Sat.

老賢者 5  

「・・・くそっ!またこの夢か・・・!!」

 ギルは呻いた。
 何度目になるだろう、またもや響いてきた鈴の音に向かってギルは吠える。

「止めてくれよ、俺はお前なんか信じちゃいないんだ!!・・・来るな、出るな!!」

 畜生、と弱々しい声が漏れる。
 老人はギルの願いも空しく、そこにいたからだ。

「おい、頼む・・・。教えてくれ!答えろ!!あんた何者なんだ!!」
「私は、フィレモンだ」

老賢者10

「畜生!!・・・俺には分かってるんだ。あんた、神様なんだろう!?頼む、そう言ってくれよ!!」

 不心得者であるはずのギルにとって、かの老人はそうとしか思えなかった。
 何もかも見通し、何もかも知っているくせに、思わせぶりにしか真実を伝えない。
 信者とやらの祈りは届いているかどうかあやふやなのに、悪い事があればそれを「神様の罰」だと唱える教会関係者。
 都合の悪い部分は伏せ、ひたすらに神の御名を口にして人々を教化しようとする者達――。
 ぞわりと鳥肌が立つ。
 ギルの中で、何か黒いものが弾けてしまいそうだった。

「お前の仮説は、誤っている。私は忠告する。お前は、お前が真に知りたいことを私に問うべきである」
「・・・くそ・・・」

 ギルは必死にそれを押さえ込んだ。
 老人が淡々と自分を神ではないと否定してくれなければ、それはとうに弾けていただろう。
 奥歯を噛み締め、己の内部とどのくらい戦っていただろう――――。

「・・・聞いてくれフィレモン」

 ギルは顔を上げた。

「俺はもう、こんな所はウンザリなんだよ。地上に・・・出たいんだ!」

 心からの懇願だった。

「答えを言えよ、フィレモン!お前は知ってるんだろう!?なぜ誰も助けに来ないのか!!俺は生き延びられるのか!!」

 アウロラ、アレク、エディン、ジーニ、ミナス――仲間たちの顔を見たい、一緒にいて笑い合いたい、こんな所で孤独に死んでいきたくない――!
 例え死すべき時が来るのだとしても、それは今ここで一人で、ではない・・・!
 老人は答える。

「・・・救いは、常に予想外の方向からやって来る。お前は、待つことを知らぬ」
「待つって!?これ以上何をどう待てと!?何日間俺が待ってると思ってるんだ!!もう、限界なんだよ!!」
「さらばだ、ギルバート」
「畜生~っ!!」

 ・・・・・・そして四度目の覚醒。
 暗い坑道の天井が、またギルの視界に入った。

「待て、とはな・・・。待ってたってどうなるってんだ、あの爺さんは・・・」

(神ではない、と言っていた。なら・・・悪魔か?)

 ギルはそう思いつつ、近くの岩壁に耳を当てた。
 助けが来るとしたら、その方向からだろうと見当がついている。だが、耳を当てても物音1つ聞こえてはこない。
 ジーニの練成はまだ終わっていないのか、リューンにまだギルの手紙がついていないのか、ひょっとしたら――。
 ギルは静かに首を横に振った。それだけは、リーダーとして考えてはいけない。
 彼らを信じている。だが、信じるだけではなく、自分で自分を救う手立ても探すのが己のやり方だろう――ギルは背筋を伸ばして歩き始めた。

老賢者11

「・・・・・・?今、何か聞こえたような・・・」

 ギルは首をぐるっとめぐらせ、何かの音がした方へ足を向けた。
 そう、それは・・・以前にロープを垂らした、あの地底湖の方向だ!
 ギルは急いでロープを掴み、下へと降りていった。
 下にたどり着くと同時に、彼の耳に救いの声が届く。

「ギルバート~!!生きてる~っ!?」
「あの声は!!」

 ジーニの声である。”金狼の牙”で、彼をギルという愛称で呼ばないのは、彼女だけだ。
 慌てて奥の抜け穴を潜ると、そこには地底湖をボートで漕いできたらしい仲間たちがいた。

「・・・ギルバート!!」
「生きていたか!!」

 アレクが喜色満面に叫んだ。その頭上では、トールがぴょんぴょん飛び跳ねている。

「・・・お・・・・・・」

 本当は、お前たちと叫んで抱きついてやりたい。だというのに、今の彼の身体にはそんな力も入らないのだ。
 エディンが慌てて手を振って、彼を抱きとめた。

「おお、いい、いい。喋るな。・・・痩せたなぁ」
「どう、船に乗れる?」

 ミナスが心配そうにギルの顔を覗き込み、アウロラが無言のままそっとギルの手を取った。
 ぎこちなく彼は首肯した。

「あ、ああ・・・・・・」

 ――こうして、ギルは無事に≪狼の隠れ家≫に帰ってきた。
 話を聞くと、ジーニの練成は当初の予定よりもやや遅く終了し、ギルの予想から1日ずれて定宿に到着していたらしい。
 そこで親父さんからギルの手紙を受け取ったが、到着予定日に彼が来ない。
 不審を抱きながらも、様子見のために1日だけ彼らは待機していたという。
 そしていよいよギルが帰って来ないと見るや、仲間たちは親父さんにギルが戻ってきたら待つよう伝言を頼みつつ、さっさと手紙にあった小村に向かい――坑道の落盤を知ったのだ。
 落石をどうやっても除ける事ができないと判断すると、ジーニは村の古老から辺りの地形のことを聞き出し、ミナスの精霊たちやアレクの雪精トールによって、恐らくあるであろうと予測した地底湖を見つけ出した。
 一方、エディンとアウロラはジーニの考えを聞き、急いで川を利用した物売りから、ボートを借り受けられるよう説得した。
 全てが揃ってから、彼らは精霊・ナパイアスの助けを借りつつ、どうにか地底湖を漕いで救助にきた・・・というわけである。

「ただいま・・・」

老賢者12

 そう言って、痩せこけたギルが≪狼の隠れ家≫に姿を現すと、心配していたらしいエセルが奥から走ってやってきた。
 そして、彼の顔を見てワンワンと泣き出してしまい――ギルは宥めるのに必死になった。
 彼の後ろでは、仲間たちが自分たちを心配させた罰だと、にやにや笑いながらその光景を眺めている。
 ・・・・・・その日の夜。
 また、氷の鈴の音が響いた。

「また会えた、フィレモン・・・」

 ・・・ギルは、炭坑に閉じ込められていた間の夢の事を、誰にも話さなかった。なぜなら・・・。

「フィレモン・・・。俺には、あんたが何なのか、うっすらと分かった気がする・・・」
「・・・・・・・・・」
「あんたしきりに、俺があんたのことを知ってると言ったな。そして、こうも言った」

『お前が知っていることは、私が知っていることの全てだ』

 ギルには、それでやっと老人・・・フィレモンが誰なのか理解できたのだ。

「なあ、フィレモン・・・。・・・あんた、『俺』なんだろ?」
「お前の仮説は、誤っている。が、正解でもある」

 フィレモンは語る。ギルの中の、ギルではないギル・・・それが自分なのだと。

「そうか・・・。成る程ね。あんたの忠告は全て、『俺が思い出さない知識』から生まれていたのか・・・」

 洞窟においては、水はしばしば下方に流れて溜まること。じめじめした土にはよくキノコなどが生えていること。坑道はあくまで地形を利用した人間の道であり、それがどこに繋がっているのかは分からない場合もあること。
 それらは、全て冒険者であった母や、義理の姉から聞いた知識であった。・・・・・・このようにフィレモンから言われるまで、思い出すこともなかったのだが・・・。

「その通りだ。・・・自我というものは、自分の全てを表すものではない」

老賢者13

 ある病を患うと、自分の意志に反して勝手に手が動くという。腕は自分のものだが、自分に意志に反し、別の『自分』に従う。

「俺では気づき得ないことを、側面からあんたが教えてくれたんだよな・・・」
「もうすぐ、お前は目覚める」
「そうか・・・」
「・・・さらばだ、ギルバート」

 その声には幾分か、別れを惜しむような色があった気がする。
 ギルもまた、別れを口にした。それが、老賢者とギルの邂逅の終わりであった。

※収入0sp※
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■後書きまたは言い訳

51回目のお仕事は、サクッと寝る前カードワースフォルダより、風坊さんのシナリオで老賢者でございました。ギルのソロプレイです。・・・えー、ご覧いただけると分かりますように、以前キーレに出かける前に、彼がエセルにさんざっぱら振りまいたフラグは、実はキーレではなくここのことだったりします。炭坑に生き埋め、危うく餓死か乾き死に。
回避できて良かったね!

単独行をしていて落盤させてしまったとリプレイで書きましたが、本編では仲間と仕事中にはぐれたことになっております。ただ、今回の目標である「フラグはやっぱり回収したい」と、「ギルの内面もう少し何かで見れないかな」という辺りでこちらのシナリオを選択させていただきました。
不心得者であること、混沌派であること、仲間たちへの想い――そういうものを表現したつもりでいましたが、上手くいったかなあ。

さて、危うく死に掛けたギルのせいで、”金狼の牙”は少しの間、ソロで動きます。
ギルの看護でアウロラとミナスが動けないので、後三名。
・・・・・・ジーニが脆くて独特の動き方したがるんで、この人のソロが一番厄介だったりするんですが。どこに放り込んだものやら。
それでは次回をお楽しみに。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/16 11:57 [edit]

category: 老賢者

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