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Sun.

そこから 1  

 久しぶりにリューンへ帰ってきた”金狼の牙”たちだったが、リーダーであるギルの炭坑に閉じ込められるという事件により、しばらくは6人での活動を控える事となった。
 ギルの衰弱が酷かった為である。
 元々健康体であり、アウロラやミナス、そしてウェイトレス業の傍らエセルが彼の看護を交代でやっているので、程なく回復はするだろうが、今すぐというのは無理だった。
 その間、手の空いているアレク・エディン・ジーニは1人で請ける依頼を探していた。
 そして今日、親父さんが一枚の依頼書を手に、アレクに声をかけたのである。

そこから1

「・・・護衛の依頼という事だが、目的は遺体の回収らしい」

と親父さんは言った。
 遺体の回収とは物騒な話だとアレクは思ったが、詳しく聞いてみると、一年ほど前に事故で亡くなった身内の骨拾いということらしい。
 亡くなったのは市井の学者で、遺跡探索中に罠に掛かって命を落としたとか。依頼主は、その息子であるそうだ。

「・・・ああ、それとその依頼人な、うちの冒険者になるつもりでいるみたいなんだ」
「・・・・・・なんだって?」

 ≪狼の隠れ家≫は、店の規模にしてはけっこうな老舗である。
 まったくの新米がこの店を訪れることは、そう頻繁にあることではない。
 たいていが、この店出身の誰かの紹介だったり、冒険の途中でここを世話する羽目になったり・・・登録されている者の多くは、そういう経緯でこの店にいる。
 だから、その依頼人がこの店へ冒険者として登録したいということは、元から紹介状目当てだったのだろうか――アレクはそんな風に勘ぐった。
 親父さんがアレクの思考に気づき、ゆっくりと首を横に振った。

「いや、そうじゃない。そんな下心で依頼を出したわけじゃないよ、ただ――ついでに様子を見てほしいんだ」

 事前にどんな人物か情報を把握出来ると助かるしな、と親父さんが嘯いた。
 そういうことならとアレクが黙って頷くと、親父さんはほっとした様子になった。

「ああ、すまんがよろしく頼む。帰って来たら一杯奢らせてもらおう」
「トールの分も用意してやってくれ」
「ああ」

 親父さんはカウンターの下にある引き出しから、封筒を取り出した。

「ほら、こいつが紹介状だ。仕事があるから、夕刻の鐘以降に来て欲しいとさ。たのむぞ」

 ・・・・・・そしてアレクは今、依頼人宅の木戸をノックしていた。
 戸のつくりがごく薄い事が伺える。下町でも貧しい区画だ、そういう造りなのは仕方ないのだろうが――。
 ややすると、「・・・どちら様で?」という深みを帯びた男の声がした。
 アレクが名乗ると、

「・・・ああ、≪狼の隠れ家≫の。へえ、思ったより・・・」

 ドアを開けた人物は、「早かったですね」という言葉を飲み込んだ。
 依頼人であろう男の前に立っていたのは、若く、密やかな自信に満ちた美しい男だった。
 ほとんど白に近い銀の髪は癖なく形の良い頭部を覆っており、静かな赤褐色の眼が真摯にこちらを見つめている。
 半神の彫刻のような顔を息を忘れて見つめていると、その薄い唇が「入っても・・・?」と呟いた。 

「ああ・・・・・・入って、下さい」

 今日の名残の西日がまっすぐに差し込み、赤褐色だったはずの瞳が血色に変わる。
 その人は眩しそうに目を細めながら、アレクを迎え入れた。
 窓のあまり無い家の中は薄暗かった。
 埃の匂いがするが、意外に湿気はない。アレクは天井の明り取りから伸びる少しの光を頼りに、中を見渡した。
 狭い家のわりに、やけに空いた棚が大小ごたごたに並んでおり、そこから伸びた影が足元で交錯している。
 その様子にやっと人間らしさを感じた依頼人は、小さく苦笑して火の入った燭台を入口の側の棚に置き直した。

そこから2

「ちょっと暗いですよね。・・・日光や湿気って、発掘物や書物の類にあまり良くないもので」

 亡くなる前の父親の意向で、窓が開かないよう釘を打ってあるのだという。既に不要ではあるが、慣れてしまったからと彼は言った。

「そうか。・・・・・・こちらを。紹介状だ」

 アレクは今回の依頼人に携えていた封筒を渡すと、目を落とすその様子をじっと観察した。
 色黒で、目ばかり大きな小男だった。年は若くない。中年にさしかった頃か――眉間には深い皺が刻まれていて、ぱっと見気難しそうな印象を受ける。

(・・・しかし、受け答えやさっきのちょっとした仕草。物腰はやわらかくて丁寧な人だな。)

 ちゃんとアレクを気遣って灯りを移したことを思い、彼は一人頷いた。
 薄暗い部屋であるが、依頼人が紹介状に目を通す様子は物慣れている。

「はい、確かに。割印もぴったりですね。・・・それではまず、依頼の条件を提示するとしましょう」
「頼む」
「あなたに依頼したいのは、道中の私の護衛と、父の遺体を回収する手伝いです」
「ああ。親父さんから聞いているが・・・護衛がいるような道のり、あるいは事情があるのか?」

 依頼人は、ゆったりと首を横に振った。

「まあ護衛とは言っても念のための用心ですから、大した危険はないと思います」
「そうか」
「バーセリック遺跡はご存知ですか?」

 彼が口にしたのは、リューンの北東部にある小さな墓地遺跡の名前だった。
 遺体のある目的地はそこだという。
 ランタンの用意さえあれば十分な、小さい規模の遺跡だが、回収作業があるために多少のロープ技術は必要とのことで、アレクは黙って首肯した。

「行程は1泊2日。野宿になります。食事は持参、報酬は600sp」
「ああ」
「前金で、先に300spお支払いします。残りは依頼終了後に。上乗せは・・・」
「いらない、それで大丈夫だ」

 紹介状にあるここの住所を見た時から、依頼人が払える金額が親父さんから言われていた分で精いっぱいであろうことは、予測がついていた。
 そして家の外観や、中に入ってその予測は裏打ちされている。
 アレクはこれ以上、彼から何かを得ようというつもりはなかった。

「ありがとう。ではあらためて、私はサリマンと申します。よろしく」
「こちらこそ」

 差し出される骨ばった手を軽く握り、依頼の契約は成立した。

「ではもう少し具体的な事情などお話しましょうか」

 アレクはサリマンに勧められ、背もたれのない簡素な椅子に腰をおろした。
 少々長い話ではあったが、サリマンの話は分かりやすく簡潔で、アレクはあまり口を挟む必要はなかった。
 まず、目的地のバーセリック遺跡については、すでに探索され尽くしており、リューンからも近く、清められて魔物の脅威もほとんどない。
 そんな冒険者からすれば旨みのない遺跡ではあったが、サリマンの父の研究対象としてはまだまだ見るべきところがあり、立地も近場で格好だった。
 サリマン自身も何度か足を運んだそうだが、問題の事件があった日、彼は家で資料の整理を行なっていた。

「同道していた護衛の報告によれば、父は槍を仕込んだ穴に足を滑らせて命を落とした。一瞬の事だったそうです」
「・・・そうか、遺跡の罠に・・・」
「ええ。1人では遺体の回収もままならないとの事でしたので、私は彼を伴ってすぐに件の場所に向かいました」

 サリマンは穴の底まで降りて、それが父である事を確認した。・・・体中を緑青だらけの槍が貫通して、完全に事切れていたと言う。
 護衛とサリマンの二人がかりでも大の男を引っ張り上げる事は難しく、仕方なくサリマンは頭髪だけを持ち帰り、葬儀を済ませた。
 それがちょうど、一年ほど前のこと。
 時間経過で遺体の目方が少しは軽くなってるだろうこと、遺跡を管理している聖北教会からせっつかれていること、そして貪欲な学者の研究心もこの一年で満たされたであろうこと。
 以上の三点から、そろそろ父親の遺体を引き上げるつもりになったと言う。

「本当は、その時の護衛に依頼するつもりでしたが、今はもうリューンに居ないそうで。それで、名前をよく聞く≪狼の隠れ家≫へ依頼を出した次第です」
「大体の背景はわかった」
「ありがとうございます」
「ひとつ、伺いたいんだが・・・冒険者になるつもりなのか?」

 サリマンは大きな目を瞬かせると、「ああ」と何かに思い当たった。

「宿のご主人から聞きましたか。ええ。今回の件が片付いたら≪狼の隠れ家≫に、ご厄介になる事にしました」
「・・・失礼でなければ、どうしてか聞いても?」

 アレクの言葉に、彼はちょっと肩をすくめてから周りを見回した。

そこから3

「この家は、今の私にはちょっと広過ぎます。借家ですしね。それなら、どうせ身軽だし新しい空気を吸ってみようかとね」
「学者さんじゃないのか?」
「・・・ふーん。私の身上が気になります?」

 アレクが少し困ったような顔で頷くと、サリマンは手を振った。

「いえいえ、当然の事ですよ。私みたいなおっさんが何で今さら冒険者にと思いますよね」

 彼がおどけたように、「あなた方としても、変な奴に来られたら困るでしょう」と言うので、アレクはますます困ったような顔になった。
 気を取り直して依頼の話に戻り、いつ出発かを問うと明日の夜明けと共にと返事があった。

「・・・これ、前金です。明日から、よろしくお願いしますね」
「ああ」

 銀貨300枚の詰まった皮袋を左手で受け取り、アレクは首を縦に振った。

2013/03/17 03:30 [edit]

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