Tue.

月光に踊る長靴 4  

 夕飯をお屋敷で補給した一行は、再び森へと踏み出していた。
 雲のせいか木々のせいか、月光はほとんど見えない。
 ぼうっと周りが伺えるくらいだ。

「・・・・・・行くか」

 アレクが一行を促し、彼らは用心深い足取りで夜の森を進んでいく。
 枯れた小枝を踏んだ微かな音に、ギルが振り向く。

「―――あっ!」

 ギルの大声に驚いたのか、雪のように真っ白な毛並みの猫が一行の視界に飛び込んできた。
 夜闇の中、浮かび上がっているようにも見える。
 エディンがそろそろと、盗賊特有の足取りで猫に近づき捕獲しようとしたが、

「にゃ・・・・・・ぁ」

 コーシカはそれを素早く察知したのか、きびすを返し森の奥へと逃げてしまう。

「あ、待って!」
「あそこ!」

 どうしても運動の苦手なジーニが仲間に遅れまいと必死で走り、その手を引っ張っていたアウロラが、コーシカの毛並みを見つけて周りに呼びかける。
 今度こそ失敗は許されまいと、エディンがさらに気配を殺して猫に近づいた。
 すると・・・・・・。

「ふうぅっ・・・・・・」
「わっ。何だこの猫―――」

 白猫を守るように、そのキジトラ模様の猫は一行の前に現れた。
 毛を逆立てて唸る猫の様子に、まずは宥めないとと思ったミナスが、キジトラの正面に回りこんで、穏やかな優しい声で話しかけた。
 それは精霊使いがよくやる、精霊語の語り掛けに似ていた。
 精霊の力を感じ取ることのできる者は、徐々に精霊たちの話し声を「聞き」取ることが出来るようになる。
 そうしてその内、己も同じ言葉で会話を交わせるようになるのだ。

「ねえ、おまえの後ろにいるのはコーシカ、って名前だよね?」
「・・・・・・・・・・・・」

 唸り声が静かになったのに勇気付けられたか、ミナスが話を続ける。

「実はさ―――」

 ミナスはキジトラに向かって、依頼されてコーシカという白い猫を探していることを話した。

「それで、できたら穏便にそこのコーシカを飼い主の元に戻してやりたいんだよ」
「・・・・・・ふぅ」
「え?」

 エルフの子どもの懸命な説明に、キジトラがため息をついた―――ように見えた。

「君らの言い分は解ったよ。確かに、彼女はコーシカだ」
「!?」

 猫が人語を話す、という事態に追いつけなくなったアウロラが、声も出せずに動揺した顔になった。

「驚かせた?僕は只の猫じゃない」

 キジトラは、自分は”ケット・シー”と呼ばれる妖精族であると話した。
 コーシカは只の猫なのだが、その美しい姿に魅了された彼が、自分と一緒に来ないかと誘ったために起きたのが、今回のコーシカの失踪事件の真相らしい。
 種族が違うだろうに、と思ったアレクが、

「どうして・・・・・・?」

と問うた。

「野暮なこと訊かないでくれ。僕は彼女に惚れてるんだ。好きなんだ」

 ストレートすぎる愛の宣言に、他人(猫?)事ながら思わず頬を赤らめたアウロラの顔を、おやおやと言いたげな顔つきでエディンが観察した。人間とは思考の形が違うためか、この妖精は極めて素直に感情を発露している。

「確かに、彼女の元の飼い主には悪いかも、って思う。けどコーシカだってもう大人だ」
「ふーむ。なるほどねえ・・・・・・」

 エディンが見るところ、コーシカもこの妖精の傍にいることを好んでいるらしい。
 遅かれ早かれ、猫には求愛の時期が来るのが普通で、それがたまたま”ケット・シー”だった、という話だ。
 エディンは、それならそれでもいいじゃないか、と思っていた。獣が本能で選んだ相手なら、人間のようにごちゃごちゃ理屈をつけて一緒になるよりは、幸せになるだろうと。
 この若い”ケット・シー”は、明日の満月の晩に、仲間に対してコーシカと「結婚する」と宣言をするつもりでいる、と一行に説明した。
 それを訊いたアウロラは、小首をかしげて妖精に言った。

「ね、あなた自分でプルクラ―――コーシカの飼い主に説明しに行ったらどうかしら?」
「えっ―――?」
「お嫁さんにもらうんだから、それが筋ってもんじゃないか?」

 ギルがアウロラの後押しをするように言葉を重ねた。
 
「ああ、うん。それが正しい筋だっていうのはわかってるんだ・・・・・・」
「じゃあどうして、行ってないの?」
「言い訳にしかならないんだけど・・・・・・森が―――騒いでるんだ」
「森が?」

 妖精の言葉に、ギルが森を見上げる。しかし、彼には精霊使いとしての資質は備わっていないので、よく分からない。
 その不穏な気配のせいで、うかつに森を出られないという”ケット・シー”に、

「仕方ないなあ。じゃあ明日の晩まで待ってやるよ」

と、困ったようにギルは頭を掻いて言った。
 ”ケット・シー”は感激したような面持ちで、ありがとう、すまない、と一行に繰り返す。
 冒険者たちは、滞在が伸びることを覚悟で、最後まで彼ら猫に付き合うことにした。

2012/11/06 05:14 [edit]

category: 月光に踊る長靴

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