Tue.

闇のなか、白き夢魔と 2  

 その日の夜のこと。
 エディンの隣にはいつもの飲み仲間ではなく、細い体に釣り上がった三白眼が特徴的な男が座っていた。
 提示された条件に、フンとエディンが鼻を鳴らす。

「銀貨500枚だぁ?冗談は顔だけにしとけ。エール一杯で手を打て」
「・・・エール一杯?おいおい、そっちこそ冗談だろ。こっちは商売なんだぜ?」

 ≪狼の隠れ家≫に属する冒険者の中でも、”イタチ”はちょっと特殊な男だった。
 盗賊ギルドと強い繋がりを持っており、たまさかギルドから情報を仕入れては、宿の親父さんや冒険者たちに売りつけている。
 しかも、情報を売る先というのを間違えることが無い――確かな目利きと情報収集力を持つ人材であった。惜しむらくは、金銭に至極貪欲なことぐらいだろう。
 ”イタチ”は長い髪を揺らしてエディンの顔を覗きこんだ。

「それに、この情報がないと、大変なことになるのは間違いなくアンタだぜ?」
「・・・ポーカーの負け分は、まだ払ってもらってねえぜ。イタチさんよ?」
「・・・ああ。そんなモンがあったっけ?昔のことだ、忘れちまったよ」

 形勢不利と感じたか、ふいと”イタチ”が視線を逸らした。

「ふざけた野郎だ。たった一ヶ月前のことだぜ?だがまあ、そいつはチャラだ。なかったことにしてやるよ」

 銀貨を数枚カウンターに放り出すと、娘さんにエールを一杯注文する。

夢魔3

「ついでにエールを一杯くれてやる。それで充分だろうがよ」

 聞いた男は、降参するように諸手をあげ、笑い出した。

「あっはっはっは・・・仕方ないね。エールを二杯にしてくれたら手を打つよ」
「・・・まったくふざけた野郎だぜ」

 エディンの恫喝交じりの台詞もなんのその、男はにやりと口の端を上げた。

「命を狙われてるよ、あんた」

 エールを続けざまに二杯干すと、さらりと”イタチ”はそう言った。

「・・・へっ。そいつは物騒だな」

 蕪と兎のクリーム煮の残りをつつきながら、エディンは口を開いた。

「どこのどいつが狙ってるんだ?恨みを買う覚えは――まあ、なくはねェがな」
「あんたが昔に一人で受けた仕事があったろう。冒険者になるちょい前、小さい村のことだ」
「・・・。イーノック村での仕事か」
「そうだ。その仕事だよ。そいつに関わりがあるらしい」

 ぐさりと兎肉を突き刺し、その端っこを齧りつつエディンは心中で呟いた。

(・・・なるほど・・・。そういうことか。いや、正夢ってやつかねえ。)

 急に静かになった男を訝しく思った”イタチ”が、「・・・ん、どうした、エディン?」と聞いてきた。

「・・・なんでもねェよ。それより、話を続けろ」
「その仕事の依頼人だがな。一家もろともに、奴に殺されちまったそうだよ」
「あの連中が殺されちまったか。恐ろしい話だな」
「ああ。誰も生きてはいないよ」

 ここで”イタチ”は声を潜める。

「・・・殺ったのは、”白き夢魔”と呼ばれる名の知れた殺し屋だ。両刀使いでな。短剣を右手、長剣を左手に戦う」
「へー。俺のちょうど逆か」
「そして、異常に夜目が利く。夜行性の獣のようにな。夜闇は、奴ら暗殺者の”庭”だ」

 ”イタチ”は水平に伸ばした左手をぴたりと自分の喉笛に当てた。

「奴は、暗がりから忍び寄り、あんたの喉笛を掻き切ろうとするだろう」
「いよいよもって、おっかねェな」
「・・・。奴は、あんたの仕事に直接関わった者を、全員始末する腹積もりらしい」
「・・・・・・・・・」
「依頼人一家はもう死んじまった。残ってるのはあんた一人だ」

 音も無く席を立つ情報屋に、エディンは一瞥をくれただけでまた蕪と兎の制覇に戻った。

「奴は最近リューンに入ったらしい。せいぜい、気をつけるこったな」
「・・・もう、リューンに来てやがるのか」
「・・・・・・・・・」
「・・・わかった。貴重な情報をありがとうよ」

 ひらひらと手を振るエディンに背を向けた”イタチ”だったが、芝居っけたっぷりに振り返る。

「・・・ああ、最後にもうひとつ」
「――なんだよ?」

 ”イタチ”は下卑た笑みを満面に浮かべた。

「誑かされるなよ?”白き夢魔”の正体は、すこぶる美しい娘だそうだ」

2013/03/19 08:01 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

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