Tue.

闇のなか、白き夢魔と 3  

 ふと。
 背後に剣呑な気配を感じた。
 冒険者は振り向けど、見やった先は、夜闇の玄色に呑まれるばかり。夜の無言があたりを領し、何が聞こえてくるでもない。

「・・・・・・・・・・・・」

 気の迷いと断じて歩き出すが――――ふたたびエディンは歩みを止め、振り返って後方の闇を見やった。
 依然、後方に奇異なところは見られない。――併し、冒険者としての直感は、近くに”死”が迫っていると警告する。
 闇が黒洞々と口を開けたさまは、さながら異界の狂獣が、暗いあぎとを貪食的に開いているようだった。

「・・・・・・・・・」

 仲間を巻き込まないために、彼はあえて外をうろついていた。その甲斐は・・・・・・何とかあったらしい。
 エディンはポケットの中にジーニから借り受けていた魔法の指輪を握りこむと、そっとコマンドワードを唱えた。

「生あるものを碧に染めよ」

夢魔4

 それは、術者の視界内に存在する生命力を感知するための魔法である。生命が発しているオーラは、この魔法の影響下に限り術者に視認可能と化すのだ。
 夜闇の中に、エディンの視界内において、碧に染まった異質なオーラをしっかりと捉えた。

「・・・姿を見せろ」

 静かな口調である。
 しかし、既に彼の両手は剣の柄に掛かっている――右手が≪クリスベイル≫、左手が≪スワローナイフ≫。
 ――暫時の間があって、暗闇の中からいらえが返ってきた。

「・・・反則じゃない?魔術を使うなんて」

 微かな衣擦れは、盗賊や暗殺者の類でなければ聞き取れなかったであろう――それほどこの娘は、闇の中に溶け込んでいた。

夢魔5

「・・・いずれにしても、気取られてしまった以上、奇襲は失敗ね・・・」
「そうかい」
「・・・やるじゃない?冒険者エディンさん?」
「・・・・・・スティープルチェイスで知ったか」

 暑さのまだまだ引かない林檎の実る季節に、リューン市内でとあるレースが行なわれたことがある。
 寡婦である八百屋から、夫の代わりに出場して欲しいと依頼を受けた”金狼の牙”たちは、優勝を目指してレースの傾向や周りの地形を調べ上げ、騎手となったエディンを入賞させようと頑張った。
 そしてエディンは見事にその期待に応え、2位に入賞したのである。

「あんま目立つのはまずいかとも思ったが、断りきれる雰囲気じゃあなかったからな・・・」

 エディンはそう言って話を逸らしつつ、密かにマント裏に括りつけたあの時の銀メダルを握り締め、とある切り札をマントに隠して用意した。
 濃密な闇の中から、流麗な動作でするりと一つの影が抜け出てくる。
 暗闇で有利なのは圧倒的に相手の方であった。

(・・・暗殺者相手に暗闇での勝負は、愚の骨頂・・・)

 だからエディンは――。

夢魔8

「・・・。闇を、消したか」

 闇の中に杳としていた暗殺者の姿を、エディンが切り札として隠し持っていたランタンの光が露にした。

「・・・これで、勝負は五分と五分だ」
「・・・。暗殺者の特質を知悉しているというわけ・・・」

 その夭夭たる姿態。暗殺者の正体は、うら若き娘であった。

「お前の同胞(ハラカラ)は、俺が殺したぜ。・・・一人残らず、な」

夢魔6

「・・・知っている。だから、私はここに来たの」
「・・・・・・・・・・・・全部、予定通りだな」」
「・・・。どういうこと?」
「依頼人達は予測していたんだ。俺がそうしたことで、手前らがお前さんに殺されると」

 暗殺者は動く気配がない。

「だが、アイツらは、てめえの命を犠牲にしても、お前達を倒そうとしていた」

 自分達が死んだ後、あの暗殺者はエディンをも倒しに来る――依頼人は、そうも言っていた。

「・・・俺は、彼らの”切り札”なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「全ては予定の内だ。てめえが依頼人達を殺したのも、ここに俺を殺しに来たのも」

 ちゃきり、とエディンは剣を抜いた。

「お前はついに現れた。・・・ここで、すべてが終わる」
「・・・知っているでしょう?私は”白き夢魔”。一族で最強の暗殺者よ」

 娘の口元が淡々と言葉を紡ぐのが見える・・・。

「そう易々と、貴方にやられたりはしない・・・」
「・・・ほう」
「・・・その首、貰い受ける」

 ――飄忽として、その姿が消えた。次いで、猛然たる白刃の閃舞――。

「――っ!」

 辛うじて勘だけで反応したエディンは、その長剣の刃を≪スワローナイフ≫の護拳部分で叩き落し、軌道を逸らす。

(長時間の戦闘は、こちらがいたずらに消耗するばかり・・・)
(確実に当たる技で、早々に決着をつけるべきだ)

 所詮は一冒険者と侮ったか、来るであろう反撃を、余裕で見切ろうとした暗殺者の目の前で――。
 エディンの長身が、消えた。

「えっ!?」

 ”白き夢魔”は初めて虚をつかれたような表情で短剣を構えなおすが、その防御を縫うように刺し込まれたエディンのレイピアが、彼女の肺の辺りを突き刺した。

「――うぁっ!?」

夢魔9

「・・・・・・なぁ、嬢ちゃん。俺ァ、確かにロートルもいいとこだが・・・おかげさんで暗殺者の戦い方くらいは、ちゃあんと分かってるんだよ。自分で使えるくらいには、な」

 鼠の行路と揶揄される下水道の一角で、エディンが磨き上げた技――【暗殺の一撃】は、確かに夢魔を打ち払ったのであった。

2013/03/19 08:03 [edit]

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