Sat.
雷雲と神風 2 
「お待たせいたした」
司教と呼ばれるだけあり、その老人は質素な茶のローブ姿でありながら、ある種の厳格さを漂わせている・・・ように見えた。
教会の応接間は白い石を多用しており、天井は高く、細長い窓が2階くらいの高さのところにぽつんぽつんと存在している。
採光という面からしても暖房という面からしても、あまり合理的とは言えない作りだが、聖風教会の司教はしゃんと背筋を伸ばして冒険者たちを見つめていた。
「これはこれは、遠路ご苦労様です。わしはこの教会の司教を務めているグラムと申す」
「はじめまして。ギルバートと言います」
一同を代表してギルが手を差し出すと、グラム司教はこだわる様子もなくその手を握り返した。
その気さくな様子に安心した一同は、それぞれ自己紹介をする。
「・・・それで、依頼のことなんだが。魔王を倒せば、いいんだよな?」
さっそくアレクが用件を切り出すと、司教は重々しく頷いた。
「違いありません・・・。皆様方には、村外れの闇の森に住み着いた、魔王を討伐して頂きたいのです」
「闇の森・・・。ここから見えるあの森の事かしら?」
ジーニの言葉にグラム司教が首肯し、申し訳なさそうな表情に変わった。
「何分蓄えも少ないので、報酬は800spほどしか払えるあてがないのですが・・・」
どうか引き受けて頂けるだろうか、と問われて、ギルは小さく笑った。
「困ってるんだろ?ならいいよ、それで」
「おお!有り難う存じます!」
「困ったときの冒険者よ」
その代わり、何かあった時は後ろ盾になってよね~とジーニは気楽な口調でいい、横で聞いていたエディンは苦笑しつつ口を開く。
「その・・・魔王とやらだが。どんな形をしている?能力なんかも知りたいんだが・・・」
「人の娘と同じ姿でありながら、尋常ではない魔力を秘めております」
なんでも、森にある植物たちをその魔力で操るのだとか・・・・・・。
闇の森という名称はしていても、この村における森の重要性は高い。名高いアダン村やロスウェルほどじゃないにしても、質のいい薬草などが採取可能だからだ。
「それじゃあ、日が暮れる前に魔王退治にでも行ってくるぜ」
「お気をつけください・・・。既に闇の森は、悪の尖兵で埋もれております」
「ふぅん?さっき言った魔王の僕かしら、腕が鳴るわね」
そう言って不敵に微笑んだジーニに、グラム司教がさりげない口調で爆弾を落とした。
「いいえ。聖雷教会の奴らです」
「・・・ほえ?」

司教は思わず間の抜けた返事をしてしまったジーニへ、不思議そうに口を開いた。
「・・・お話、しませんでしたか?」
「微塵も聞いていませんね」
言葉もない仲間の代わりに、ばっさりとアウロラが言い捨てる。
「実は、聖雷教会の奴らが、我々の魔王退治を妨害しようとするのです」
「・・・何でだよ?」
理解できないと言うように首を振るギルに、
「・・・それも、お話していませんでしたか・・・」
と司教が肩を落とした。
「我が村には教会が二箇所存在するのはご存知でしょうか?」
「ええ。先程拝見しました」
「神聖なる聖風教会と、あの邪なる聖雷教会めです」
「・・・嫌な予感がするな」
ギルの眉間に皺が寄る。これは――ひょっとして、教会同士の派閥争いなのではないだろうか?
案の定、グラム司教は聖風教会が聖雷教会と村の寄付を巡って対立しているのだという話を始めた。
邪教と司教は呼んでいるが、あの聖雷教会も聖北教会の流れを汲んでいるのは間違いないらしい・・・。
「左手と右手が争うってやつか」
「どちらにしろ村人は可哀想だな。どっちに寄付するんだって、結局は金を取られてるんだから」
こっそりとアレクとギルが耳打ちするのにかまわず、段々と司教の様子はエスカレートしてきている。
「そんな折に闇の森に魔王が住み着いたのです!そして村長は決断しました・・・今後我が村は、魔王を追い払いし教会のみに、寄付を収めると!」
「それで私たちに、魔王をですか・・・」
話を聞いてがっくりと脱力したアウロラに、司教はまたもや重々しく言った。
「これは忌々しき事態です。下手を打てば善良なる村民が、邪教に囚われてしまいます」
「もう依頼を、受けちまったからな」
諦め気味のギルは、一同へ「早いとこ片付けて、寝るとするか」と提案したのだった・・・。
司教と呼ばれるだけあり、その老人は質素な茶のローブ姿でありながら、ある種の厳格さを漂わせている・・・ように見えた。
教会の応接間は白い石を多用しており、天井は高く、細長い窓が2階くらいの高さのところにぽつんぽつんと存在している。
採光という面からしても暖房という面からしても、あまり合理的とは言えない作りだが、聖風教会の司教はしゃんと背筋を伸ばして冒険者たちを見つめていた。
「これはこれは、遠路ご苦労様です。わしはこの教会の司教を務めているグラムと申す」
「はじめまして。ギルバートと言います」
一同を代表してギルが手を差し出すと、グラム司教はこだわる様子もなくその手を握り返した。
その気さくな様子に安心した一同は、それぞれ自己紹介をする。
「・・・それで、依頼のことなんだが。魔王を倒せば、いいんだよな?」
さっそくアレクが用件を切り出すと、司教は重々しく頷いた。
「違いありません・・・。皆様方には、村外れの闇の森に住み着いた、魔王を討伐して頂きたいのです」
「闇の森・・・。ここから見えるあの森の事かしら?」
ジーニの言葉にグラム司教が首肯し、申し訳なさそうな表情に変わった。
「何分蓄えも少ないので、報酬は800spほどしか払えるあてがないのですが・・・」
どうか引き受けて頂けるだろうか、と問われて、ギルは小さく笑った。
「困ってるんだろ?ならいいよ、それで」
「おお!有り難う存じます!」
「困ったときの冒険者よ」
その代わり、何かあった時は後ろ盾になってよね~とジーニは気楽な口調でいい、横で聞いていたエディンは苦笑しつつ口を開く。
「その・・・魔王とやらだが。どんな形をしている?能力なんかも知りたいんだが・・・」
「人の娘と同じ姿でありながら、尋常ではない魔力を秘めております」
なんでも、森にある植物たちをその魔力で操るのだとか・・・・・・。
闇の森という名称はしていても、この村における森の重要性は高い。名高いアダン村やロスウェルほどじゃないにしても、質のいい薬草などが採取可能だからだ。
「それじゃあ、日が暮れる前に魔王退治にでも行ってくるぜ」
「お気をつけください・・・。既に闇の森は、悪の尖兵で埋もれております」
「ふぅん?さっき言った魔王の僕かしら、腕が鳴るわね」
そう言って不敵に微笑んだジーニに、グラム司教がさりげない口調で爆弾を落とした。
「いいえ。聖雷教会の奴らです」
「・・・ほえ?」

司教は思わず間の抜けた返事をしてしまったジーニへ、不思議そうに口を開いた。
「・・・お話、しませんでしたか?」
「微塵も聞いていませんね」
言葉もない仲間の代わりに、ばっさりとアウロラが言い捨てる。
「実は、聖雷教会の奴らが、我々の魔王退治を妨害しようとするのです」
「・・・何でだよ?」
理解できないと言うように首を振るギルに、
「・・・それも、お話していませんでしたか・・・」
と司教が肩を落とした。
「我が村には教会が二箇所存在するのはご存知でしょうか?」
「ええ。先程拝見しました」
「神聖なる聖風教会と、あの邪なる聖雷教会めです」
「・・・嫌な予感がするな」
ギルの眉間に皺が寄る。これは――ひょっとして、教会同士の派閥争いなのではないだろうか?
案の定、グラム司教は聖風教会が聖雷教会と村の寄付を巡って対立しているのだという話を始めた。
邪教と司教は呼んでいるが、あの聖雷教会も聖北教会の流れを汲んでいるのは間違いないらしい・・・。
「左手と右手が争うってやつか」
「どちらにしろ村人は可哀想だな。どっちに寄付するんだって、結局は金を取られてるんだから」
こっそりとアレクとギルが耳打ちするのにかまわず、段々と司教の様子はエスカレートしてきている。
「そんな折に闇の森に魔王が住み着いたのです!そして村長は決断しました・・・今後我が村は、魔王を追い払いし教会のみに、寄付を収めると!」
「それで私たちに、魔王をですか・・・」
話を聞いてがっくりと脱力したアウロラに、司教はまたもや重々しく言った。
「これは忌々しき事態です。下手を打てば善良なる村民が、邪教に囚われてしまいます」
「もう依頼を、受けちまったからな」
諦め気味のギルは、一同へ「早いとこ片付けて、寝るとするか」と提案したのだった・・・。
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