Thu.

satan 7  


 ”金狼の牙”たちは、ミーナやラングと共に西南地区の周回に当たっていた。
 1時間ほど前から突然豪雨が降り出したために、全身がずぶ濡れになっている。視界は雨のせいで十数メートル先は見えない状態だ。
 酷い雨だな、と愚痴りつつ周回を続けていると・・・・・・。

「・・・・・・何か・・・・・・聞こえなかったか?」

 エディンが眠たげな目をじっと雨の向こうに据えて言った。

「え?」

 ミーナがぽかんとした表情で聞き返す。
 その隣で、ジーニも柳眉をしかめつつ「いえ、何も・・・・・・」と否定しようとしたが、そのとき犬の吠える声が全員の耳に届いた。
 アウロラが呟く。

「・・・・・・犬!?」
「・・・・・・行くぞ!!」

 ギルの号令で、全員が犬の声の方角へと走り出した。
 途中から犬が悲しげな咆哮をあげて静かになる。
 事態の切迫していることに嫌でも気づかざるを得ない・・・・・・”金狼の牙”たちは、泥はねにも構うことなく足の速度を更に速めて一軒の家になだれ込んだ。
 奥には血まみれの男女と、恐らくその子供らしき黒髪の幼児が倒れているが、こちらからでは生死の区別まではつかない。傍には息絶えた犬が転がっていた。
 その少し手前に、怪しげなローブ姿の男が二人。

「チッ・・・・・・何たることじゃ・・・・・・」

 年長らしき男の方が、冒険者たちをじろりとねめつけ舌打ちした。
 仲間たちですら滅多に聞かないような底冷えした声で、ギルが詰問する。

「・・・・・・何をしている」
「・・・・・・・・・」

 男たちからの応えは無い。

「何をしているかと聞いてるんだ!」

 ミーナはその声の怖ろしさにぶるりと身を震わせた。
 彼女は知らない――ギルには、”月姫”と呼ばれた少女との約束があることを。子供に愛情を与え、守ってやる大人になると彼は約束したのである。

「お主らには関係無いことよ。しかし、見られた以上、生きて帰すわけにはいかんな・・・・・・」
「・・・・・・それはお前らだ」

 言うなり、ギルの斧が唸りをあげて風をも切りうる斬撃を年長の男へと放ったが、その一撃は手前に立ち塞がった黒ローブの男に邪魔される。
 咄嗟に、横から踏み込んでいったエディンが【花散里】を放ち、ローブの男たちの身体を氷の花弁で切り刻む。
 たたらを踏んだ彼らに向かい、

「イフリートよ、その吐息の一部をここに!」

と言って、ミナスの小さな手の平から業火が迸り、ついに黒ローブの男が倒れる。
 しぶとく残っていた年長の男が、彼らに抵抗しようと何かの印を結び始めた瞬間に、アレクは熟練の舞い手のように躍りかかり≪黙示録の剣≫から不可視の風圧を放った。
 風の刃によってぼろぼろになったローブを握り締めつつ、年長の男は呻き声をあげる。

「な、なんじゃこいつら・・・・・・こんな手練れが居るとは、予想外じゃ・・・・・・」
「さあ、おとなしく捕まってもらおうか」

 でなければ殺す――言外にそれだけの意味を込めて、ギルが一歩踏み出した。

「クゥ・・・・・・かくなる上は・・・・・・」

 男の右腕が微かに動き、ルーン文字による簡易詠唱を呟く。すると、年長の男と倒れていた子供の姿が薄れていく・・・・・・。

「・・・・・・!?消えた!?」
「ど、どこだ!?どこにいった!?」

 ギルとラングが驚きの声をあげる。
 どうやら転移の術を使ったのだろうと、アウロラは苦々しげに言った。
 厳しい顔つきになったアレクが、そっと血まみれの男女の方へと近づく。
 エディンもそれに気づいて彼らの脈を取るが、既に手遅れであった。

「でも・・・・・・昨日の事件とは明らかに異なるな。父親は酷い状態だが、母親は一突きで殺されているだけだ」
「母親を食べる前に、俺たちが来たって事か?」

 残っている黒ローブの男をふんじばりつつ、ギルが訊ねる。

「・・・・・・わからないが、恐らくは・・・・・・」
「ちょい待って」
「ジーニ?」
「父親をもう少し詳しく調べて。少し気になる点が・・・・・・」

24satan

 エディンはそれ以上無駄口を利かず、父親の遺体を改め始めた。

「・・・!・・・・・・一見、食われている様に見える。が、散らかしているだけでどこも無くなっていない」
「つまり、食べたように偽装しているということですか?」

 アウロラのあげた声にエディンは小さく首肯し、髑髏の杖を顎に当てている仲間へ向き直った。

「なぜ、わかった?」
「こいつの口元を見てみて、エディ」
「・・・・・・そうか。血で濡れていない」
「最初の事件も偽装だった可能性は無い?」
「今となってはあまり自信は無いな」

 大人組みの静かなやり取りに、震えを抑えた声でラングが横槍を入れた。

「しかし、何故・・・・・・です?何故、こんな事する必要が・・・・・・」
「わからない・・・・・・わからないことだらけよ。それにまた子供をさらっていったわ。何故なの?」
「それは、この人から聞くとしよう」

 すっかり身動き取れないように縛り上げられた男へ、アレクは冷たい一瞥をくれた。

2013/04/11 18:06 [edit]

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