Sat.

雷雲と神風 1  

 露すら降りそうにない、そんな清んだ空の朝のことであった。
 壁の貼り紙を見ている”金狼の牙”たちに、朝食の食器を片付けていた親父さんが声をかける。

「お前たち、その依頼に興味があるのか?」
「まあな」
「その依頼はだな、シリス村の坊さんからの依頼だ」

 アレクが相槌を打つのに親父さんはそう返答すると、最後の皿を棚に戻してから言葉を続けた。

雷と風1

「確か聖風教会の坊さんだ。聞いたこともない宗派だがな」
「アウロラ、知ってる?」

 ジーニから尋ねられた僧侶兼吟遊詩人の娘は、首を横に振った。

「さっぱりです。一体、どこの分派なのやら」
「ねえねえ、親父さん。この魔王が栄え、邪教が蔓延る現世を救うとか何のこと?」
「近所の森に魔王が住み着いて、かなり困っているらしい」
「また魔王退治ですか・・・。最近そういう依頼が多いですね」

と、アウロラが首を傾げる。
 こないだも中堅クラス向けの貼り紙で、「『魔王』を名乗る不審人物による営業妨害を受けている」と、とある商店からの依頼が来ていた。
 他の店でも、自分たちと同じくらいの実力のパーティが片付けた依頼において、「聖なる剣の探索に赴いたら魔王が出てきた」とかいう噂も聞いている。

「まあお前たちの実力なら、なんてことない依頼だろ。キーレの英雄様なんだし」
「・・・何だかねえ。それ自体は本当なんだけど」

と言って、ジーニは杖の髑髏で肩を叩く。
 いくら褒め称えられても、自分たちのことだと実感が湧きづらいものらしい。

「報酬は800spだ。受けてみないか?」
「うーん、報酬は相場より低めかな?」
「ミナスの言うとおりだが・・・。リーダーのリハビリで受けるには、ちょうどいいかも知れないな」
「魔王が?まあいいや、親父さん。引き受けるよ」

 ギルの返事に、親父さんは安堵した様子であった。

「シリス村なら、半日もしないで着くだろう」
「それじゃあ、行ってくるわね」

 気楽にジーニが手を振って歩き出し、他の仲間たちも三々五々挨拶をして、宿を出立した。
 親父さんの言葉どおり、半日と経たずシリス村に到着する。

「ここがシリス村か。綺麗な場所だな」

 ギルは辺りを見回した。
 極めて裕福そうというわけでもないが、ちゃんとした造りの家々が蒼い空の下に立ち並んでいる。
 近くには緑豊かな森が広がっていた。

雷と風2

「早めに仕事を終わらせて、日向ぼっこと洒落こむか」
「またまた、何を暢気なこと言ってるのよ。それより、雇い主を探すのが先じゃないの?」

 ”金狼の牙”たちは手分けして教会を探し出した。ほどなく、ギルが一つの建物を指差して仲間に問う。

「依頼主の教会って、あれじゃないか?」
「・・・らしいわね」

 ジーニは素早くその建物に視線を走らせた。
 村の規模と比べればやけに豪勢なつくりである。
 真ん中が膨らんだ独特の柱の形、重厚そうな扉の様子。流石にリューンのそれとは比べようもないが、宗教との縁が薄いカルバチアの教会よりは立派かもしれない。

「行きましょう」

 杖を気楽に振り回しながら歩む彼女に促され、一同はそちらへと歩む。鼻歌交じりにジーニがドアをノックしてみるが・・・。

「ごめんください。・・・ごめんくだ・・・」

雷と風3

「・・・待ってください」

 彼女の繊手をアウロラがそっと止めた。

「何よ?」
「依頼主の教会は、確か聖風教会でしたよね?」
「・・・そうだけど?」

 何を今さら、と不満そうに口を尖らせるジーニにアウロラは言った。

「ここは聖雷教会ですよ」

 ほらそちらに看板が、とアウロラが≪薔薇の指輪≫のついた指で示したのは、確かに”聖雷教会”と彫られた重厚な白い石の看板だった。

「・・・紛らわしいわね」
「それなら、あの教会じゃないかな?」

 ギルがこの教会の向かい側へ顎をしゃくると、そこには確かにこれも教会らしい、十字のついた建物が見えた。
 どうやら村には二種類の教会が存在するらしい。
 もしかすると他にも存在するのかも知れないが、見渡した限りでは人家や農耕地などばかりである。
 石の階段を降りたアウロラが駆け寄り、建物の前に立てられた看板を読む。

「間違いありません。聖風教会ですね」
「それじゃあ・・・」

 こっちでいいの?と首を傾げたミナスを、アレクが抱き上げてもう一つの教会へと歩み寄る。
 そしてそのままノックをするよう促したので、先程からノッカーを叩いてみたくて仕方なかったミナスが、ぱっと顔を輝かせた。
 聖雷教会の建物前にいた他の面子も揃い、ミナスはどきどきしつつノッカーを叩いて声をあげた。

「・・・ごめんください」
「・・・はい。どちら様でしょうか・・・」

 青い法衣に身を包んだ、金髪の女性がドアを開いた。
 武装をした”金狼の牙”の姿に、不審そうに眉を顰める。
 アウロラが一歩進み出て彼女に名乗り出た。

「≪狼の隠れ家≫の者です。魔王退治の依頼を受けてきたのですけども・・・」
「ああ。確かに承っております」

 女性はほっとした様子に変わり、

「司教様をお呼びいたしますので、中で少々お待ちください」

と言って彼ら一行を通した。

2013/03/23 01:30 [edit]

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