Thu.

satan 6  

「・・・・・・大丈夫か、ラング?」

 アレクはそっとラングに声をかけた。
 彼は子供の遺体を見て軽い貧血をおこしたのである。
 ミーナから手渡された水を飲んで少し生気を取り戻したらしいが・・・・・・。

「先ほどは・・・・・・すみません・・・・・・動揺してしまって・・・・・・」
「・・・・・・しょうがない」

 あの現場ではな、とアレクは呟いた。

「だが、次は無いぞ。何を見ても、動揺だけはするな」
「わ、わかりました!」

 ラングは元々、他の仲間たちを引っ張っていく立場である。リーダーの責務を負う者が動揺しては、気づくはずの事にも気づけず、仲間の命を落とす原因を作るかもしれない。

「それで・・・・・・何かわかりましたか?」

 ミーナが遠慮がちに質問した。
 バイゼルが首を縦に振る。

「とりあえず、一から順を追って話そう」

 まず死体の状態は死後から大分経過しているようである事。このことから、子供はさらわれてすぐ殺されたのだろうと思われる。
 次に殺人現場。大量の血痕から言っても、発見された場所がそうと睨んで間違い無さそうだ。
 そして・・・死因。

「エディンが、非常に重要な点を発見してくれた」
「な、何ですか?」

 ラングが勢い込んで尋ねる。

「重要というか・・・・・・おぞましい話でもあるんだが・・・・・・」

と注釈を付けておいて、エディンは死体にはある痕跡があったと短く指摘した。

21satan

「・・・・・・恐らく食べられてる」
「なっ・・・・・・」

 流石に絶句したラングに、エディンは腹や太ももなどの柔らかい場所を中心に、子供の肉がなくなっていた事実を説明した。
 そして、人が食べたのであろう痕跡があるということも。

「人が、人を食べるなんて・・・・・・そんな事あるわけない!!あれは・・・・・・あれは、魔王の仕業です!!」

 激昂したラングに、エディンは苦い顔で答える。

「俺もそう思いたいところだがね・・・・・・だが、二つの証拠がそれを示している」

 1つ目は子供の連れ去り方。野犬やその類ではあり得ない・・・・・・少なくとも、人と考えるのが妥当である。
 2つ目は足跡。現場に大量の出血により、不完全ながら足跡が残っていた。足のサイズは人と同等。そして何より、二足歩行で歩いている・・・。
 バイゼルが口を開いた。

「問題は動機だ。それが全くわからん。あれじゃあ、まるで・・・・・・・・・」
「食べたかった・・・・・・」

 ぎょっとした顔でラングがエディンを見つめた。バイゼルの言葉尻を奪ったエディンの台詞が、まるで犯人の自白のように聞こえたからだ。
 エディンは顎に微かに残っている髭を弄りつつ、真っ直ぐにラングの碧眼を見返した。

「そうとしか考えられない・・・・・・」
「狂ってる・・・・・・」

 苦悩から頭を抱え込んでしまったラングをそのままに、ジーニはバイゼルにこれからどうするのかと問う。

「そうだな・・・・・・まずは、現場付近の家を一軒ずつ聞き込む。犯人がまだ近くに潜んでいるかもしれないし、何か目撃情報があるかもしれん」
「妥当なところね」
「局員もなるべくこっちの担当に回す。失踪事件から、凶悪な殺しになっちまったからな・・・・・・・・・」
「じゃあ、あたしたちも聞き込みに回る?」
「いいのか?俺がお前たちに頼んだのは、子供の捜索だ。犯人の確保じゃない」

 バイゼルの言葉に、ふんと鼻を鳴らしてジーニは言った。

「何を言ってるの。依頼を受けた時点で、犯人の確保まで当然含まれているわ」
「じゃあ、少しだけ待っててくれ。人員を整理した後で、担当区域をミーナに知らせる」

 ・・・しかし、割り当てられた担当区域の調査ははかばかしい結果を生むことは出来ず、一行は他の区域の報告を治安局で待つことになった。
 すでに時刻は夜となっている。

「! 戻ってきたか!?」

 バイゼルが駆けてくる足音にハッと顔をあげる。
 一人の治安局員が、息を切らしながら戻ってきた。深刻な表情をしている。

「た、大変ですっ!新たに行方不明者が出てます!」
「な、なんだとぉ!」
「また子供がさらわれたのか!?」

 アレクがそう問い詰めると、治安局員は激しく首肯した。

「は、はい。子供です!しかし、今度は両親が・・・・・・・・・殺されています」

22satan

「クソッ!なんて事だ!」

 犯人への憤慨を露にするバイゼルを余所に、ジーニは現場の状況を説明するよう治安局員へ促した。
 子供の両親は寝室で殺されており、部屋中が血の海になっていると言う。
 昨日の夕方頃には被害者の目撃証言があった事から、犯行は恐らく昨日の夜から今朝にかけて行なわれたことが分かっている。

(最初の犯行が一昨日の夜・・・・・・そして、昨日か・・・・・・ペースが早い・・・・・・・・・)

 ジーニは心中でそう呟きつつ部屋の物色跡があるかを訊ねたが、めぼしい金品が残っている事から物取りとは思えないと返答があった。
 周辺捜索はまだ行なわれておらず、これからすぐ捜索を開始するそうだ。
 死体の状況などから見ても、恐らく同一犯で間違い無いだろう。

「・・・・・・・・・わかった。とりあえず、現場に案内して。まず、状態を見てみたいわ」
「ああ、そうしよう・・・・・・」

 そう、バイゼルが頷いた時。
 また別の治安局員が、子供の失踪を知らせに来て――――結局、ザンダンカルで計三名もの子供が失踪していることが判明した。
 驚愕の事実から水を打ったように静まり返った治安局内で・・・・・・まず発言をしたのは、ギルであった。

「バイゼル」
「・・・・・・な、なんだ!」
「わかっているとは思うが、今すぐ動く必要がある」

23satan

 犠牲者が急激に増え、しかも犯行はいずれも恐らく夜。今この時間帯に再び事件が起こっている可能性は高い・・・・・・。

「今すぐ、西南地区の各所に治安局員を配備し、警戒に当たらせた方がいい」
「わ、わかった」
「・・・・・・冷静にな、バイゼル。上の動揺は下に伝わる」
「・・・・・・そうだな。悪ぃ」

 そして彼らも動き出す――。

2013/04/11 18:05 [edit]

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