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コデルモリアの英雄 3  

 その夜は食料が少ないのを埋め合わせるかのごとく、村人たちが派手に民族楽器を鳴らし、歌い、踊り、普段のストレスを発散させていた。
 だから、宴が無事終わった今となっては誰もが深い眠りに入っているはずだ――と考えていたのだろう。
 コデルモリアの英雄が泊まっている家の近くでは、人影が蠢いている。大八車にたくさんの食料と寝具を積んでいるようだ。
 例の英雄三人組であった。
 冒険者たちと広場で出会った男の子(人間のひそひそした話し声で起きてしまったそうだ)は、風車小屋の影に隠れながら、3人の様子を観察している。

「これで荷物は全部かな」

 鼻の下の髭を撫でつつ、ラクーンが言った。
 ルースターと宴で自己紹介していた無精ひげの青年が肩をすくめる。

「さっさとここからずらかろうぜ。村人に見つかると面倒だ」
「これだけ食料を持っていけば、あと半月は食うに困らないだろう。町まで悠々自適な旅ができる」

コデルモリア5

 狐目の男はフォックスと言う名前なのだが、名前に相応しい目を細め、武器の胼胝もない手をこすり合わせている。
 どう見ても夜逃げの算段にしか見えない。
 もうしばらく何か喋らないか、”金狼の牙”たちは様子を見ていようとしたが、男の子が遂にしびれを切らせて飛び出していった。

「待てえっ!あんたら村から逃げるつもりなのか!?」
「やべえっ!村のガキだ!逃げるぞ!」

 三人組は逃げる気満々だったようだが、”金狼の牙”たちが3方向から彼らを取り囲んでいるのに気づくと、観念したのかその場に全員座した。
 ルースターが舌打ちするのに激昂した男の子が、石を投げつけようとしたがアウロラに制される。

「まずは、今までの経緯を聞きだすほうが先決ですよ。・・・・・・さて、当然話していただけますよね?」

 声を荒げたわけではない。いたって物柔らかな声音であったが、そこに含まれている迫力にびくりと3人とも肩を震わせる。
 一番人懐こい様子をしたラクーンが、まず口を開いた。

「見ての通り、私たちは英雄などではありません。戦争から逃げてきたしがないただの敗残兵ですよ」

 彼の言によると、この村はたまたま逃げてきた先に運良く見つけたものだったらしい。命からがら逃げている三人組は、とにかく安全と飯にありつきたかったのだ。
 初めは、村人たちを騙すつもりなんてなかった――と、彼は語る。

「私たちの姿を見た村人たちが、英雄様ではないか、いや英雄様に違いないと勝手に早合点してあれよあれよと祭り上げられてしまいました」

コデルモリア6

「それに気をよくして自らも英雄であるかのように振舞った。そういうわけだな」

 アレクが厳しい口調で訊ねるのに、ラクーンは首を縦に振った。

「しかし、山賊退治なんておっかねえ真似は我々には無理だ。だから夜逃げしようと・・・・・・」
「全く救いようのない大人たちだぜ。明日の朝になったら父ちゃんや村長に土下座して謝ってもらうからな」

 男の子が腕を組んで言うのに苦笑するかと思ったのだが、意外に真面目な顔のままフォックスが釘を刺した。

「ところが、明日の朝にどうするかなんて悠長な事を言ってられる事態ではないのだよ」
「・・・どういうことだ?」
「明け方にここに山賊がやってくる」

 アレクの質問に間髪いれず答えが返ってきた。

「いつものような強奪目的じゃない。村人の皆殺しをしに来るんだ」
「な、何だって!?」

 男の子が動揺して声をあげるのに、ミナスがそっと手で口をふさいだ。
 山賊たちもまた、村人が英雄を雇って山賊狩りをさせようとしているという情報をどこからか仕入れていた。
 彼ら山賊たちは、今度は自分達が脅かされる立場になるのはたまらないと、女子供も含めた村人全員を殺し、火を放って証拠隠滅をする計画を目論んでいるのだそうだ。
 何故フォックスがそれを知っているのかというと、フォックス自身が山賊の一人と交渉をしたから・・・だと言う。

「山賊にも頭の切れる人間が居て、私に1000spを手渡したんですよ。これで村と山賊の争いには一切関与しないでくれってね」

 その金を持って今夜中に村から出て行くこと。それが、フォックスと山賊の取り決めであった。
 ルースターがひどいと喚く男の子を鼻で笑い、冒険者たちに向き直る。

「あんたらが取るべき道は2つだ。この村に残って犬死するか。俺たちと一緒に逃げるか」
「取るべき道はもう一つある」

コデルモリア7

 ギルがそこでやっと口を開いた。

「なん・・・・・・だと・・・・・・」
「あんたたちを道案内にして、明け方までに盗賊を一掃する」
「何を言い出すかと思えば・・・・・・。とち狂ったとしか思えねぇな。村人に大した恩義があるわけでもないくせに」

 ルースターは”金狼の牙”たちを翻意させようと、相手がゲリラ戦のプロであると熱弁していたが、そこをフォックスに軽い咳払いで制された。

「まあ、仮にあなたたちに彼らを掃討するだけの明確な動機と根拠と絶対的な自信があったとしましょう。だとしても、私たちがあなたがたを裏切らないとは限らないのですよ」

 自分は山賊からお金を貰ったから加担する理由はある、しかし冒険者たちに協力する理由はない――そう明言したフォックスに、ギルはむしろあどけない笑みで言った。

「やりたいこと、やるべきことをしないまま後悔するのは御免だからさ」
「正義感がお強いのですね。仕事でお金を届けただけの村なのにも関わらず」
「正義?・・・・・・そんないいもんじゃない。ただ、今度は救いたいだけだ」

 ギルの脳裏に、麻薬の原料を栽培していた村が思い浮かんだ。自分がこの手で村人たちを皆殺しにした、小さな村だ・・・。
 皮肉な話だと思いつつも、たまにはこういうことがあってもいいだろうと、ギルはフォックスに笑いかけた。

「人はどこかで壁にぶつかって妥協を覚えていくものです。そのまっすぐさがうらやましい」
「そうかい。で、どうするんだ?」
「分かりました。あなたがたに付き合いましょう」

 ただし、とフォックスは続けた。

「あなたがたが山賊に勝ち目がないと判断したら、すぐに見殺しにしますからね」
「万に一つもないな、そんなこと」

 何せ彼らは一応、竜や死天使、キーレの蛮族たちと渡り合ってきた身である。山賊に後れを取るつもりはなかった。
 しきりについて行くと主張する男の子を宥め、村人たちにこの事態を知らせるよう説得した一行は、フォックスの案内で道なき道を歩いていった。

2013/03/29 05:42 [edit]

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