Thu.

satan 8  

 カウフマン。
 かの貴族が男達を雇い、親を人が食べたように見せかけて子供をさらうように命じた――そんな驚きの証言を吐いた男は、しかし”ヴァニラ”と言う男の目的や詳細を話そうとした瞬間、事切れた。
 時限式の魔法・・・・・・呪法に近いものだが、それが黒ローブの男の胸部を吹き飛ばしたからである。

25satan

 それでも、現場から真っ直ぐ治安局に戻り、冒険者たちはバイゼルや局員たちと共にカウフマン邸へと向かった。
 バイゼルは消極的であったが、軍の要人であるカウフマンを証拠の無いまま拘束することが出来たのは、彼が冒険者と共に屋敷へ踏み込んだ直後に起きた、裏口における惨劇のおかげとも言えた。
 8人の治安局員が【炎の玉】のような呪文で焼き殺された跡――そして、得物の短剣を裏口に残したままのミーナの不在。

「どこだ!!ミーナをどこに連れて行った!!」

26satan

 激昂したラングがカウフマンの喉元を掴みあげて詰問したが、それはアレクが羽交い絞めにして止めた。

「止めろ、ラング!」
「ウ・・・・・・ゲホゲホッ・・・・・・無礼者が・・・・・・」
「カウフマン殿」

 形式だけは恭しく「殿」と付けながらも、バイゼルの目は怒りに燃えていた。

「あなたの家から逃亡した者がいる。これはどういうことですか?」
「・・・・・・・・・さぁな?」
「どこへ逃げた!!答えろ、カウフマン!!」
「・・・・・・・・・愚民が。証拠があるなら咆える前に出せ。裏口で誰が野垂れ死のうと私には関係ないことだ」
「・・・・・・・・・クソッ。連れて行け」

 こうして治安局は彼の身柄を拘束したのである。
 しかし、カウフマンはそのふてぶてしい態度を改める事もせず、このままでは金による伝手を持った彼を拘留し続けることが出来ない。
 何かの証拠が残っていないかとカウフマン邸での調査をするも、無為に終わり苛ついた冒険者達が重い足取りで街中を通りかかると、そこには市民たちが妙に集まっている場所がある。

27satan

「魔王だ!魔王が蘇ったんだ・・・・・・!数日も立たない内にザンダンカルは悪魔で満たされ・・・・・・血の海に覆いつくされるであろう!!」
「この事態に、今の議会は何の手も打てずにいる!!ただ市民に事態を隠しているだけだ!」
「なっ・・・・・・!」

 話している内容にアレクは驚愕した。事件はある程度伏せられているのに、その話を持って市民を暴徒化しかねない扇動を行なう者がいるとは。

「我々は今こそ立ち上がり!議長の更迭!!更には全権限を軍に委ねるようにしなければならない!!」
「そんなこと・・・・・・!」

 前の圧政に戻るだけじゃないかと、ミナスがカッとなって進み出ようとするのを、慌ててエディンが襟髪を掴んで引き戻した。
 あそこに集っている市民は頭に血が上っている。よそ者でしかも亜人であるミナスが否定を唱えたら、どんな事をするか分からない。

「魔王を信じる市民にとっては街の破滅ってわけね」
「俺たちには理解できない話だがな」
「でも・・・・・・!」

 ジーニとギルが殊更静かな声で話していたのに、ラングが異を唱えた。

「もう誰も・・・・・・殺させない。ミーナだって・・・・・・・・・」

 だがちょうどその頃。
 貴族派の政敵たちによって更迭される危険性を重視した議長は、その伝手を使われる前にカウフマンの釈放をバイゼルに命じていた――。

「・・・・・・・・・すまん。もう尋問は出来ん・・・・・・・・・すまん・・・・・・」

29satan

 治安局にたどり着いた一行の前で、バイゼルは頭を抱えて落ち込んでいた。ミーナの捜索やカウフマンの調査に当たりたいだろうに、その人手を全て暴動と化しそうな市民の鎮圧へ回すようにとも命じられてしまったからである。
 アレクは静かに発言した。

「・・・・・・暴動の鎮圧も分かる。俺も途中で見てきたしな・・・・・・だが、だからこそ、カウフマンから情報を引き出すべきだ」

 暴動を起こしている市民は、まるで魔王が復活するとでも思っているようであった。多分、それこそがカウフマンの狙い。
 市民から選出した議長をこの騒動によって更迭させ、悪魔退治の名目で軍に全権限を預けさせる――クーデターである。
 それを聞いたバイゼルは、しかしもう議長は自分と話し合うつもりが無いのだと告げた。既にこれ以上、彼が打つ手は残っていない。

「ミーナのこと・・・・・・頼んだぞ・・・・・・」

 部下の事を案じているバイゼルは、最後までそれのみを口にして冒険者たちの前から去ったが、”金狼の牙”たちは目の輝きを失っていなかった。

「いずれにしろ、今はカウフマンから情報を聞き出すのが第一よ」
「・・・・・・・・・だな」

 アレクによるジーニへの同意に、ラングが焦りから口篭りながら訊ねる。

「で、でも、どうやるんですか!?もう釈放じゃ・・・・・・」
「すでに選択肢は無いわ。あとは決断しだいよ。・・・・・・でしょ、リーダー?」
「うん。よし、やるぞ。まずは・・・・・・・・・頼む」

 ギルが目を向けたのは、普段と変わらず眠たそうなエディンの顔である。
 「わかった」とだけ告げると、エディンはその場から音も立てず奥に消えていった。

「な、何をするんですか?」
「・・・・・・。ラング。冒険者にとって必要なのは何だ?」

30satan

「え?やっぱり・・・・・・いざっていう時に重要な決断が出来る事だと思います。僕には欠けてるけど・・・・・・」
「・・・・・・その通りだ。今必要なのは決断力」

 なら今からすべき事も分かるだろう、とアレクは落ち着いた様子で言った。

「すでに俺達に残された選択肢は多くない。つまり、目的達成の為には、やばい橋を渡る必要がある」

 それでも、自己犠牲を承知の上でミーナを救う覚悟がお前にあるのかと、アレクはラングに問うた。
 彼の返答はごく短かった。

「・・・・・・・・・勿論です」
「わかった」
「・・・おい」

 静かにエディンが舞い戻ってきた。

「奥の客間だ。もうすぐ釈放とあって警備も居ない。予想通りだな」
「よし」

 ギルが皆に頷く。
 バイゼルが先に渡しておくと卓上へ置いていった報酬を回収すると、彼らは颯爽と歩き出した。
 その後――それなりに見栄えのするよう整えられた客間から、釈放されてバイゼルへの仕返しを脳裏に描いていたカウフマンが消えた。

2013/04/11 18:10 [edit]

category: satan

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top