Thu.

satan 11  

 骸骨が【炎の玉】の何十倍もの威力をした焔を教会に放って建物のほとんどを吹き飛ばし、魔物たちが街へと飛び去った後、ジーニは騎士団の要請をミーナに切り出した。

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 もはやあの数では、いち冒険者たちの手には負えるものではない。即急に、人海戦術で対抗すべきであった。
 そのため治安局に戻り、バイゼルの手助けを借りようとしたが、返事ははかばかしいものではなかった。
 治安局にも魔物の目撃証言が届けられており、教会が放火された事実も伝わってはいたものの、”金狼の牙”たちが承知しているほど大きな状況だと思っていないのだ。
 今も、正確な報告を受けたはずの彼の目は点になっている。

「バイゼル。まずは、落ち着いて聞いて。多くの魔物が街に放たれた。魔王の食料になるのか、魔物の召喚に使うのか知らないけど、このままでは多くの人間が犠牲になる」
「数も多く、とても私たちだけでは対応できません。治安局員もですが、騎士団の出動をすぐに要請すべきです」

 ジーニとアウロラが代わる代わる言うのに、彼は力なく首を横に振るばかりだ。

「お、俺に・・・・・・そんな権限は・・・・・・・・・議長じゃないと・・・・・・・・・」

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「なら、さっさと議長に話を通しなさい!今対応できなければ、たくさんの人間が死ぬのよ。アンタが街の人間を守るんじゃないの!?」

 ジーニは毅然として言い放った。

「・・・・・・だな。すまん・・・・・・・・・よし!!」

 バイゼルは顔に朱の色を取り戻し、議長に騎士団出動の要望を出すと言って動き出した。

 ――しかし、議長は魔物の目撃証言が一件だけで、他は全てリューンから来た冒険者の話でしかない事を理由に、騎士団出動に難色を示す――暴動を抑え込むより、一匹しか目撃されていない魔物の方が脅威なのか?
 貴族が多い騎士団に抵抗を持つ議長には、うかうかと返事の出来ないことであった。
 それからどれほど時間が経ったのか、議長が権限を行使し騎士団出動をさせるまでにこぎつけたバイゼルの顔は、疲労によって彩られていた。
 これからの対策を話し始めた一同の中で、ふとエディンがいち早く何かの違和感に気づいて顔をあげた。

「皆、気をつけろ。何かが近づいてきてる」
「何っ!?魔物かっ!?」
「分からない。何かが部屋の外まできている」

 気色ばんだギルを落ち着かせるようエディンは言い、そっとマントの内側で≪スワローナイフ≫の柄を握り締めた。
 アレクがさり気なく立ち位置を変え、バイゼルやラングを庇う場所に立つ。アウロラもそれに気づき、すっとミーナの前に立った。
 そして、それが部屋に入ってきた。

「ヴァニラっ!?」
「おおっと、これはこれは皆さん臨戦態勢で」
「いい度胸だな。わざわざ捕まりに来てくれるとは・・・・・・」

 ギルがそう言うと、ヴァニラはわざとらしく両手を挙げて応える。

「いやいや捕まる気は毛頭ない。君らと会話しに来ただけだ」
「会話?」

 訝しく思ったアレクが嫌悪感を込めたまま声を発すると、ヴァニラは口の端を微かに上げて情報を持ってきたのだと告げた。

「とりあえず、まずは私の話を聞いたらどうだ?魔王の事を知りたいだろう」

 ジーニは臍を噛んだ。情報がほしいのは確かだが、ヴァニラの企みがまったくと言っていいほど見えない。
 その時、静かに佇んでいたはずのアウロラが、ヴァニラの目を真っ直ぐねめつけながら口を開いた。

「分かりました。喋りたいことがあるならどうぞ」
「アウロラ・・・!」
「そうこなくては」

 ミナスが非難の声をあげるも、それをそっと押し留めたアウロラの姿ににやりと笑い、ヴァニラは情報とやらを一同に披露してみせた。
 教会の地下に出現した骸骨、あれこそがザンダンカルの魔王であり、羽の生えた化け物は彼の召喚した魔物である事。
 彼自身が地下で執り行っていたのは、結局あの魔王の復活の手助けであった事。
 全てはカウフマンの指示ではなく、ヴァニラが魔王の眠る教会を押さえるために上手く唆し、街に不穏な噂をばら撒く一方で生贄となる子供たちをさらった事。
 
「私のそもそもの目的は、王の禁呪。これを手に入れることだった」

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「・・・・・・ろくでもない目的ね」
「君にとってはそうかね? 人間界に本来存在するはずの無い、魔界の王が使う禁呪・・・・・・」

 あるものは山を吹き飛ばし、あるものは川を干上がらせる。
 魔法を使う人間であれば、その魅力に焦がれるものだと濁った熱をもって語るヴァニラの顔を睨み、ジーニは唾を吐き捨てた。
 木箱に封印された魔王の胸に突き刺さる剣を抜き取り、血を数滴垂らすことで蘇らせると、ヴァニラは魔王と契約を結んだ。
 封印が解けたばかりの魔王は、その本来の力からするとあまりに脆弱。従って自らを守る守護者を必要としており、契約を結んだ見返りに禁呪を与えるのである。
 王が完全復活を遂げた暁には、契約時に賜った指輪で禁呪を制御する事が可能となる。ヴァニラは歓喜した。
 ところが、”金狼の牙”たちやラングの邪魔が入った・・・・・・。

「私は王を見捨ててしまった・・・・・・王の完全復活の前に・・・・・・」

 後に残ったのは制御不能の禁呪だけだと零したヴァニラはこちらを睨んだ。その殺気が増していく。
 フン、とアレクが鼻を鳴らした。

「それで俺達に復讐か?」
「そんな事をしてどうなる。すでに終わった事だ」

 その言葉と共に、確かにヴァニラの殺気は消えていく。

「王は、契約を破棄した者を許しはしない。私をどこまでも追いかけ探し出し・・・指輪を取り上げると共に私を殺すだろう」
「・・・・・・・・・いい気味だな」
「だから、私は君たちに託す事にしたのだよ。王の封印をな」
「それは都合が良すぎるというものだろう。第一、あんな化け物をどう相手しろと?」

 アレクがそう言うと、ヴァニラは魔王が不完全な身体で強力な魔法行使をしたことを指摘した。間違いなく、かなりの反動を喰らっているはずだと。
 そして今であれば、魔物の大半も王の側から離れている。
 ヴァニラを救うつもりなど冒険者たちにはさらさらないし、彼が魔王によって殺されるのは因果応報というものである。ただし、それもザンダンカルという街の事がなければだ。
 早く魔物たちを駆逐しなければ、罪なき市民たちがヴァニラの起こした事態の巻き添えを食うのである。そしてその犠牲者の数が多ければ多いほど、魔王は今よりももっと力を増していく・・・。

「・・・・・・・・・話は分かってもらえたかな?では失礼する。いつか君らの英雄譚を聞かせて貰うことにしよう」
「・・・・・・ま、待てっ!!」

 ラングが追いすがるも、ヴァニラは音もなく消えた。

「聞きたかったらキーレにでも行きなさいよ。そして巨人にでもやられちゃえ」

 そう小さく吐き捨てた仲間を、ミナスがつぶらな濃藍色の瞳で見上げる。

「ね、ジーニ。ヴァニラが言ってる事って本当かな?」
「どこまで本当かはわからないわ。ただ、恐らくは・・・否定する材料の方が少ないからね。王を倒すのが今しかないのも、本当でしょう・・・・・・」

 強力な魔法を使ってはいたが、王の動きは明らかに鈍かった。そして、大半の魔物が飛び去っている。
 そこまでジーニが分析をした時、不意にギルがバイゼルを呼ばわった。

「なっ、なんだ?」
「・・・・・・・・・俺たちが突入する」

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 狼狽するバイゼルにギルは静かに言った。

「騎士団を待っていたら、手遅れになる。今のヴァニラの話を聞いてたろ?」
「も、もちろん聞いていたが、お前らがそこまでする必要は無い!」
「ここまで関わった以上、もう後には退けない。・・・・・・そんなとこか、ギル?」

 アレクが微笑んで幼馴染の顔を見やると、ギルは悪戯っぽくにやりと笑った。
 この都市を救う方法は一つ。今すぐ教会地下に入り、魔物が戻る前に王を倒す事である。
 ジーニは歯切れのいい声で指示をした。

「バイゼルとミーナは騎士団の要請に向かって。ラングはあたしたちと共に来るのよ。万が一ってこともあるからね。こっちが全滅したら騎士団が最後の砦よ」

 一緒に来たそうな顔をしているバイゼルにそう言って微笑むと、ジーニは「アンタの地位を利用しなさい」と告げた。

2013/04/11 18:23 [edit]

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