Thu.

satan 9  

 鬱蒼とした木々の中。
 軍の要人というからどれだけ手強いかと思っていたが、所詮は金で地位を買った人物と言うべきか、気絶から復帰したカウフマンが本物の殺気をもって問いを放ってきた冒険者たちを手こずらせたのは、最初の三分だけであった。
 ミーナの残したダガーを片手に、ジーニが笑いを含んで言う。

「カウフマン。自分をよく見てみて」
「!?」

 顔、腹を中心に、ドロドロとした薄黒い液体で濡れている。気絶中に、ラングが皮袋から彼に振り撒いた油であった。

「一度、火をつけたが最後。どうしようも出来ないわ。もう一度だけ聞く。ヴァニラと子供達はどこ?」
「や、やめてくれっ!!ほ、本当だ!!本当に知らん!!」
「・・・・・・じゃあ、別な質問をしましょう。イエスかノーで答えて。ヴァニラは、ザンダンカルの人間なの?」

 ジーニは、黒ローブの男のようにカウフマンが呪法を仕込まれていた時の用心のため、余計な事を喋らせないようなやり方に変えて質問を続けた。
 ヴァニラはここの人間では無いという。であれば、治安局でも探し出せないような拠点を彼が自分で持ち得たとは考えにくい。
 空き家か何かを与えたのか、という質問に対してカウフマンは否と答えた。

「何でもいいわ。ある一定の大きさを持った場所よ。そう、子供を何人も置いておける・・・・・・」
「ノ、ノーだ」
「奴と話した内容を全て思い出すのよ。・・・・・・思い出して!!」

 ダガーを持つ手に力が篭ったのを見て、脂汗まみれになった元貴族は悲鳴を上げた。

「ヒィ!!し、知らん!!あ・・・・・・広い場所・・・・・・・・・?」

 そしてカウフマンは、ヴァニラに教会を確保してほしいという要望を思い出したのである。
 魔王捜索で候補となった教会。捜索など形だけだったため、地下は人が立ち入らないようになっているだけで、後は何も知らないという。
 地下への入口をテキパキと聞き出したジーニは、続けて殺人事件と子供の誘拐についての目的についても聞き出したが、それはやはり彼らの推測どおりであった。
 呆れたように首を振った後、ギルはやや首を傾けて意見を聞いた。

「・・・・・・で、どうする?確証は無いが、教会に行くか?」
「そうね。でもその前に・・・・・・・・・」

31satan

 ジーニは再びダガーをカウフマンの首に近づけ、そっと脅した。

「よく聞きなさいよ、カウフマン。アンタは自力で治安局から逃げ出してきた。そして、このまま帰る。わかったかしら?」
「わっ、わかった!!」
「正直、アンタが権力を得ようが得まいがどうでもいいわ。ただし、間違っても今回の件で騒いだら・・・・・その時は殺すわ」

 仕上げにカウフマンから趣味の悪い指輪を貸すよう求め、渡されると同時に後頭部をナイフの柄で殴って気絶させた。

「殺さなくていいのか?」

 エディンがいつもの口調で言う。
 ジーニは、ダガーを持つ間ミナスが抱えていてくれた≪死霊術士の杖≫を持ち直すと、小さく肩をすくめた。

「あたしたちが真っ先に疑われるし、バイゼルも困るじゃない」
「この豚、喋らんかねぇ」
「自分も後ろ暗いところがあるんじゃ無理よ。せいぜいがとこ、殺し屋に暗殺依頼ってとこでしょ」

 それくらいなら何とでもなるだろう、と付け加えたジーニにエディンは苦笑した。かつて自分が”白い夢魔”というアサシンに、同じ事を言ったことがあったからである。
 ラングが激情のあまり気絶したカウフマンを殺しかかったが、そこはアレクが止めた。
 今更この愚かな元貴族を殺した所で、犠牲となった者たちは帰ってこない・・・・・・そして、自分達の今すべき事はミーナたちの救出である・・・。
 ラングと”金狼の牙”たちはその場にカウフマンを残し、教会の裏口へと向かった。すでに黄金色の夕日が、地平線へと向かい始めている。
 かけられていた鍵を事も無げにエディンが外し、一同は彼を先導にして中へと進む。
 見える範囲でも、部屋が数室あることが分かるが、特に扉などの敷居は無く、大まかに分かれているだけのようだ。

「・・・・・・それほど広いと言うわけでもないな」
「何かありそうか?」

 一室ずつ覗き込んで確認するエディンに、ギルが声をかける。

「・・・・・・・・・発見っと」

 エディンは埃の少なさに気づき、部屋の片隅に置かれていた箪笥を動かした。裏側に隠されていた階段が現れる。
 恐らくヴァニラたちは、この道を何度も繰り返し通っているのだろう。
 怯えと緊張から固くなったラングを真ん中に挟むようにして、一行は隠し階段を降りた。

「・・・・・・駄目だ、これ以上は暗すぎる。ラング、火だ」
「は、はいっ」

 アレクから促されたラングが手探りでランタンに火を灯す。
 体が震えているのか、先ほどからカチャカチャと金属を打ち合わせる音が、妙にギルの耳に障った。

「ラング、もう少しだけ静かに歩こうぜ。さっきから金属音が酷い」
「は、はい!す、すみません!」

32satan

(駄目だ・・・・・・普段の動きが出来ていない・・・・・・)

 しかし、自分が指摘をすればもっと緊張してしまうだろうと、アレクは黙っている事にした。いずれにしろ、ランタンまで灯してしまえば敵方にばれるのも時間の問題だからである。
 慎重かつ素早く階段を降り続けていくと、先には微かな灯火のともる場所があるようだ。奇襲できる可能性を残すために、ギルとジーニはラングに言ってランタンを消させた。
 小さな部屋の向こうに通路が見えており、光はその先から来ているようである。
 冒険者たちは支援魔法を小さく唱えて準備を済ませると、一気にその通路を駆け抜けようとした。
 ギルが言う。

「・・・・・・行くぞ」
「・・・・・・ん?」

 先に一歩を踏み出していたエディンが、足先に違和感を感じて下に視線をやる。

「・・・・・・どうした?」
「・・・・・・皆、動くな」

 アレクの疑問に強張った声でエディンが答えた。視線がしばらく辺りの床を這い回り・・・・・・ラングの鉄に包まれた足先に止まる。

「ラング・・・・・・お前さんの足元・・・・・・」
「・・・・・・え?」

 ラングの足元に小さな子供が横たわっている。
 急いでラングは子供の身体を抱き上げるも、その身体は冷たい感触しか返してこなかった。

「死ん・・・・・・・・・でる・・・・・・グ・・・・・・何で・・・・・・何でこんな・・・・・・」
「・・・・・・殺されたのは、さらわれてからすぐのようですね」

 アウロラの手が虚ろと化した子供の目を覆い、その瞼を閉じさせた。

「主よ、哀れな子供の魂を導きたまえ・・・・・・」

 次第に暗闇にも慣れ辺りが見えてくると、彼らのいる小部屋には今まで行方知れずとなっていた子供たちの遺体が、価値の無いガラクタのように放り出されている事が分かった。

「ミーナはいないようだな・・・・・・」

 流石と言うべきか、エディンは冷静にその遺体の中に同行してきた少女の姿が無い事を見抜いた。
 それが耳に入っていたのかいないのか――カチャカチャ、と金属鎧の震える音がした。

33satan

「ク・・・・・・・・・クソォーーーーーッ!!」

 ラングは叫ぶなり奥の通路へと駆け出した。ギルが真っ先に動き出す。

「追うぞ!」

2013/04/11 18:15 [edit]

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