Fri.
コデルモリアの英雄 4 

「危ない!」
いちはやく殺気を感知していたエディンだったが、その言葉は遅かった。
なんとなれば、遠くから飛んできた矢はすでにフォックスの眉間を貫いていたからである。
ボウガンを構えて潜んでいた、山賊の一味の仕業であった。
ギルのひと睨みでボウガンを放り投げ逃げ出した山賊には構わず、アウロラとミナスが必死に手当てを施そうとする。
「ダメだ・・・眉間に矢が当たったんじゃ、もう・・・」
「ミナス、ちょっと待って下さい。精神を回復する方法さえあれば、一時的にですが気が戻るかもしれません」
アウロラはそう言うと荷物袋から≪紅の果実酒≫を取り出し、フォックスの口に上手く飲み込ませた。
≪紅の果実酒≫はポートリオンで販売されている、紅果という果実によって作られた酒である。精神状態を落ち着かせるほか、わずかだが体力も回復してくれる品だ。
果たして、気絶していたフォックスは目を覚まし、
「ああ・・・・・・めまいがする」

と、震え声で言った。
もう長くないことを自分でも悟ったのであろう、ルースターに大丈夫かと問われた彼は、最期にと山賊のアジトの合言葉を言い残した。
「『アドケラヒ』だ。この合言葉を言えば盗賊ギルドの裏口の扉は開く・・・・・・盗賊から、盗み聞いた・・・・・・」
「フォックス・・・」
「ルースター・・・・・・ラクーン・・・・・・死ぬなよ・・・・・・」
「フォックス・・・・・・?フォーーックス!!」
ルースターが必死にフォックスの肩を掴んで揺さぶったが、既にその身体の魂は失われている。
「待ってろよ。フォックス。仇を討って後で墓を作ってやるからな」
「・・・・・・フォックスが示していたのはこっちの道だ。行こう」
非常に利己的な小悪党でしかないと思っていたのだが、意外と仲間思いだったのか。
それとも異常事態のせいで、自分でもそう意図していないのに熱くなってしまったのか。
どちらとも取れるような気炎を上げるルースターをよそに、エディンは先へ進む方向を指した。
一行は山道を抜けて大きな道に出た。
近くに滝でもあるのか、水の流れる音が聞こえる。
辺りは少し明るくなり始めている――下手したら、盗賊たちが村へと出発するかもしれないと、気ばかりが焦った。
ラクーンが、汗をふきふき言う。
「今さらこんなこと言っても手遅れかもしれませんが、盗賊たちに頭を下げて村を襲わないように頼んでいただけませんか?」
「俺たちが、頭を下げる?」
「平和的な解決法もあるはずです。私は、これ以上死人が出るのを見たくはないんだ・・・・・・」
ひたすら仇を討とうと熱望するルースターと対照的な彼の言葉は、しみじみと冒険者たちの心に響く。戦場で多くの死をラクーンは見届けたのだろう。
しかし。
「問題は、奴らにそのつもりがあるのかどうかだと思うがね。・・・窮鼠猫を噛むってのは、注意しなきゃならんぜ」
一同の少し先を先行することになったエディンが、そう言って聞き耳や辺りの様子を探りながら返した。
集団で待ち伏せている気配があるのだ。殺気も感知している。・・・・・・ラクーンの言葉は重いが、彼らのほうから仕掛けるつもりは満々なのだからぶつからないわけにはいかないだろう。
支援魔法をかけた”金狼の牙”たちが先に進むと、そこには待っていたと言わんばかりに盗賊が3名、そしてそのリーダー格らしき人間が1名待ち構えていた。
「おやおや。誰かと思えば自称英雄の腰抜けたちではないか。・・・物騒なのが数名ついてきているようだが」

リーダー格の男は、ちらりと”金狼の牙”たちを見てから言った。
「一応聞こう。一体何の用だ?」
「村への攻撃をやめてくれ。受け取った1000spは返すし、それに加えて2500spも支払おう」
ラクーンの嘆願は、しかしリーダー格の男によって否定される。
「一度、頭領が決めたことは覆さないのが山賊の掟だ」
「・・・・・・ま、そう言うと思ったね」
「むしろ分かりやすいな」
ギルとアレクがすらりと得物を抜き払った。たちまち剣戟が響く。
リーダー格の男は、それでもギルやアレクと同じくらいの実力は持っているようであった。
こんな片田舎で山賊にさせておくにはもったいない腕だ、と思いつつも、エディンは冷酷に彼の胸をレイピアで突き刺した。
「うちの頭領と本気でやりあおうってのか。後悔するぞ・・・・・・」
「やって後悔する方が、やらないで後悔するよりマシだと思う性質でね」
エディンはリーダー格の男の身体を乱暴に蹴飛ばし、レイピアを引き抜いた。
「お前さんも、もう少しついていく相手を選ぶべきだったな――いい腕してたのに、もったいない」
アジトの表口には用心棒が番を張っている。一同は裏口に回ってアジトへ侵入することにした。
必要な合言葉は、フォックスの遺言で貰っている。
聞きなれない声だが正解を言い当てたために、ノコノコ裏口を開け放った見張りを手際よく気絶させると、彼らは静かに屋内へ忍び込んだ。
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