Sat.

雷雲と神風 3  

 聖雷教会には雷神の守護が、聖風教会には風神の守護があるという。
 それはもう聖北教会関係ないのでは、とアウロラなどは思っているが、つっこんだら負けだと思って黙っていた。

「ここが闇の森か。気持ちいい風だな」
「見てよ。あそこに栗鼠がいるわ」

 アレクとジーニがのんびりとした会話をし、ギルまでも「引退したら、こんな場所に住みたいな」などと言い出す。
 とっとと片をつけてしまいたくなったアウロラは、

雷と風6

「それより早く、魔王を探しましょう」

と促した。
 辺りに人間の姿は見当たらない――モンスターの不意打ちを警戒したため、ミナスとジーニで召喚魔法を使った後で、探索が始まった。
 闇の森。
 そういう名前に反して綺麗な花が咲き乱れている様子に、早く仕事を片付けたいと思う者も、つかの間目を細める。
 ややのんびりとした空気が流れた、その刹那に爆音が森に響いた。

「な・・・何ですか!?」

 呆気に取られたようなアウロラの声に、応える者がいた。

「フッフッフッフッ・・・」

 妙な含み笑いと共に現れたのは、赤いカソックらしき服装に大きな帽子をした髭の男と、聖風教会と違い緑色の法衣姿の男が二人。

雷と風7

「我らがいる限り、この世に悪は栄えない」
「もう春なんだな・・・」
「いや、しっかりしてくれリーダー。現実から逃げても勝てんぞ。あれは・・・」
「我らは神聖なる聖雷教会の正義の味方!」
「あなたたち、さては極悪非道たる聖風教会の手先ですね?」

 エディンの言をさえぎって彼らが正体を暴露してくる。

「我々の魔王討伐を邪魔しようと、そう企んでおるのだな」
「そいつが一応仕事なんでねェ」

 思い込みの激しそうな髭の男の口調に、エディンは誤魔化す事の愚を悟りあっさり認めることにした。・・・正直、こんな所で時間を使いたくない。

「笑止!者ども、かかれ!」

 そして髭の男が天に祈る。

「雷神様!我に力を貸さん!そこのちんくしゃに、神罰を!」
「失礼な爺だな」

雷と風8

 エディンは舌打ちした。

 「天誅!」と己に酔ったまま男がジーニを指差すと、たちまち天から雷が降り注ぐ。
 どおおおん・・・!という腹に響く轟音の中、ジーニは多少の傷を負いながらも必死で【旋風の護り】を維持し続けていた。

「・・・ゲ。ちょっと削られたわね。お返し!」
「スネグーロチカ、ジーニの援護を!」

 ジーニの手から放たれた風とミナスの雪精が、たちまち男達を追い詰めていく。
 アレクも【風切り】による円陣からかまいたちを生み出し、彼らの身を削っていった。

「まだまだ!」
「じゃあ、こいつでどうだい」

 もう一度腕を振り上げ、「天誅!」と叫ぼうとしたに違いない男の体を、エディンのレイピアが近くの木に縫いとめる。
 そして動けなくなったところで、おもむろにアウロラが歌い始める。

「汝が見るは麗しく冷たき相貌、その目に焼きつけよ、凍れる姫のかんばせを・・・!」

 エルフの歌の一族より伝え聞いた【氷姫の歌】である。
 伝説上の氷の姫の美貌を称える呪歌によって、狂信的な聖雷教会の一同の心にも精神的なダメージが与えられる。
 ばたりと倒れた聖雷教会の一行・・・だったはずだが。
 ギルが縛ろうと前に出ると、あっさりと立ち上がる。

「まだまだ!倒れるわけにはいかん!愛と平和と雷神様のために!」
「しつこいな」
「・・・宗教家ってそんなもんなんだろ」

 ギルがもう半眼になっている。
 ・・・・・・元々、人数で劣っていた聖雷教会の面々は何度か”金狼の牙”に倒されるも、不屈の精神で立ち上がってきたため、面倒になったアウロラが逃走を提案した。

「風を倒せと俺を呼ぶ!」

という、司祭だったらしい髭男の声をその場に残し、一同は違う場所へと移動した。

「ふう・・・。逃げ切れたみたいね・・・」

 すでに息が上がっているジーニがそうつぶやいた時、目の前に白い帽子を被った娘が立っているのに気づいた。
 続いて気づいたアレクもそちらを示す。

「・・・ん?あそこに誰かいるぞ」
「・・・まさかとは思いますが・・・」
「・・・もしもし」

 充分に警戒しつつもエディンが進み出て、まるで迷子にするかのように声をかけてみる。

「はい。ナンパでしょうか?」
「この森は危険だ。電撃馬鹿と魔王が潜んでいる」
「ああ、ご心配なく。私魔王ですから」
「ああ、それなら安心ですね・・・っていうか、やっぱりそうですか・・・」

 嫌な予感が的中したことへ肩を落としたアウロラに、魔王を名乗る娘は聖雷教会の者かと確認してきた。

「いいえ・・・、私たちは聖風教会の・・・」
「まあ!聖風教会のばかちんですか!突風が吹くと木々が痛むって何度言うたらわかるんですか!」
「存じませんよ、そんなこと!何で教会に行って抗議しないんです!?」
「今日という今日は許しませんよ、お仕置きですからね!」

 アウロラの心底からの叫びも無視して、魔王はこちらに戦いを挑んできた――。
 その数分後。

「わあああああん。グレてやるう」

雷と風9

 魔王は鼻水と涙を垂れ流しつつ、闇の森を走り去っていく。

「あ・・・!逃げちゃいましたね」
「追わなくていいのか?」

 ギルが斧を担ぎ直して言うと、アウロラは頬に手を当ててしばらく考え込んでいたものの、

「まあ・・・、よくないですか?」

といたって投げやりになって答えた。
 相当に、本日の仕事のやる気ゲージがダウンしているらしい。
 とにもかくにも、一応は聖風教会の依頼である「魔王」は森から追い出すことに成功している。
 シリス村に帰ろうと促す仲間の声に頷くと、”金狼の牙”は依頼終了の報告をしに司教の元へと向かった。

2013/03/23 01:32 [edit]

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