Sat.

老賢者 4  

 ただただ白い中を、ギルは進んでいる。

「フィレモン?・・・いるのか、フィレモン?」

 氷の鈴のような馴染みの音――そして、ギルの前にあの白と黒の入り混じった空間。
 老人は変わらずそこにいた。

老賢者7

「フィレモン・・・あんたは、誰なんだ・・・?何故、水の在処を知っていた?」
「私は、フィレモンだ」
「違う!!俺は・・・あんたの名前なんか聞いてるんじゃないんだ!!」
「私が何者であるかは、お前が既に知っていることだ。お前は、お前が真に知りたいことを私に問うべきである」

 ギルの思わず激昂した言葉にも、老人は動じることなく言った。
 カッとなったギルは、拳を握り締めて怒鳴った。

「俺があんたを知ってるって!?何を知ってるって言うんだ!!俺が知ってるのは・・・」
「お前は、私に何を問う?」

 ギルはしばし、老人の顔を見つめ続けた。
 何もかも知っているような老賢者――しかし、その真意は見えない。
 急に自分が愚かに思えてきたギルは、拗ねた子供の口調で問うた。

「・・・食料が尽きた。何か、食べたいんだが」
「神は土からアダムを造り、アダムは肋骨からイブを造った」
「はぁ?」

 ギルが間抜けた声を発する。老人の言葉、それはとある一宗教の神話だった。

「土はすなわち肉なり」

老賢者8

「待てよ・・・。土を・・・食えってのか!?」

 老人は黙して答えない。
 頭を思い切り振って自分を奮い立たせたギルは、彼に噛み付くように言った。

「あんた・・・どうかしてるぜ。本当におかしいぜ。何者なんだ!!何故俺のことを、水の在処を、食べ物の在処を知っている!?」
「お前も知っていることだ」
「・・・っ!俺が!?俺が何を知っていると・・・」
「お前が知っていることは、私が知っていることの全てだ」

 老人は淡々と台詞を吐く。

「何だって・・・?」
「さらばだ、ギルバート」

 空間が白く輝き、ギルは目を覚ました。
 土はすなわち肉なり、老人の助言はギルの頭にしっかりこびりついている。
 食えるわけがない――ギルは首を横に振った。
 自分を納得させようと、今までのことを無理矢理まとめようとする。

「・・・爺さんの夢なんて、ただの妄想だったんだよ・・・。水だって、偶然俺が見つけたにすぎないじゃないか・・・」

 何がフィレモンか、食料だって自力で探してみせると奮起したギルは、前よりもしっかりとした足取りで坑道を進む。
 そして――それは徒労に終わりそうだった。

「くそ・・・目が・・・回る・・・」

 坑道のあちこちを歩き、ギルが最後に向かったのは元々の入り口の方だった。
 だが――水分は補給できたが、まったく食料の入っていない空っぽの胃袋を抱えたままでは、力の入りようもない。
 眩暈を押し殺そうとしたが上手くいくわけもなく、ギルはその場で崩れ落ちた。
 視界が滲む。
 もうこれは本当にダメじゃないだろうか、そう思ったギルの手が――何かを掴んだ。

「・・・これは・・・!?」

 地面に、土くれとは違う感覚がある。
 はっと気が付いたギルは、手の中を見つめた。

「キノコ・・・か?・・・食えるのか?」

 逡巡したが、飢え死にするよりはとギルはキノコのかさの欠片をそっと口に含んでみた。
 痺れは特にない。
 幸いなことに毒は持っていないようである。
 とは言え、特に美味なわけでもなく、眉間に皺を寄せながらもギルはキノコを食した。
 それにしても・・・こう、地面に顔を擦り付けて食べてると、まるで・・・。

老賢者9

「まるで、土でも食ってるみたいじゃないか・・・・・・」

 ギルは自分の台詞がまたもやフィレモンの言うとおりだったことに、奇妙な笑いを止める事ができなかった。
 不健康な笑い声は、坑道に朗々と響いた。

2013/03/16 11:42 [edit]

category: 老賢者

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