Tue.

闇のなか、白き夢魔と 1  

 ・・・・・・それはかなり昔のこと。
 刺客の血塗れた白刃を前に、幼いその少年は、じっと部屋の中央に座り込んでいた。
 そのいとけない瞳は、何の感情も映していない。
 茫然自失・精神恍惚の態である。

夢魔1

 部屋のそこかしこに転がっている骸は、少年の肉親のものであった。
 祖父と祖母、父と母。肉親四人の死肉と血海に囲まれて、少年は踞座していた。
 そして、肉親の命を奪った忌わしい刃は、今、少年自身に向けられていた。

(・・・・・・二度と見たかねえと思ってたが・・・ずいぶん昔の記憶をほじくりかえしてくれるじゃねぇか・・・。)

 申し訳ないけど、死んで貰う――そんなようなことを、刺客は言う。
 遂に、無慈悲な一剣が、幼い命の上に振り下ろされた。
 ふたたび刃が血煙を呼び、少年の首ががっくりと落ち、すべてはここに収束するところとなった。
 ――否。まだ、終わっておらぬ。
 生命のともし火がひとつ、まだ吹き消されぬまま残っておる――。

「・・・・・・っち。久々に夢を見たと思いきや、昔のこととはね」

 忌々しげに舌打ちをしながら、エディンは腹筋を使って半身を起こした。
 既に日は昼前近くの位置にまで昇っている。
 同室のミナスは起床してギルの看護に行ってるらしく、寝床はきちんと整理されて空になっていた。
 少し寝癖のついてしまった頭髪をがりがりと掻く。

「あーあ。・・・・・・何か嫌な一日になりそうだ」

 わざとらしいため息をついてから、エディンは服を着替え始めた。
 ――ギルが衰弱して帰ってきてから、3日。
 ”金狼の牙”の仲間であるアレクは、依頼で知り合ったと言う中年の男に、護身術や冒険者の心得などを教え込んでいる。
 確か――サリマンという名前だったか。
 ジーニはといえば、どこぞの伯爵の依頼を請けるため、迎えの馬車に乗って出かけていた。
 独特の歩調で廊下を歩き、ギルの部屋を覗く。

「おう、どうだいリーダー。調子は」
「エディン~、そろそろ俺一人で体ぐらい洗えるって、アウロラとエセルに言ってくれ~!」
「いけませんよ。ついこないだ死に掛けたのに、何言ってるんです。ちゃんと養生なさい」
「アウロラさんの言うとおりですよ!ちゃんと寝てないと!」

 ギルの枕元の右側に手ぬぐいを持ったアウロラが、その後ろにエセルが水差しを抱えて立っている。
 左側で彼のために絵本を朗読していたミナスは、目を丸くしてその様子を眺めていた。

「・・・いやいやいや、なにこれ。どういうこと?」
「どういうも、何も。体を拭かないと不衛生だからと言ってるのに、嫌がるんです。あなたからも何とか言ってやって下さいよ」

 エディンの疑問にアウロラが堂々と答えているが、さすがに年頃の男が寄ってたかって妙齢の女性二人に体を拭かれるというのは・・・。

「・・・本人がいいっつってるんだから、許してやれば?」
「ダメですよ、この人面倒くさがりなんですから!」

 エセルが抗議した。

「見てないところで手を抜きますよ、きっと」
「すごい、エセル、ギルのことよく分かってるぅ」

 ミナスが思わずそう言って拍手する。
 それにギルが「暢気にいってる場合か!?拭くだけならお前だけでいいだろ!?」と噛み付いた。

「あ、それ無理。僕、静屋さんまでアッシュとシエテ連れて遊びに行く約束なの」
「なにぃいいぃ!?」

 ≪クドラの涙≫の探索依頼失敗後に行ったロスウェルで、色々な縁があり≪狼の隠れ家≫へ冒険者として登録をすることになったアッシュは、若い女性の盗賊である。
 まだリューンの地理に慣れていないということで、暇がある時に、誰かしら彼女を案内することにしている。
 ミナスはシエテと一緒にいることが多いから、同道して遊びに行くことにしたのだろう。
 防具「静屋」は、防具と銘打っている割に装飾品ばかり置いている一風変わった店である。
 店主の老婆は昔冒険者をやっていたとかで、その手の冒険談を現役から聞くのを好み、その際には必ずお茶を振舞ってくれるというのだ。
 アッシュもシエテも、まだ実入りのいい冒険をやっているわけではないが、どんなアイテムがあるのか確認くらいしておきたいのだろう。
 打つ手なしと判断したエディンは、静かに最終通告を放った。

「・・・・・・もう覚悟決めちゃえよ、リーダー。諦めろ」

 手をひらひら動かし、その場を退散することにした。
 彼の後を追うようにギルの声が響く。

「あ、ちょ、エディン待って待って・・・・・・って、やめろー!!くすぐったいからそこ触るなあああ、触らないでー!きゃー!?」
「・・・・・・・・リーダーは犠牲となったのだ」

 エディンはこっそり手を合わせて彼の成仏を祈った。
 全然神を信仰してはいなかったが、形式美というやつである。

2013/03/19 08:00 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

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