Thu.

satan 2  

 ノック後に現れたのは、この街の治安局員であるバイゼルという壮年の男だった。
 議長からあらかた必要な事項を聞き取り終わっていた”金狼の牙”たちは、議長室を退出し、役場の一角にある治安局まで案内されていた。

「それじゃあ、早速で悪ぃが、依頼の説明をさせてもらうぜ」
「ああ」
「今後の指示は議長ではなく、俺から出る。宜しく頼むぜ、優秀なリューンの冒険者さんよ」

5satan

 言葉だけなら低次元のイヤミとも取れるが、バイゼルの闊達とした様子から判断するに、それは他愛の無いからかいのようである。
 ジーニがやや柳眉を上げただけで、一同は再びバイゼルの説明に耳を傾けた。

「・・・・・・で、もう聞いたかもしれんが、お前たちが担当する調査場所は2箇所だ。西南部の聖北教会、そしてザンダンカル史跡局。以上だ」
「詳細を知りたいんだが・・・」
「一つずつ説明しよう・・・・・・と・・・・・・・・・ミーナッ!あれ持って来い!」
「は、はい!」

 ミーナと呼ばれた一人の女性が現れ、その手に持ってきた紙をテーブルの上に広げた。地図の様だ。

「先にこの街の地図を渡しとく。お前らに調査をお願いしたい場所はすでにマーキングしてある」

 そして、とバイゼルは付け加えた。

「お前らにはコイツ・・・・・・ミーナというんだが、コイツを付ける。この街の案内人というか、お前らの世話役みたいなもんだ。こき使ってやってくれ」
「よ、よろしくおねがいします」

6satan

 長い銀の髪を揺らしながらミーナが敬礼した。年の頃はおそらく、アレクと同年代くらいであろう。若草色の瞳が緊張と期待の光をはらんで煌いている。
 冒険の素人を連れ歩くのは危険だし、今回においては新米のラングも同行している。
 もしこれが探索ではなく討伐の依頼であれば、”金狼の牙”は彼女を置いていったであろう。しかし、この依頼では承諾せざるを得なかった。
 バイゼルが地図の一部を突付いて言う。

「じゃあ話を戻して、まずは、西南部の聖北教会だ。この教会は数百年前に建設されており、この町で最も古い建物の一つだ」
「中はどんな感じなの?」
「俺も調査候補の絞込みのために先日立ち寄り、事前調査を行なったが・・・・・・特に地下室はかなり酷い状態だった」

 ミナスの質問に、彼はゆるゆると首を横に振る。

「教会の人間にも聞いたが、実際ここ何十年は地下室を全く利用していないらしい。ガラクタの物置・・・・・・とか言ってたな」

 教会の地下に”魔王”を封印するとも考えにくいしな、とバイゼルは語ったが、”金狼の牙”の面々は苦虫を潰した様な顔になって言及を控えた。
 かつて彼らは、廃教会の地下に閉じこもっていた元人間の怪物を退治してしまった事がある。
 あれは先に依頼を受けていた同じ宿の冒険者をやられていたからとは言え、苦々しい思いはまだ胸にわだかまっていた。
 そうとも知らず、バイゼルは話を続ける。

「次に史跡局だ。歴史は浅いが建物は十分古い。元々は国の研究施設として設立されたもので、近年になって史跡局が使用している」
「こちらの中の調査はお済みですか?」
「ここは・・・・・・実は全く見れていない。別に何か理由があるわけじゃない。単に時間が無かっただけだ。色々忙しくてな・・・・・・」

 その「色々忙しい」と言った時の思い悩むような陰のある調子に、ラングは気づかなかったが、ジーニはじっとバイゼルの顔を見つめた。

(それだけ・・・・・・本当に少ないわね。いずれにしろ、これからが本格的な調査という段階か・・・・・・ただ史跡局側が全く見れてない、ってのが気になるわね・・・・・・・・・)

 そして、アレクはアレクでラングの顔を見やっていた。

「・・・・・・ラング」
「・・・・・・はい?」
「『はい?』じゃないだろう。さっきから何を黙っている。お前が主導的に進めろ」
「そ、そうでした!すみません!」

 ラングは慌てて背筋を伸ばすと、バイゼルに確認した。

「え、えぇ~と・・・・・・バイゼルさん。話をまとめると、僕達が調査する2箇所は・・・・・・聖北教会と史跡局の2つである。教会はすでに事前調査済み、史跡局は事前調査前で特に情報なし」

 ということですよね?と念を押すラングに、バイゼルは同意した。

「となると・・・・・・まずは1次調査と言う事で、史跡局から調査を進めますか?」
「そうだな。まずは、状態・雰囲気・感触をつかんで報告して貰うとありがたい」

 それから本格的な調査を始めるとしよう、とバイゼルは言った。口は悪いが仕事には真面目な男のようで、事前調査が終わっていない点についてしきりに悪いなと謝っている。

「いえ、これが仕事ですからね。じゃあ・・・・・・ミーナさん・・・・・・でしたっけ?早速で悪いですが、史跡局までの案内をお願いしても宜しいですか?」
「は、はい!勿論です!」

 直立不動になったミーナは、一同をそのまま目的地へ先導し始めた。
 治安局を出てすぐに、ラングが大きく息を吐く。

「フゥ~・・・・・・緊張した。アレクシスさん急にふるから」
「何を言ってるんだ。お前がポケッとしているからだろ」

 ばっさりとアレクは言い捨てる。
 ラングは少し反省したような顔になった後、バイゼルとの交渉や今回の行き先決定について気になったのだろう、小声で問いかけた。

「ところで、あれでよかったですか?」
「・・・・・・50点、といったところか」
「えぇぇ!?後の50点は何ですか!?」
「好みもあるが・・・・・・俺なら先に教会から見るな」

 今回の依頼は、魔王を見つければそこで終了である。
 その場合、一番調査が進んでいる所から潰していった方が、全部捜索する必要がない分だけ早く終了できる。
 そこまでをアレクに指摘されて、ラングは「あ・・・・・・」と声を漏らした。
 勿論、全部を一度見て当たりをつけてから、本格的に調査を行なうのも間違いとは言い切れないので、好みの問題と言い添えてはいるが。

「それよりも報酬だな。確認しておくべきだった」
「えぇ!?1000spじゃないんですか?」
「違う。危険手当の事だ。議長が更に1000sp追加する事も考えてる、と言ってたろう?・・・・・・具体的な条件は?」
「危険・・・・・・・・・になったらじゃ無いんですか?」
「その危険という抽象的な事柄を、どうやって判定する?」

 そこまで説明されて、ラングは「ん~・・・・・・」と考え込んでしまった。
 アレクは、彼にしては珍しく饒舌に具体例を出した。

「だから予め決めておくんだ。戦闘行為が一度でもあった場合、危険手当をつける・・・・・・とかな」
「なるほど・・・・・・」

 そこまで講義が進んだ時、前を歩いていたミーナが遠慮がちに、名前を伺っても良いかと声をかけてきた。

「短い期間ですけど、一緒にお仕事するわけですし、お互いを知っていた方が何かと良いかと思いまして・・・・・・皆さんの・・・・・・関係とか諸々」
(関係?あ・・・・・・そういう意味か・・・・・・)

 アレクは心中で頷いた。回りくどい聞き方をしているが、ラングと他の冒険者の関係が中立でないため、どうやら不思議に思ったようだ。
 ミーナ自身は、治安局に勤め始めてまだ半年ほどの新米局員なのだという。
 それを耳にしたラングが、「半年!?じゃあ僕と同じだ!」と喜びの声をあげた。

「え?あなたもですか?・・・・・・すいません、お名前は・・・・・・」
「僕はラングミュア。皆はラングって呼んでるから、ミーナもそう呼んでくれればいいよ。それで・・・・・・」

7satan

 各々が自己紹介をしていく。
 ミーナはラングが自分と同じ新人の立場で、少し安心しているようだ。自分と近いものを感じるのだろう。
 互いに名乗りあえたところで、改めて史跡局に向かう事となった。

2013/04/11 18:01 [edit]

category: satan

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top