Fri.
コデルモリアの英雄 6 
目は血走り、口から泡を吹きながら喚いている。
「ち、畜生っ!本当に頭領も若頭もみんなやられちまったってのか!?」
「・・・そのとおりです。あなたも早く投降を・・・」
冷静なアウロラの言葉を耳に入れる余裕は、既に残党の心にはない。
彼は掲げていた松明を殊更見せ付けるように高く上げると、「こうなりゃヤケクソだ!」と怒鳴り始めた。
「森に火をつけて村もアジトも全部焼き払ってやる!」
「何ですって!?」
咄嗟に止めようと思ったアウロラや他の冒険者たちだったが、その挙動が一歩遅れたのは、皮肉にもラクーンの遺体を抱えていたからこそであった。
それに早く気づいたミナスが、もうダメだと目を瞑ったときに誰しも予想しなかったことが起こった。

「そんなことさせるか!」
ルースターが腰に佩いていた小剣を真っ直ぐに突き出し、目の前の残党の腹へと突き入れたのだ。
「危ないよ、ルースター!」
「きゃいんっ!?」
「ざまぁみろってんだ。ん??」
息絶えた残党の手放した松明から、ルースターの服に引火している・・・!
赤々と燃えるそれをどうにか消そうと、マントを脱いだエディンが必死に布を叩きつけ消火しようとするも、今までの暮らしで燃えやすい物でも染み込んでいたのか、たちまちルースターが火だるまになっていく。
「スネグーロチカ、お願い消火して!」
「動くな、ルースター!動かれると雪の精がお前さんに近寄れない!」
「あちいっ!火が!火がーっ!」
エディンの腕を振り切り走り去っていくルースターを、誰も止める事はできなかった。
そして池の淵で、ルースターはほとんど黒焦げの状態で倒れていた。
「へへっ・・・・・・。ちょっといいところを見せてやろうと思ったらこの有様だぜ」
「・・・・・・お前さん、立派だったよ。おかげで森も村も助かった」
「俺みたいな・・・人間の・・・クズ・・・でも少し・・・は人の役に立てるもんだな・・・・・・」

それがルースターの最期の言葉だった。
村に戻ると、大勢の村人たちが総出で不安そうな顔をしつつも冒険者たちを出迎え、質問攻めにした。
山賊はどうなったのか?
3人組はどこへ行ったのか?
どの村人たちも聞きたがっていることは共通していた。
「まず、聞いてほしい。山賊はもう襲ってこない。・・・・・・俺たち”金狼の牙”と、英雄3人が・・・山賊のアジトを潰したからだ」
ギルの説明で山賊の脅威がなくなったことを聞くと、皆一様に安堵したような顔に変わった。
その日の昼ごろには村の年寄りが集まって寄合が始まった。
今回の件の事後処理についてだ。
最大の争点は、国に今回の事件を報告するべきか否かだった。
政府以外の第三者――この場合は冒険者たち――の力を借りて武力組織を制圧したとあらば、国がこの村に警戒心を持ち、最悪の場合、村が危険因子と認定されるかもしれない。
そう穏健派は主張しているのだ。
ちょうど、国も戦争に必死になっていて山奥の山賊の消息までには構っていられない状態であり、事件を有耶無耶にして、歴史から抹消してしまうには好条件が揃っていた。
「・・・とはいえ、隠ぺい工作がばれると国の不信を買いますからね。騎士が不信を抱いたカナナン村のように」
「話し合いの決着は、まだまだ先ってところかな」
アウロラとアレクがそう言って顔を見合わせた。
村の寄合の議題に、自分達のことが出たことも二人は知っていた。
村の用心棒として雇ってみるか、そのまま帰ってもらうか・・・・・・。
過激な者は口封じのために毒殺すべきだとまで言ったそうだが、もし彼らが”金狼の牙”の正体をちゃんと知ったら、そんなことはつゆほども思わなかったろう。
彼らは、数少ない本物の『英雄』たちであった。
最終的には、山賊討伐の報酬800spと旧時代の金貨4枚を支払って帰ってもらう・・・ということで決着したようである。
「・・・・・・で、あいつら山賊のお墓も掘るの手伝ってやったんだって?エディ、お疲れ様」
「ああ。ま、悪党の名は残す必要なしとか、隠ぺい工作の邪魔になるとか、いろんな意見が出てたらしいがね」
「墓石は用意して、墓標は刻まないで落ち着いたんだっけ?議論長かったわねー」
「3人組ににも墓石を用意するな、て意見もあったがな」
ジーニは旧金貨を手の平に乗せて鑑定しながら、エディンと話をしていた。
あの3人については、ギルとミナスが頑張って口添えし、墓石に名前だけ刻むことが決定したのである。
自分達の去就と報酬も定まり、彼らの墓が作られたのも見届ければ、もうこの村に用はない。
近くにあったベニマリソウをアレクが供えて、出発の合図となった。
清清しいまでの快晴で、季節の鳥が朗らかにさえずっている。
「待ってー!」
女の子が息を切らしながら、冒険者たちの後を追ってくる。
「冒険者さんたちに最後にもう一度だけ聞いておきたいと思って。ぜえ・・・ぜえ・・・」
「大丈夫?」
ミナスが覗き込むのに頷き、呼吸を整えると彼女は再び口を開いた。
「村の大人たちは英雄さんたちのことを悪く言うけれど、悪い人たちだとは思えないの。冒険者さんたちはあの人たちをどう思ってるの?」
「3人は間違いなくこの村を救った英雄だ。彼らが居なければ、この村はダメだったかもしれない」
しゃがみ込んだギルが、真っ直ぐ女の子の瞳を見つめながら言った。
嘘偽りのない気持ちである。事実、彼らは彼らにしか出来ないことをやってのけて、それで命を落としたのだ。
己の役割を果たして命を落としたことのない者に、それを否定されるいわれはなかった。
女の子はにっこりと微笑んだ。
「聞いてよかったわ。ありがとう。あたし、大人になってもずっとお墓参りし続けるわ」

※800sp、≪旧金貨≫×4※
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
56回目のお仕事は、たこおどりさんのシナリオでコデルモリアの英雄です。
4レベルから9レベルまで対象と言う、討伐シナリオとしてはかなり幅広い感じの作品で、某庵謹製のキーコードを使うと若干有利にはなりますが、ないからといって詰むこともないというありがたさ。
作者様が「今回は戦闘などよりストーリーを重視」とリードミーにお書きになったように、なんともいえない切なさや後味の悪さが、消えない染みのように心に残ります。(褒めてます)
今回、魔光都市ルーンディア(ロキさん作)で仕事を引き受けたことにしておりますが、本編はクロスオーバーなさっていません。≪フォレスアス≫は、後ほどポートリオンで売り払うために自分で購入しております。・・・物語的には、その≪フォレスアス≫でフォックスの精神を正常化できれば格好よかったんですが、さすがに無理でした。あれー?(笑)
また本来であれば、男の子に起こされて正体を突き止めに行くことになるのですが、ああみえみえの挑発されたんじゃ「見張ってください」と言ってるも同然だったので、自主的に監視したことにしました。
そしてこっそり、宿屋【星の道標】の噂をここで披露してみたり。アレクの言う大げさな詩を歌う吟遊詩人はセアルさんです。・・・もっとも、ありがちな見栄で詩を大げさにしてるんじゃなくて、手に余る仕事が来ないよう仲間たちの保身のために・・・という意味合いが含まれてらっしゃるようですが。
これ、環菜様に許可取ってないんだけど・・・後で謝るというか今ここで謝ろう。
変な噂でクロスオーバーしてすいませんでした!
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
« 登場人物に捧げる50のお題(アレク)
コデルモリアの英雄 5 »
コメント
追い込まれた状況で、役立たずと思われていた小物が逆転のきっかけを作る…
というのは王道だったりしますが、今作ではそれも死後の名誉というあたり、何とも侘しさが残ります。
それにしても軍人崩れとはいえ山賊団でレベル7越えがごろごろ…
地方に人材無駄に埋もれすぎ!と思ったのは自分だけではないと思いたい。
そして解決後に毒殺案出した村人の勇気に乾杯。いやー(カナナンの二の舞にならなくて)よかった。
>>フォレスアス
やはりやりますか、酒ころがし。
私は「鉱石集め」で鉱石を掘り、金鉱石はポートリオンへ、それ以外は「魔剣工房」へ、という金策法を使っています。
はて、いつの間に冒険者は炭鉱夫(婦)に転職したのやら…?
「card master's shop」でイカサマ無双もできますが、こちらは効率が良すぎてほぼ封印中です。
URL | 堀内 #yyf/sAyU | 2013/04/06 18:14 | edit
コメントありがとうございます!
堀内さん、コメントありがとうございます。お返事が遅くなりましてすいません。
コデルモリアの英雄は、こういう表現しがたいビターな味わいが特徴なのかな・・・と思いました。
解決後の村人の話合い、結構シビアですよね。助けて貰っておいてそれはないだろう、って意見が出てるのがすごいです。(笑)
酒ころがしはある程度自重しなきゃな~、とは思うんですけどね。リプレイを見て、「ああ、そういう金の稼ぎ方があるのか!」という参考程度になればいいかなあって。(笑)
うちも鉱石はその二つのシナリオに大変お世話になりました。今は鉱石があると、「魔術師の工房」でせっせとジーニが練成してたりしますけどね。
コメントの投稿
| h o m e |