Thu.

satan 3  

 史跡局の調査は・・・・・・いきなり先行き不安に包まれた。
 なんとなれば、見たことも無いほど大量に山積みされた本が、彼らの行く先を塞いでいたからである。

8satan

 史跡局の者に話を聞いたところ、少なくとも史跡局で地下を使用したことは無く、不要な本の投げ捨て場になっているらしい。
 足の踏み場も無いほどの本のひどい散乱具合に、本好きのアウロラがぐらりと倒れかかり、慌ててラングとギルが彼女を支える一幕もあった。
 結局、人手は彼ら冒険者たちとミーナしかいないのだという返答を受け、力をあわせて片付け始めたものの・・・・・・日が落ちかかり暗くなるまで作業を続けたにも関わらず、一行に目的地は見えていなかった。
 一同は続きを明日に回し、手配して貰った宿で疲れきった身体を休めていた。
 ミーナは「また明日」と言って帰り、宿の亭主が用意してくれた夕飯をゆっくりと胃の腑に収める。

「だあー、生き返ったー!」
「ちょっとエディ、おっさんくさい!」
「アレク、僕このお肉切れない・・・」
「貸してみろ」
「ラングも今日はお疲れ様です。さ、一杯どうぞ」
「あ、すいません、アウロラさん」
「亭主、こっちエールお代わり!」

 なんとも賑やかな一行である。それでも満腹になりちょっと一息ついたころで、エディンが木の杯を片手に亭主へ声をかけた。

「なあ、ご亭主。確か、ここにはカウフマンだかって貴族がいたと思うんだが・・・・・・」
「カウフマン?お前よく知ってるな」
「名前ぐらいしか知らねえよ。仕事の関係で、ちょっとどんな奴か知りたいだけさ」
「まあ、有力貴族の一人だ。一時は落ちぶれたんだが、最近また盛り返してきたな。・・・・・・私は嫌いだ。まあ、奴を好きという人間はいないが」

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「ふーん、そういう輩なのかい」
「っと、そうでもないか。金が好きな奴はカウフマンが好きだからな」

 宿の亭主は、眉尻を下げた笑いを顔に貼り付かせた。

「困った事に、議会にも多々そんな奴がおるんだよ・・・・・・困ったもんだ・・・・・・」
「ああ、全く困った奴らだな。・・・それと街中で聞いたんだが、魔王が復活してどうとか?」
「魔王だって?ああ、勿論知っておるよ。一部では、本気で信じている奴もいるみたいだが・・・・・・」

 宿の亭主が語ったのは、役場にて議長が語ったそれと大差なかった。
 亭主自身もまた、魔王の復活とやらは信じていないらしい。一度は見てみたいものじゃが、などとおどけている。
 ただし、その魔王のせいで一部治安が不安定になっているそうで、その伝承に煽られた者が暴徒化しているのだという。

「じゃから、これ以上魔王で騒いで欲しくないのが本音じゃ。騒げば騒ぐほど暴徒が増えるからな」
「・・・・・・なんだか気に入りませんね」
「ん?どうした、アウロラ?」

 ギルは、やや俯き加減になって思考を始めたアウロラの顔を覗きこんだ。

「いえ。魔王だのなんだのと、そういう噂で世間が不安に駆られるのはともかく、暴徒などが発生するほどのものなのだろうか、と思いまして」

 どこか作為的な匂いがすると小さく続けたアウロラの意見に、”金狼の牙”の仲間たちは顔を見合わせた。
 ラングは既に酔いつぶれ、テーブルに突っ伏している。
 やがて顔をあげたアウロラは、小首を傾げるようにして宿の亭主へ質問を投げかけた。

「ご亭主、こちらに騎士団などはいないのですか?」
「勿論おるよ。どうしてじゃ?」
「いえ、まだお見かけしてませんので・・・・・・」
「まあ、他の都市から比べたら少ないのは確かじゃ。この都市では、治安組織そのものが都市の軍勢になろうとしているからな」

 形式上、ザンダンカルの騎士団は議会の下に位置しているが、現実的な問題を多く抱えている。
 騎士団の多くは、昔からの貴族が中心である。
 議会に属しているとは言え、元は一般市民から指示されるというのはプライドが許さないらしい。表立って言わないだけである。
 そんな事情があるので、議長は治安組織を拡張し、新たな都市軍勢を作ろうとしているというのが実情らしい。

「言う事を聞かない獅子より、言う事を聞く狼を飼い慣らしたい・・・ってところですか」
「市民のための都市とか聞いてたが、思ってたよりゃあ色々あるんだなァ」

 アウロラとエディンがそこまで話したところで、ジーニが「そろそろ休まない?」と提案した。

「明日だってあの本の山が待ってるんだし、さ。備えて寝ておきましょ?」
「そうだな、ジーニの言うとおりだ」

 ギルが頷き、突っ伏していたラングの身体をアレクが担ぎ上げた。

「男部屋はラングでちょうど4人になりますから、ミナスは私たちの部屋で寝ましょう。ではおやすみなさい」
「うん!エディン、ギル、アレク、おやすみなさーい!」
「ああ、おやすみ」
「おう。じゃあな」
「ちゃんと寝ろよ」

 仲間たちが挨拶を口にしながらそれぞれの部屋へ分かれる中、ジーニが無言のまま手を振り、ちらりと窓の外を見上げた。
 夜空にもそれと分かる暗雲が垂れ込めている。

「・・・・・・なーんか、嫌な予感すんのよね」

 この時のジーニの勘、そして先ほどのアウロラの懸念が当たるとは、誰もまだ毛筋ほども思ってなかったのである・・・・・・。
 そして2日目、今までの経過を治安局にいるバイゼルへまず通達した一行は、彼から驚くべき事実を耳にする。

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「教会は調査が出来なくなった。ちょっと問題が発生してな」
「調査が出来なくなった?」

 目を丸くして鸚鵡返しに訊ねたのはアレクであった。
 何でも、噂のカウフマンという貴族が自前で調査員を雇ったのだという。
 この町が出来た当初から幅を利かせていたが、40年前に革命を起こされてからは領主の座を退き、財産の豊富な一市民として不本意な生活を送るだけの男だったはずだが、何故そんな出すぎた真似をしでかしたのか。
 「魔王捜索の協力を」と言い出しているそうだが、バイゼルには手ごろな売名行為にしか映らず、不審を抱いているらしい。
 とにかく、ラングや”金狼の牙”たちの仕事が減るのかというアレクの問いには、バイゼルも胸を叩いて、

「これは治安局の仕事だ。カウフマンなんて豚にやらせる訳にはいかん」

と言い放ったものの、さりとてさっさと断るわけにもいかないそうだ。まったく迷惑な話である。
 ジーニが心配した報酬の減額はしないと請け負ってもらい、彼らは渋々史跡局での調査を続行している。
 ひと際ぼろぼろの装丁になった本を丁寧に片付けながら、ジーニは舌打ち混じりに呟いた。

「それにしても、いけ好かない豚野郎だったわ」
「まあまあ、ジーニ。・・・・・・そりゃあ、私も腹に据えかねたところはございましたが」

 煌びやかな服装が全く不似合いなカウフマンとは、バイゼルとの打ち合わせの最中に顔を合わせたが、「勝手に教会を調査するつもりか」「お前等はクズの冒険者か」等という台詞を浴びせられ、不愉快極まりない邂逅だったのである。
 ふふん、とジーニは鼻で笑って言った。

「あの太っ腹に【魔法の矢】で風穴空けてやりたいわ。さぞ、いい風が通るでしょうよ」
「・・・・・・それよりも、あの黒ローブだろ」

 エディンはカウフマン本人よりも、その後ろにつき従うようにしていた黒ローブ姿の男の方を気にしていた。
 何しろ、目をあわせた途端に凄まじい殺気を放ってきたため、反射的に得物に手を伸ばしてしまったのである。

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(馬鹿なっ・・・・・・ここでやる気か!?)

等と、エディンは背中に冷や汗を掻いていたくらいだ。
 彼はかつて”白い夢魔”という暗殺者と死闘を演じたほどの男である。殺気については慣れている、と言っていい。
 しかし、あの時感じたのはそれまでと比較にならないようなシロモノだった。

「なんなんだ、あの殺気は・・・・・・・・・異常だ」

2013/04/11 18:02 [edit]

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