Mon.

魔女の館 1  

 かつて禁を犯した魔法使いがいた。
 彼女の名は、黒魔導師アニエス。人智の及ばぬ才覚を秘めた黒髪の美女であった。
 彼女は200年以上の時を経た今も人の命を糧に生き続けているという。 
 自警団と教会と賢者の塔は、もう幾度となく魔女の捕縛を試みたがことごとく返り討ちにあった。
 魔女討伐の依頼が出されたが誰の手にも負えず、未解決のまま放置された。
 そんないわくつきの依頼が、長い年月を経てはるか西方たるリューンにまで流れてきたという訳だ。
 そして今、誰もが諦めかけた魔女の討伐に挑む者達がいる――。

魔女の館1

「俺としては、他に大した依頼もないからとりあえずこれ宛がっておけっていう、親父さんの思惑かと思ってたがねぇ」
「そんな厳しい関係だったっけ、俺らと親父さん」
「あの、エディンもギルも、これが難儀な依頼だってことは分かってますよね?」

 ちょっと、いやかなり、緊張感に欠ける会話ではあったが。
 彼らこそ、≪狼の隠れ家≫というボロ宿を根城とする冒険者たちである。
 依頼内容は、黒魔導師アニエスの討伐。

「報酬は1400spかー。生死は問わないって条件で助かったわね」
「生きたまま捕まえる方が、教会とか賢者の塔も困るんじゃないのかな?」
「・・・・・・ミナスの言うとおりかもしれんな」

 アレクはそう言うと、館からそう遠くない位置にあるこの街の様子を見渡した。
 見たところ、そう退廃しているような感じも見受けられず、露店には一応店が並んでいるし、宿も通常通り営業されている。
 ただ、どこか住民たちの表情は暗く、それが長年に渡って魔女に苦しめられてきた街である事を物語っていた。

「どこから行くの、ギルバート?」
「そりゃ、相手の情報から・・・だろうな」

 ギルの台詞に他の者たちも頷いた。
 早速、アウロラやエディンが街の者たちにそっと声をかけていく。
 その結果分かったのは、次のようなものであった――。

「魔女は人の精気を吸い取って200年以上も若い身体を保っている」
「館には多くの魔法人形が徘徊している。彼らは特異な能力を持っており、普通の武器では苦戦するだろう」
「魔法の仕掛けが施されており、並みの者は奥へ進む事もできない」
「あんた達、魔女を退治してくれるのか・・・・・・?なら、気をつけた方がいい。もし魔女に名前を聞かれても絶対に教えてはダメだ。魔女に名前を知られたら恐ろしい目に遭う」
「魔女は黒魔術の達人だ。彼女は空を飛び、なおかつ遠距離から攻撃する手段を持っている」

 このような様々な情報を貰った後、街はずれにある大きな木の下で”金狼の牙”が休憩を取っていると、不意にこちらへ話しかけてくる人影があった。木の作る陰に遮られ、細かい顔の造作が見えない。

「あんた達、年は若いがかなりの手練だな?」
「おうよ。分かるかい?」

 エディンがにやりと笑う。人影はゆっくりと頷いた。

「やはりそうか。オーラが違うからな」

 一歩進み出てきた人影の顔が露になる。
 この街の住民の一人である男のものだった。
 深い皺は魔女の支配による重圧によるものか、さほどジーニから年上とも見られないはずの顔を老けさせている。

魔女の館2

「そうだ、これをやろう。あんた達なら魔女を倒せそうな気がするよ」

 男はアレクの拳ほどの大きさもある、紅色の石を差し出してきた。
 すっと手を出したミナスが受け取り、ジーニがまじまじとそれを鑑定した。

「≪紅き魔石≫じゃないの?魔法生物を引きつける力があるわね」
「ああ、その通りだ。よく知っていたな」
「へえ・・・こんな綺麗なのにね」

 ミナスは日に透かすようにして、その変わった石の輝きを楽しんだ。
 子供のあどけない仕草にしか見えなかった男は、目を細めてそれを見守った。

「それを持っていれば、館にいる魔法人形どもの注意を引きつけることができるだろう」
「随分と高そうなものだが・・・いいのかい?」

 ギルが躊躇する。男自身は決していい生活をしているように見えない。
 しかし、男は小さく苦笑するだけであった。

「前に魔女打倒を目指した奴が持ち込んだ物だ。そいつはもう諦めたがな」

 なんでも、館に施されていた魔法の仕掛けとやらがどうしても解けず、男に悪夢のような館の思い出の篭る≪紅き魔石≫を預け、逃げるようにこの街を去ったらしい。
 無理もない、と男はため息のように言った。

「その石が魔女を倒すのに役立ってくれれば嬉しい限りだ」
「・・・ああ、あんたの志は確かに貰ったよ」

 ギルはミナスから魔石を受け取ると、それをぎゅっと握り締める。

「こいつは俺が預かるよ。・・・ありがとう」

 そして≪紅き魔石≫を預けた男が去ると、もう一人若い青年がこちらに寄ってくるのが見えた。
 彼もまた、魔女による支配をよしとしない人物なのであろう。
 かつて魔女に挑もうとした者が館で見つけたというメモを、こちらに差し出してきた。
 その小さな羊皮紙には、古代文字による書付がある。
 ジーニがメモを覗きこんで、それを読み上げた。

魔女の館3

「火には破壊、水には癒し、地には接触、風には魔の力を」
「一体何の事かな?僕にはよくわかんないや」
「・・・館に施されてるっていう、仕掛けに関係してそうね。これはあたしが預かるわ」

 ジーニは首を傾げる仲間たちを余所に、そのメモをポケットに突っ込んだ。
 その後、”金狼の牙”たちは通りに面している露店を覗き込んでみた。
 様々な魔法の品が販売されているものの、≪解毒の秘薬≫や≪破魔の杖≫などを買う必要があるとは思えず、そのまま通り過ぎた。
 時刻はそろそろ夕方――逢魔が刻である。

2013/03/25 20:30 [edit]

category: 魔女の館

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