Sat.

老賢者 3  

 微かに身じろいでギルは目を覚ました。
 そこは紛れもなく――先程、湧き水を探して彷徨った坑道。
 半身を起こし、周りに異変が無いことを確かめてからギルはふうと息を吐いた。

「まただ・・・夢・・・」

 その声は、恐ろしいほど掠れていた。

「・・・喉が・・・くそっ」

 ふと、彼の脳裏にあの夢の老人の言ったことが浮かぶ。「水は、流れ落ちるもの」と・・・・・・。
 そしてもう1つ。

『お前は、前を見つめすぎているのだ。障害は、越えるべきだけのものではない』

 赤いマントを強張ったような手で何とか身につけてから、ギルは立ち上がった。

「・・・もう一度、もう一度だけ、探しに行こう・・・」

 ギルの足は、自然と前に見た亀裂へと向かった。
 あの時は、亀裂さえ≪エア・ウォーカー≫や≪天翼の短剣≫のようなアイテムで飛び越すことができれば、それでどうにかなるのではと思っていたのだが――。
 だが、老人の言葉。
 あれがもし、ギルの思惑と一致しているならば。

「『障害は、越えるべきだけのものではない』・・・か」

 深いらしい崖の様子に、ぶるりと身を震わせる。

「・・・このガケを降りろと?そう言うのか、フィレモン?」

 幸いな事に、ロープは確かに彼の手元にある。
 ロープを引っ掛けるためのフックも、壁に残っていた――そう、ここは元々炭坑なのだ。トロッコに石炭を積み上げ、その補助に色んな器具を用いた時の名残が、そこかしこに残っている。
 手袋をしたままではやりづらかったので、脱ぎ捨ててギルは作業を続けた。
 長いロープが崖下へと垂れ、フックから外れる様子が無いことを体重をかけて確認すると、ギルはゆっくりと伝い降りていった。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」

 崖のそこにたどり着いたギルが気息を整え、顔を上げると――。

「奥に抜け穴がある・・・。気が付かなかったな・・・」

 もはや血の味が滲んできた喉を押さえながら、穴の奥へと歩を進めた。
 ふらり、と体が傾いだ。
 とっさに壁に手をついて自分を支えたギルの鼻に――渇望していた、微かな匂い。
 そう、これは水の匂い・・・。
 怪しげな足取りで急ぎながら、ギルは必死に前に進んだ。

老賢者6

「み・・・水だっ!!」

 ギルの眼前に現れたのは地底湖だった。
 よろめきつつも湖へと手を突っ込み、無心に水をすくい上げる。
 その手に残った少量の水を口に含むと、もう止まらなかった。
 顔を湖に直接つけ、犬のように這い蹲って水分を補給する。

「んぐっ、んぐっ・・・・・・」

 やがて喉の渇きが癒えたギルは、「ふぅ」と自分の口元を手の甲で拭った。
 ごろりとその場に寝転がり、天井を見ながら夢の老人の言葉に感心する。

「成る程ね、水は確かに流れ落ちるもの。低いところに溜まるのは当たり前じゃないか・・・」

 ギルは額に手を当てて、不意にこみ上げた笑いを坑道内に反響させた。

「ふ、ふふ、ははは・・・。これだけ水があれば、飲み干そうと思ったって飲み干せないぞ」

 そうして、5分も笑い転げていただろうか・・・額の手をぱたりと横に落とす。

「フィレモンは・・・夢の男は、何故水の在処を知っていたんだ・・・?」

 水分が供給されるようになれば、次にギルが覚えたのは空腹であった。
 飢えを体験した事が無いわけではない。
 ただ、これほど強制的に孤独な環境で飢えを経験したのは、久々のことであった。
 仲間さえいれば、愚痴をお互いに零しつつも、どうにか空腹を満たす算段でも言い合って誤魔化せるだろうが・・・。
 携帯食料は、とうの昔に空である。

「まさか、こんな炭坑に食料が落ちてる訳もないしな・・・」

 崖下の地底湖から焚き火の地点まで戻ってきたギルは、ひとりごちた。

「腹が・・・減った・・・・・・」

2013/03/16 11:39 [edit]

category: 老賢者

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