Thu.

satan 1  

 市民の市民による市民のための政治を行なう都市、ベール地方ザンダンカル――――。
 治安のいい大規模な半独立都市であり、その人口は大都市リューンの半数にも上る。
 整備された街道を馬車で4日も行けば、その威容を拝む事ができた。
 今回、”金狼の牙”がこの街に訪れたのは、後輩冒険者・ラングの指導依頼のためであった。
 指導依頼とは、上級の先輩冒険者が新米の冒険者とともに依頼をこなすことである。
 後輩への教育のためであり、基本的には依頼の選定から行動の方針までを彼らが決定する。
 その上で、先輩の指示を仰ぐのだ。
 後輩指導に今回当たるのはアレクで、その神秘的な容姿や魔法剣の腕に崇拝の念を抱いている後輩は、ほぼ有頂天になっていた。

1satan

 赤髪碧眼の後輩冒険者は、本名をドラゴ・ラングミュアという。
 通称、ラング。
 元々は騎士見習いだったが騎士というものに疑念を持ち、半年ほど前に転職した。今はまだ、ゴブリン相手に互角の勝負をする程度の腕だ。
 ちなみに、比較的老舗である≪狼の隠れ家≫のほかにも、こういった後輩への指導をしている冒険者の店はあるらしい。
 風の名前を冠するとある冒険者パーティが、指導依頼のはしりをやった――と言う人もいる。
 とにもかくにも、新米のラングが選んだ他2件の依頼、サイクロプス(村人の目撃証言から判断した)やマーマン(ラングの鎧は重いので却下)の退治をはねのけて「魔王探索」を選んだのは、ジーニの口添えがあったからであった。

2satan

「まあよく考えてみなさいよ。今までそんな依頼あったけど、実際はどうだった?」
「・・・・・・あの聖風教会から頼まれた魔王退治のことか?」

 アレクは眉を顰めた。
 かつて、シリス村という所には聖北教会の流れを汲む2つの勢力があり、森に潜むという魔王を退治した方の教会が村のお布施を受けられることとする、と村長が決定した。
 その魔王を退治するために冒険者達・・・つまり”金狼の牙”が雇われたのだが、森で実際に遭遇した魔王の強さは、肩書きからすると大したことはなかった。
 少なくとも、その後に聖雷教会の襲撃で持ってこられた雷神のほうが恐ろしかったと言える。
 ジーニはそれを指摘しているのであった。

「実際は下級悪魔かもね。地域によって、悪魔が過大評価される事は多いわ。それに基本的に探索の依頼よ。退治を依頼された時は、状況によって断ればいい」
「ん~・・・・・・まぁ、確かにお前さんの言うとおりかもなあ」

 エディンがそこで相槌を打つ。

「報酬も1000spと悪くない。『役場に来てくれ』と言うのだから、依頼人の身元も確かなものでしょう。この依頼、決して悪くないと思うけど・・・どう、アレクシス?」
「ふむ・・・・・・」

 アレクは顎の辺りを撫でながら唸った。
 そして結局、ジーニの口添えに折れて怪しげな「魔王探索」の依頼を引き受けることとなったのだ。
 ザンダンカル到着後、すぐに宿を取ろうと言ったラングに対して、アレクが柔らかく助言する。

「まずは依頼人の所だな。まだ日も明るいし・・・・・・それに依頼人で宿の手配をしているかもしれない」

 実際、アレクが一人で依頼を引き受けた際に、チレジア公爵から上等な宿を用意しようと申し出られたこともある。

「あっ・・・・・・そうか・・・・・・」

 ラングは己の至らなさに赤面し、挽回しようとすぐ役場の場所を通行人から聞き込んできた。

「アレクシスさん!役場の場所分かりました。まずはこの道を直進するそうです。さあ行きましょう」
「ああ、分かった」

 ”金狼の牙”はラングの案内で、ザンダンカルの役場に訪れた。
 意外にも、すぐ議長室へと案内される。
 公的な仕事とは分かっていたが、さすがに都市のトップに位置する議長から直接依頼内容を聞かされるとは思わず、冒険者たちは驚きを隠せない。

「君たちがリューンから来てくれた冒険者だね?」

 議長は細身の老紳士であった。
 目に宿った強い輝きがなければ、議長などという領主クラスの偉い役職についているとは見えなかったろう。
 アレクが真っ直ぐ彼の目を見て首肯した。

「はい」
「リューンの冒険者は非常にレベルが高いと聞いている。今回、君たちのような冒険者が依頼を引き受けてくれて、非常に光栄に思っているよ」
「こちらこそ、議長にお会い出来て光栄です」
「それでは早速で悪いが、依頼の説明をしてもいいかな?」

 一同から賛同を得ると、議長は居住まいを正して一呼吸いれ、依頼の説明を開始した。
 依頼書に記述していた”魔王”については、ザンダンカルに古くから伝わる話があるそうだ。
 高度な知能を有し、強力な魔法を使う。
 人を食し、人の子を使って魔物を召喚する。
 ただ現在、”魔王”はこの都市のどこかに封印されているのだと言う。202年ごとに破られる封印だとか・・・・・・。

「・・・・・・202年で蘇る?・・・・・・・・・つまり?」

 話の腰を折ったギルを咎めもせず、議長は軽く頷いて今年がその202年目の節目に当たる事を認めた。
 ”魔王”の復活を阻止する為には、今議長が持っている札の封印が必要になるそうだ。満腹食堂で魔女が使った封印札に少し似ているような気がする。

「みすぼらしい紙だろう・・・・・・だが、言い伝えではこの札を貼る事で、再度202年の眠りにつくらしい」
「ほう。期間限定による効力の増加・・・ですかな」
「私には全く信じられん」

 議長はアレクの指摘ののち、そうぽつりと漏らす。
 どういうことだとエディンが訝しく思い首をかしげていると、気を取り直したように彼が口を開いた。

「ここで一つ問題なのが・・・・・・”魔王”が封印されている場所が分からない事だ」
「え?」

 ギルが間の抜けた声を発した。
 何せ前回の封印から202年も経過しているがために、当時の資料の多くが紛失しているらしい。
 それでも数箇所の当たりはつけており、ザンダンカル西南部の地下に眠っているらしいという結果までは導き出されている。
 議長は両手を神経質に組み直しながら話を進めた。

「この都市でも古くからある地下、更に西南部となると、当然数が限られてくる。君たちにはその候補の中から、2箇所を重点的に探索してほしい」
「なるほど・・・・・・」

 アウロラは頷いた。そのような条件下であれば、資料が散逸しているとは言ってもどうにかなる見込みがある。
 報酬は1000sp、特に危険はないと思っているが、有事の際はもう1000spを追加することも考えている。

3satan

 依頼の拘束期間は2週間、宿は既に手配済みで宿代や食事代は議会で持ってくれる。
 おおよその依頼に比べれば、至れり尽くせりと言っていい仕事であった。
 他の仲間たちから目配せされたギルが、慣れない敬語で相手に対する。

「わかりました。問題ありません。報告はどのように?」
「詳細については、担当者がいるのでそちらに聞いてくれ。そろそろこの部屋に来ると思うんだが・・・・・・」

 妙に語尾を濁す。

「まあ、しっかり調査さえしてくれれば、『魔王はやっぱりいませんでした。』の一言で構わんと思ってるが、私はね」
「・・・・・・・・・?」

 議長は全く”魔王”についての伝承を信じていないクチらしい。
 ではどうして議会の公的な依頼として冒険者を雇ったのであろうと、ジーニは疑念を抱いた。

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「議長。重ねて失礼とは思いますが・・・・・・根本的な事を聞いても宜しいでしょうか?」
「? なんだね?気にすることは無い。何でも聞いてくれ」
「議長は・・・・・・”魔王”という存在を信じているのでしょうか?」
「・・・・・・・・・」
「議長のお言葉を聞いていると・・・・・・あまり議長自身も魔王を信じておられないように聞こえますが・・・・・・」

 彼はしばしジーニの質問に眼を閉じ、彫像のように身体を強張らせていたが、やがてふっと口元を歪めた。

「実は・・・・・・・・・私も”魔王”など信じていない。ましてやこの薄っぺらい札で封印など・・・・・・」

 議長の示すそれは、何が書いてあるわけでもない。確かにただの古い紙に見える。

「・・・・・・では、何故このような依頼を?」
「発端は・・・・・・議会だ。有力貴族の一人がこの”魔王”の話を突然持ち出してきてね・・・・・・」

 正確に言えば、貴族の息が掛かった議員だということだ。どこでも、そのような手合いはいるものである。
 政治の主権が貴族から市民に移ったことをよしとしない貴族が、ザンダンカルには未だに多くいるのだそうだ。
 ”魔王”の話を持ち出してきたのはカウフマンという男で、当時の有力貴族の筆頭として、現在のザンダンカルの在り方に相当悔しい思いをしていると推測される。
 彼の指摘により、議長も初めて今年が202年目に当たることを知った。その時は気にも留めなかったのだが・・・・・・。

「後で調べてみた所、意外にも今年が魔王の復活年である事を知っている市民が多くてね・・・・・・」
「なるほど。復活を信じる者もいたと、そういうわけですね?」

 ジーニの言葉に議長が頷く。

「市民の不安の種を放置するのは、議長の業ではない。はじめは”魔王の捜索”など馬鹿げた事だと考えていたんだが・・・・・・これも市民を安心させる為だよ」
「そうでしたか・・・・・・」

 彼女は杖の髑髏を軽く顎に当てた。つまりこの議長は、「魔王はいない」という調査結果が欲しいだけなのだ。
 いもしない存在の探索というのは、どうにもモチベーションの上がらない仕事である。ただ、待遇その他は確かにいいのだから、ここで仕事を断るのはもったいないように思えた。
 議長も、そういった自分の事情を冒険者側が察した事に気づいたのであろう、慌ててフォローに入った。

「いや、しかし、君たちには失礼な態度を取ってしまった。申し訳ない。依頼者本人ですら信じていないものを探させようというのだから・・・・・・」
「いえいえ、そんな事は・・・・・・」

 そのとき、議長室にノックの音が響いた。

2013/04/11 18:00 [edit]

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