」
「カエルがどうかしたの、ジーニ?」
「ん・・・いや、蛙を使い魔にする魔法使いも多いから、ちょっとね」
蛙のつけた小さな足跡をつつきながら訊いたミナスに、首をすくめて彼女は続けた。
「まあ、今回の依頼には関係ないだろうから、気にしないで」
すると、先行していたエディンが皆を静かに呼んだ。
「何かが這った様な跡が東に向かって続いている。この先に・・・」
「大蛇がいるのか」
ギルは自分の装備を、今一度整えた。
その横で、アレクも同じように武器を構えている。
補助魔法の類いがあれば、今がかけるべき時なのだろうが、そこまで魔法につぎ込める資金は、まだ彼らになかった。
とはいえ、駆け出しでこれだけスキルが整ってる方が珍しいのだ。今ある手持ちで頑張るしかあるまい。
一行は顔を見合わせると、ゆっくりと頷いた。
あまり大きな音を立てないように進んでいくと――とある所に出た。
藪が生い茂り、一層と暗くなった場所だ。
何かが潜んでいそうな不気味な湿った空気が漂っている。
冒険者たちが塒に近づくと、突然、叢の中から大蛇が姿を現す!
依頼人の言の通り、その体長は10mほどもある化け物だ。
アレクが剣を下段に構えつつ、冗談交じりに呟いた。
「”まだらのひも”は杖で叩くものだよな?杖以外でも大丈夫だろうか?」
それが推理物と呼ばれる本の引用であることに気付いたアウロラが、ため息をつきつつ応じた。
「まだらではありませんし、”ひも”という太さでも――」
三歩、アレクの後ろに下がって陣取る。そこが彼女の回復魔法の届く位置。
他のメンバーも、各々のポジションへと散り、体勢を整える。
「――ま、痛めつける分には何でも変わりませんけど」
その声を合図に、大蛇は冒険者たちへと襲い掛かった。
周囲には泥の匂いが漂っており、木々が空を覆っていて薄暗い。
「すごーい。靴が半分、泥に埋まっちゃった」
「まだ、山道に入ったばかりだというのに・・・」
ブーツにの埋まり具合にミナスが無邪気な声を上げ、服の裾をつまんでいたアウロラが、小さくため息をついた。
彼女の紫の法衣にも、容赦なく泥が飛び散っている。
しばらく進むと地面がぬかるみ始め、泥の道はやがて完全な沼地となった。
泥沼の上には粗末な板や石などが乱雑に並べられており、かろうじて道と呼べそうな程度のものが形成されている・・・・・・。
「・・・はい、到着っと。みなさん、ご苦労様。蛇はこの沼の何処かにいるとおもうから、適当に探して適当に退治しちゃって」
「アバウトだなおい」
「・・・いや、適当じゃ駄目でしょ」
ギルが呆れたように、ミナスが慌てて突っ込む。
「――へへっ。退治さえしてくれれば、何でもいいのさ。蛇は多分、奥のほうに居ると思う。足場が悪いから、くれぐれもご注意を・・・・・・」
一同が、すっかりテンションの盛り下がった様子で、「はーい」と返事をした。
それをとりなすように、ジャクジーが声を上げる。
「・・・ま、とにかく、ようこそ馬折沼へ!ゆっくりしていってね!」
彼は非戦闘員だということで、この辺りで退治終了の報告を待つつもりらしい。
心なしか、それを聞いたジーニの額に青筋が立ったような気がしたが、一行はそれ以上深く追求せず、進むことにした。世の中、掘り下げちゃいけない事柄もある。
その後、泥の道をかき分けるようにして進む中、先行して調査をするエディンが、≪髭天狗茸≫というものを見つけた。
大事そうに荷物袋へ仕舞いこむ彼に、ギルが訝しげに言った。
「・・・それ、食えんのか?キノコなんて、迂闊に拾い食いしないほうが・・・」
「大丈夫だ。珍しい植物だが、このままで薬として使える」
植物に詳しいのか、野外活動も得意なのか、エディンは妙に自信のある素振りだ。
潅木や朽木に生えるこの茸は、生のまま食しても高い体力回復効果が得られるのだ、と説明した。
(本当に大丈夫なんだろうか・・・・・・)
ギルとは違い、アレクは不安を口に出さなかったが、相棒と同じ感想を胸中に抱いていた。
板を並べた足場が南北と東に続く分岐点まできた。
この辺りは背の高い雑草が多く、先への視界を遮っている。
エディンが静かに索敵をすると、北の先から多数の蜂の羽音が聞こえる事に気づいた。
「・・・北の先が騒がしい。この先に蜂の巣があるのかもしれないな」
「蜂、イヤー。痛いのイヤー」
ミナスが長い耳をかばうように身を縮めた。
エディンがその頭を撫でつつ、他のメンバーに向かって言う。
「迂闊に近づいて興奮させると、集団攻撃される可能性がある。用が無いのなら進むべきではないだろう」
「なら、東へ」
一同はギルの決定のとおりに進むことにした。
羽音から離れるように歩くうち、陸に上がっていたトード達は、冒険者の姿を見つけると、その道を譲る様にして水中へと飛び込んでいった・・・・・・。
「ヒキガエルか・・・・・・」
「カエルがどうかしたの、ジーニ?」
「ん・・・いや、蛙を使い魔にする魔法使いも多いから、ちょっとね」
蛙のつけた小さな足跡をつつきながら訊いたミナスに、首をすくめて彼女は続けた。
「まあ、今回の依頼には関係ないだろうから、気にしないで」
すると、先行していたエディンが皆を静かに呼んだ。
「何かが這った様な跡が東に向かって続いている。この先に・・・」
「大蛇がいるのか」
ギルは自分の装備を、今一度整えた。
その横で、アレクも同じように武器を構えている。
補助魔法の類いがあれば、今がかけるべき時なのだろうが、そこまで魔法につぎ込める資金は、まだ彼らになかった。
とはいえ、駆け出しでこれだけスキルが整ってる方が珍しいのだ。今ある手持ちで頑張るしかあるまい。
一行は顔を見合わせると、ゆっくりと頷いた。
あまり大きな音を立てないように進んでいくと――とある所に出た。
藪が生い茂り、一層と暗くなった場所だ。
何かが潜んでいそうな不気味な湿った空気が漂っている。
冒険者たちが塒に近づくと、突然、叢の中から大蛇が姿を現す!
依頼人の言の通り、その体長は10mほどもある化け物だ。
アレクが剣を下段に構えつつ、冗談交じりに呟いた。
「”まだらのひも”は杖で叩くものだよな?杖以外でも大丈夫だろうか?」
それが推理物と呼ばれる本の引用であることに気付いたアウロラが、ため息をつきつつ応じた。
「まだらではありませんし、”ひも”という太さでも――」
三歩、アレクの後ろに下がって陣取る。そこが彼女の回復魔法の届く位置。
他のメンバーも、各々のポジションへと散り、体勢を整える。
「――ま、痛めつける分には何でも変わりませんけど」
その声を合図に、大蛇は冒険者たちへと襲い掛かった。
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