Tue.

月光に踊る長靴 3  

 爽やかで涼しい空気を胸いっぱいに吸った一行は、これから入る森を見やった。
 数件の家々と畑の向こうに、森を望める。
 この村の景観の一翼を担っているのは確かだが、決して迷いそうなほど広大な森には見えない。

「とりあえずは聞き込みか」
「―――あ、あそこに」

 アレクがとりあえずの方針を打ち出すと、きょろきょろしていたアウロラが、ちょうど村人らしい人影を森の近くに見つけた。
 寡黙そうな中年の男性と、鮮やかな赤毛の娘だった。
 コーシカのことは彼らも知っているらしく、探している事情を打ち明けるといろいろ話してはくれたのだが、これといった情報はなかった。

 プルクラはこの森を「変な森」と言っていたが、村人によると、森には妖精がいるという昔話があるらしい。
 一行は用心しながら、森へと入っていった。

 森は、青々と繁っていたが、けっして暗くはなかった。
 葉擦れの音、鳥の唄、どれも自然に一行を包み、手荒くもない。
 幾度かの冒険をくぐり抜け、いつしか備わっている所謂”勘”ともいえる感覚からも、差し迫る危機などなさそうに思える。
 
「お?」

 微かな音に反応したアレクが見ると、木の股から猫が一行を見ていた。
 グレイの毛並みをしたその猫は、ただじっと、冷ややかともとれる眼差しを向けている。
 ミナスがそのふてぶてしい態度を面白がって近づくと、猫はまったく彼を無視して、森の奥へと去ってしまった。

「ああん。な~んだぁ、可愛くないヤツ」
「苛められると思ったんじゃないのか?」

 ギルがミナスをからかうと、真っ赤になったミナスは小さな拳を固めて、彼の腹の辺りをぶった。

「こら、リーダーもミナスも、少しは真面目にやれ」

 エディンはそう2人を叱ると、周りの探索の続きに入った。仲間も似たような仕草で周りを探す。
 平穏だが何も手がかりのない森の様子に、一行が失望のため息をつくと、ジーニが「あら」と声をあげた。

「ねえ、また猫よ」

 先ほどあったのとはまた違う猫が、一行に視線を投げていた。
 興味があるのかないのかわからないが、泰然としている。

「ギル兄ちゃん。僕より上手く友達になれるんでしょ。お手本見せてよ」
「言ったな?よーし、見てろよ・・・」

 ミナスが仕返し代わりにそう切り出すと、ギルがその言に乗って猫に近づいた。
 しかし、「来い」というギルの声が気に入らなかったのか、そのトラ猫もふいっと奥へ去っていく。

「あ~ぁ・・・」
「ほら、ギル兄ちゃんもダメじゃないか」

 諦めて、他の場所を探そうとし始めた仲間達に、妙に顔をこわばらせたアレクが言う。

「なあ・・・・・・。今、何かいなかったか?」
「何かって・・・・・・何でしょう?」

 アウロラは気づかないらしく、不審げな視線をアレクに向けるだけだ。
 アレクの父が持っていた精霊使いとしての血に、引っかかるモノがある・・・そういえば、プルクラ嬢もここを「変な森」だと言っていなかっただろうか?


「・・・・・・・・・。そこだッ!」

 いつの間に拾っていたのか、小石を手にしたアレクが茂みに思い切り投げつけると、そこから黒い肌に尖った耳を持つ男が躍り出た。

「!!!」

 とっさに武器を構えたギルの横で、ジーニが驚いた声をあげる。

「ダークエルフ!」
「・・・・・・ちっ。聡い連中だ。残念だがお前らの相手してる暇はないんだ」
「待てこら、逃がすかよ!」

 舌打ちするダークエルフを睨みつけ、ギルが間合いを詰めようと走り出すも、

「じゃあな」

と言って、妖魔は姿を消してしまった。

「畜生、せっかく手がかりっぽいヤツを見つけたのに・・・!」
「・・・・・・コーシカは、あのダークエルフに捕まっているのか、ダークエルフを避けるために隠れているのかしら?」
「無関係とは思えんな」

 地団駄を踏むリーダーを落ち着かせつつ、ジーニとエディンが言葉を交わす。
 アレクが静かに言った。

「夜、だな。あの妖魔は夜目が利く。何かするつもりがあるなら、暗いうちにやるかもしれん」
「なら、暗くなったら再戦だ!」

2012/11/06 05:13 [edit]

category: 月光に踊る長靴

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