Fri.

コデルモリアの英雄 2  

 コルデモリアの英雄を探すために住民へ話しかけていた”金狼の牙”たちだったが、村人たち自身も英雄の真偽について半信半疑といったところらしい。

コデルモリア2

 それでも中の一人が、

「英雄様なら子供たちと遊んでるのを2時間くらい前に見たぜ」

という証言をした。
 目的地は川辺ということだったので、荒れた道をのんびりと歩く。

「随分と荒れてるわね」
「多分さ、洗濯をしに人が歩いてるうちに道になったんだと思うぜ」
「あ、なーるほど」

 冒険者としての仕事でない限り、こういった小村に縁のないジーニが不思議そうに言うと、ギルが肩をすくめて教えた。
 ギルの生まれ育った村も、またこういう荒れた土地にあったらしい・・・・・・本人はあまり詳しい事を話そうとはしないのだが。
 遠めに見ても人がいない道を見て、「違うところに行ったかなあ」とミナスが小首を傾げた。
 その頭にぽんと手を置いて、エディンが優しく提案する。

「広場にいってみよう」
「そっか、そっちにいるかもしれないね」

 しかし、昼頃はまばらに居た村人たちも、夕暮れ時になるとほとんど姿がない。
 広場といっても家々とは離れたところにあるので、祭でもない限り用はないのだろう。
 閑散としているがゆえに、小さな2つの人影がぽつんとあるのが目立つ。恐らく村の子供だろうと思われた。
 何やら言い争っているのが耳に入る。
 最初は何を言っているのか分からなかったが、よくよく話を聞いていると男の子がコデルモリアの英雄が偽者であると主張し、女の子が本物だと反論しているのだった。

「だいたい英雄譚ってやつはそこらの素人が作った武勇伝に、お調子者が尾ひれをつけて大げさになっていくものさ」

 男の子の台詞を聞いて、アレクが一理あるなと感心したように頷いた。
 たしかに冒険者の世界でも、取るに足らない人間が過大な評価を受けたり、あるいはその逆の評価を受けることも珍しくなかった。

(そういえば、≪星の道標≫という冒険者の店にも、大げさな表現で歌う吟遊詩人がいるって話だな・・・。あそこは中々腕のいい冒険者がいると親父さんが言っていたが、さて前者なのか後者なのか。)

等と、アレクが風の噂で聞いたことを思い出していると、男の子はさらに年不相応な目つきで、女の子を諭すように言い募っていた。

「蓋を開けてみれば何てことはないありふれた出来事だった、なんてことはざらにあることだぜ」
「違うわ!だって、あの人たちはとても優しい目をしているもの。嘘なんてつくはずがないわ」
「へっ。おめぇはまだガキだから男を見る目がないんだよ。あれはただのやさぐれ者だ」

 その台詞を耳にしたアウロラは、男の子の口調が大人の物真似らしいと見当がついた。
 きっと、父親辺りがそういった意見を発しているのを目撃したのだろう。
 2人はさほど年が離れているようにも思えなかったが、数ヶ月単位でしか年上でない関係なのだとしても、大人ぶりたい年頃なのだろう・・・特に、異性の前では。
 ただ、そんな微笑ましく思っている”金狼の牙”たちをよそに、女の子はもはや泣きそうな顔になって怒鳴っている。

コデルモリア3

「何よ!あんたも子供のくせに!」

 そのまま言い争いから掴みかかりそうになっていたが、男の子が先にこちらに気づいたらしい。
 ばつが悪そうな顔をして去っていった。
 あっかんべーをして男の子に悪態をついていた女の子だったが、こちらも少々ばつが悪くなったものらしく、英雄の行き先を訊ねるとすぐに答えてくれた。

「さっきまでは、ここで私に冒険のお話を聞かせてくれていたんだけど、あいつがやってきたのと入れ替えにどこかに行ってしまったわ」

 村の倉庫について聞かれたからそちらに移動したのかもしれない、と女の子が言うので、ギルの眉間に皺が寄った。
 こういった小さな村という共同体において、村中の食料を備蓄している倉庫は非常に大切な場所である。
 少なくとも、村長や村の有力者に聞かず、年端もいかない子供を捕まえて場所を聞き出そうとする辺りに、良くない予感がしている。
 踵を返して、急いで来た道を戻ろうとする”金狼の牙”を、女の子が呼び止めた。

「あの英雄様たちは本物よね?あいつが偽者だって言ってたのはデタラメよね?」
「・・・・・・俺たちはまだ会ってないからな。どういう人か分からなきゃ、答えようもないさ」
「そうだったわ。冒険者さんはまだ会ってないのよね・・・ごめんなさい。変なこと聞いて」
「いや、いいさ。教えてくれてありがとうな」

 ひらりと手を振って歩き出したギルを、他の仲間たちが追う。
 ほどなく、彼らは村の離れへと到着した。倉庫がぽつんと立っている。
 普通は見張りの一人も立っていそうなものだが閑散としているのは、山賊に既にめぼしいものを取られていたからだろうか。
 中では冴えない風貌の三人組が、保存食の干し肉やピクルスにかぶりつきながら酒を呷っていた。
 どうやら、この者達が村人の言うコデルモリアの英雄らしい。
 髭を鼻の下に蓄えている男が、びくびくとした様子で言う。

「そろそろやめましょうよ。村の子供たちだってお腹をすかせているでしょうしね」

 それに対して、顎に無精ひげの目立つ青年が干し肉をつまみあげて答えた。

「何を言ってやがる。3日ぶりに飯にありつけたんだぜ。食わなきゃソンソン」
「だが、そろそろやめておこう。村人たちがなにやら今夜はご馳走してくれるようだから」

 周りにろくに注意も払わずに、三人でお喋りに夢中になっているだようだったが、しばらくすると冒険者が彼ら
を見ていることに気がついた。

コデルモリア4

「はて?あんた方はどちらさんだね?ここの村人ではないようだが」
「ああ、そうだ。ここの村人じゃあねぇよ」

 エディンのからかうような調子の返事に、無精ひげの青年が口の端を歪めて笑う。

「おおかた俺たちへの報酬を持ってきてくれた冒険者だろ。村長が今日あたりに2500sp準備できるって言ってたぜ」
「ほう。そうかい。ぱっと見の第一印象では物分りの良さそうな人たちだ」
「・・・・・・さあて、どうだろうねェ」

 物分り云々を言い出した、狐のような目の男が三人組のリーダーらしい。
 ギルが無言を貫いているので、心得たエディンが対応を続けていたが、その懐に狐目の男が200spほど潜り込ませてきた。

「ねえ、ダンナたちも我々と同じ宿無しの旅人だろう?この金で今のことは見逃してくれないかね?」
「アホらしい。あんたらと一緒にされるのは不愉快だぜ」

 無断で飲食していたことについて村人に告げ口しないでくれという懇願を、エディンは銀貨ごと突っ返した。

「おやおや。ずいぶんと潔癖症なんだね。そんな調子じゃ今までの人生の半分は損してるぜ」
「冒険者は信用で成り立つ商売だ。そいつを疎かにする三流以下や紛い物と、俺たちを一緒にされたくねえんだよ。分かったら失せな」

 ”金狼の牙”の最年長者の辛辣な言葉は、そのまま他の仲間たちの総意でもあった。
 今まで、全くの奇麗事だけで冒険を続けてきたわけでもない。
 一輪しかないフィロンラの花を依頼主に届けなかったこともあれば、クドラ司祭の儀式を見たいと熱望したあまり、一つの生命を終わらせてしまったことだってある。
 しかし、それらは全て自分達の自由意志で行なったのである。
 この金を受け取る事は、自由であるという”金狼の牙”の誇りを傷つけることになる――到底同調できるものではなかった。
 一触即発の雰囲気ではあったが、三人組がそろそろ村長の家に戻る時間だと先に去っていったので、彼らも倉庫から出た。

「・・・・・・どうする、ギル。今見たこと村長に言うのか?」
「人の悪口言って時間減らすよりは、倉庫の見張り番してた方が収穫はありそうだな」
「・・・同意見だ」

 幼馴染コンビは顔を見合わせてにやりと笑った。
 残りの面子が、その様子を眺めながら口々に言う。

「あーあ。じゃあ今日は徹夜ね」
「寝ててもいいですよ。あのだらしのない様子なら、ジーニの魔法なしでも捕まえられますから」
「じゃ、俺はちょうど良さそうな見張り場所見つけておくわ」
「エディン、いってらっしゃーい」

 ミナスが小さく手を振った。夜の見張りが寒いようなら大人たちは酒を飲むだろうが、自分もおこぼれを貰えるだろうかと考えながら。

2013/03/29 05:41 [edit]

category: コデルモリアの英雄

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top