Thu.

satan 10  


 ギルが斧の刃を喉先に突きつけると、ヴァニラは呻き声をあげた。

「・・・・・・・・なん・・・・・・と・・・・・・・」

 カウフマンが裏切って情報を漏らしたことを指輪と共にヴァニラに放つと、彼は金で”金狼の牙”たちを買おうと申し出たが、鼻先で笑い飛ばしたジーニに一蹴された。
 当然、二人の部下を使って彼は口封じをしようと戦いを挑んできたのだが、あっという間に叩き伏せられたのである。

34satan

「逃げ場は無い。死にたくなければ、その手に持っている物を今すぐ捨てろ」
「これは恐れ入った・・・・・・これほどの・・・・・・腕前とは・・・・・・」
「ミーナは、連れ去った治安局員はどこだ?」
「もはやここまでか・・・・・・。半分しか・・・・・・達成できんとは・・・」
「質問に答えろ、訳わからねえ事ばかり言ってんじゃねえ!!」

 ギルは斧を握る手に力を込めたが、ヴァニラの様子が変わることはなかった。
 「まあいい」と呟いた彼に何を感じたのか、慌ててジーニがヴァニラの腕を掴もうとする。

「遅い」

 桜色に塗られた爪つきの手は、あっけなく空を切った。何かのアイテムに封じていたらしい転移呪文の仕業である。

「そうよ、これがあったのよ・・・油断してたわ・・・・・・」

 すでにヴァニラの気配は微塵も辺りから感じない。気持ちを切り替えた”金狼の牙”たちは、まずはミーナを探す事にした。
 更に奥へと続く通路をラングが見つけ、一行がそこを通り抜けると、地下とは思えないほどの大きな広間に出た。
 一人の少女が倒れている――ミーナのようだ。
 ラングがすぐにミーナの元に駆け寄り、抱きかかえる。

「ミーナ!!大丈夫か!!」
「ン・・・・・・ヴーン・・・・・・・・・」

35satan

 先ほどとは違い、暖かい感触が伝わってきた。生きているようだ、とラングは安堵した。

「ン・・・・・・ラン・・・・・・グ?」
「ミーナ・・・・・・よかった。本当によかった・・・・・・・・・」
「ここ・・・・・・は・・・・・・?私、確かカウフ・・・・・・痛ッ・・・・・・」

 ミーナは腕を抱えてうずくまった。

「怪我人でっか?わての出番でっしゃろか?」

 アレクの暗い色の外套から雪精トールが飛び上がり、宿主の肩に乗る。

「どれ・・・・・・うちの精霊に見せてみろ」
「あ・・・・・・・・・は、はい」

 ミーナは生まれて初めて目にする精霊に興味津々となりながらも、ヴァニラとの交戦の際に受けた傷を、トールが氷の魔力で癒すのに任せた。幸い、軽傷のようである。

「大丈夫ですわ。浅い傷でんな」
「・・・・・・よかった」

 ほっとした様子のラングの肩をギルが叩き、まだ事態を把握できていないミーナにジーニが気をしっかり持つよういい含めて事情を説明する。
 治安局員という仲間を失った事に対してさすがにショックを受けているものの、彼女の一言一言をミーナは冷静に聞いた。
 ぽつり、とミーナは呟いた。

「ヴァニラは・・・・・・もう?」
「そうね・・・・・・。すぐにこの街を後にするでしょう」
「・・・・・・カウフマンは?」
「ヴァニラは逃がしたけど、他の2人は捕まえてあるわ。そいつら次第だけど、上手く取引を持ち出せば、証言は取れるでしょう」

 カウフマンの企みが公となれば、街での暴動も収まり奴は失脚する。それで魔王騒動も終わりだと、ジーニは肩をぐるぐる回して言った。

「アレクシスさん・・・・・・」
「どうした?」

 ラングはアレクに向き直った。

「魔王って・・・・・・魔王って一体何なんでしょう?」
「・・・・・・」
「結局は人が・・・・・・一番残酷でした・・・・・・。魔王って・・・・・・いえ・・・・・・人って・・・」

 上手く言い表せないらしい様子のラングに、アレクは静かに訊ねる。

「・・・・・・・・・人に・・・・・・失望したか?」
「えっ」
「リューンに帰る時にでも、ゆっくり考えるといい。話が纏まった時、いくらでも聞いてやるよ」
「・・・・・・は、はい!」

 それより早く暴動を鎮めて無駄な血を流すのを止めないと、と一同が立ち上がった時だった。バタン、と何処かのドアが開く音が響いた。
 広間の奥に、先ほどまでは無かった扉が有り、その前に何かが立っている。こちらを見ているようだ。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・なっ!?」

 エディンが小さく声をあげた。
 その何かは薄汚れたローブを羽織っており、顔とローブが擦り切れた身体の一部分しか見えない。しかし、明らかに人間のものとは異なる。
 手にはやや古びた剣を持ち、杖代わりにしている様に見える。

「・・・・・・アレク、俺ああいうの前に一回見たことある」
「偶然だな、ギル。俺も今思い出してた」

 幼馴染たちはミーナとラングを背後に庇いながら囁いた。
 暗闇を塗りこめたように感じる圧倒的な魔力と、心胆を震わせる迫力。生者には感じる事の無い禍々しい負の気配。
 全て、一度とある化け物の前で感じた事であった・・・・・・・・・そう、あのカナナン村に封じられていたソドムの狂王から!!

「な、何ですか、あれは!?ち、近づいてきますよ!?」

 正体は分からないながらもおぞましい存在である事を感覚で察したのか、泣きそうな声でミーナが叫ぶのに、ギルが小さく叱咤した。

「落ち着け、ミーナ、ラング!取り乱すな!」
「そ、そんな事言われても!あのスケルトンは何なんですか!?」

 ラングの顔も引きつっている。スケルトンではなく、恐らくリッチの類だろうとジーニは推察した。
 ギルがそっと後輩に声をかける。

「いいから落ち着け。隙を見てここから一度引くぞ」
「え?」

 きょとんとした顔になったラングに向かって、ジーニが言う。

「状況が全く把握出来ていない。危険すぎるわ。一戦を交えるのは無謀、そして無意味よ」

 正直、あの狂王と同じくらいの実力であれば、戦闘はきついとしか言いようが無い。あの時は古代文明期の兵器を利用したが、今それはないのだから。
 ジーニの囁きに対し、人形のようにラングは頷いた。

「あ、は、はい」

 そして、その判断が正しい事がすぐに分かった。
 骸骨の後ろに、突如3体の魔物が現れた。どす黒い紫色の肌をしており、背中には大きな翼が生えている。体長も2mは優に超えているだろう。
 ギルがジーニに訊ねる。

「・・・・・・逃げ切れるか?」
「途中の階段まで行ければ、後は逃げ切れるわ。あの階段は狭いからね、小さなこっちが有利よ」

 今のこの距離が、冒険者たちのアドバンテージである。その使い方を間違えれば、彼らの人生はあっけなく幕切れとなる事だろう。
 じりじりと広間の入口近くまで後退し、身動きの無い相手を不審がりながらこのまま逃げ切れるかと思われたが・・・・・・その瞬間。

「ヴオオオオオオオオオオ!!!」

 大きな咆哮と共に・・・・・なんと、魔物が奥からゾクゾクと湧いてきた。その数、50体以上。

37satan

「走れーーーッ!!」

 ギルの叫びと共に、命を賭けた鬼ごっこが開始された!

2013/04/11 18:18 [edit]

category: satan

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