Tue.

闇のなか、白き夢魔と 4  

 突風が空の黒雲を運んで行き、ほろほろと青い月光が下りてきた。

夢魔10

「・・・く・・・」

 ――月に輝くその銀髪。
 ――深い蒼碧のその瞳。
 月が照らし出すその姿はあまりに美しく、ただ、娘は今満身創痍。白皙の美貌が、憎悪と苦痛に歪んでいる。

「・・・うっ・・・く・・・」

 ――やがて娘の瞳が、碧い炎のような怒りを湛えて冒険者を睨み据えた。

「・・・私の・・・負けよ。さっさと・・・殺せ・・・」

 娘は、息も絶え絶えにそう言った。一言一語を吐くごとに、その口端から鮮血があふれ出る。
 エディンは得物を収めた。――娘の眼が、驚きに見開かれる。

「・・・な・・・ぜ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」

 エディンは答えない。ただ、凝然と娘を見つめている。
 娘の唇の端が歪んだ。ふ、ふ、と幽けき声を漏らす――冒険者を嗤笑しているのだ。

「達成・・・を・・・目の前に・・・依頼を・・・反故にする・・・の・・・?」

 娘の声は弱々しい。

「・・・それ・・・とも。私がこれを恩義に感じて・・・お前を狙わなくなるとでも・・・?」
「たわけ。こんなとこに死体作ったら、追求がめんどくせえんだよ」

 エディンには、命ある限り、娘が延々と自分の命を狙い続けるであろうことは分かっていた。

 ――なにしろ、イーノック村で、エディンが娘の一族を皆殺しにしたのだから。
 それは、彼が冒険者となる少し前のこと。
 朝に見た夢の中、四人の肉親を屠り、一人残された少年を見つめる刺客は、誰あろう、エディンであった。
 盗賊ギルドから、ギルドの敵対組織が資金援助を行なっている暗殺者集団を潰すよう要請があった。以前から存在は認知されていたものの、アジトが分からずに放置されていた矢先の話である。
 彼の目の前にいるのは、年の頃、十一、二歳ほどか。いとけない瞳は虚ろで、なんの感情も映してはいない。

夢魔11

「悪いな、坊主。――死んでもらうぜ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・てめえらだって、相当な数の命を、その手で奪ってきたんだからな」

 少年は黙して答えない。聞いちゃいないのか、と判断したエディンが鋭い得物を構える。
 ――少年の一族は、ここイーノック村の山奥に居を構え、先祖代々、暗殺者として生きていた。イーノック村の人々からは、一族は”妖鬼”の血を引いていると噂され、畏怖嫌厭の情を抱かれていた。

「――!」
「・・・・・・ちっ!」

 急に動いた少年の投擲した暗器を、間一髪で弾き飛ばし、次いでエディンは少年の首を撃ち落とした。

(放心したフリをして、スキを窺ってやがったのか・・・ガキといえども、流石に暗殺者だな)

 そのあとで、エディンは首尾を伝えるようにと幹部から通達され、ギルドに対して一族を密告した夫妻を訪ねた。
 山小屋に五人しかいなかったことと、小屋にいたものの特徴を聞くや、老人夫婦は一様に顔をしかめ、首を振った。

「・・・”白の夢魔”が、どこぞに生き残っておるようだな」
「・・・そのようだね、お爺さん」

 ”白き夢魔”が、一味でも最強であること。外部から来る暗殺依頼のため、イーノックを離れることが多いこと。
 ――そして、やがて”白き夢魔”により自分達が殺されるだろう事を、老いたる夫婦は語った。
 手練れの暗殺者。必ず、闇に生きる者特有の嗅覚でもって、裏に老人夫妻が在ることを突き止めよう。自分達夫妻が死んだ後は、エディンに殺される順番が回ってくると老夫婦は指摘した。

「・・・ま、実行犯だしな」
「そこで頼みがあるんだよ」

 そう言うと、老婆は懐から銀貨の詰まった袋を取り出した。
 自分たちが死ぬのは構わない。だが、死んだ後、”白き夢魔”がのうのうと世に生きるかと思うと、それだけが心残りなのだと。
 必ずエディンの前に暗殺者は姿を見せるだろう――その時に、確実に”白き夢魔”を”誅殺”してほしい。

夢魔13

「そん時、あんた等はくたばってる。俺が、確実に依頼を実行するって保証があんのか?」
「・・・”担保”はある」

 だからこそ、今回の案件を盗賊ギルドに依頼したのだと。
 もし依頼を実行しなかった場合、エディンは必然的にギルドから目をつけられることになる――盗賊として長く生きてきたこの男が、それを許容できようはずもない。

「・・・。追加依頼は受けてやるよ。どうせうちの幹部も知ってるんだろうだからな」

 エディンは銀貨の袋を受け取った・・・・・・。

2013/03/19 08:04 [edit]

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