Sat.

老賢者 2  

老賢者3

「う・・・・・・」

 ギルは辺りを見回した。
 自分が横たわっている目の前で、焚き火の炎が赤々と燃えている。
 その揺らぐ灯りに照らされているのは――崩れた洞穴と岩ばかり。
 ギルははっとなった。

「炭坑だ・・・。じゃあ、さっきのは夢・・・か」

 そしてため息をつく。どうして自分がこんな所で丸まって寝ていたのかを、思い出したのだ。

「・・・あ~あ。旧炭坑のモンスター駆除なんて、受けるんじゃなかったよ」

 そう、ガロワの森での特訓を終了し、真っ直ぐリューンへと向かっていたギルは、とある小さな村で炭坑に出るモンスターの駆除を依頼されたのである。
 話を聞く限りでは、そう強いモンスターではなかった為、斧と必要最小限の装備だけを背負ってここまでやって来たのだが・・・。
 思ったよりも深く入り組んだ炭坑での移動に手こずった上、ギルが思い切り放った技の影響で――落盤が起きてしまったのである。
 やれやれ、とギルはため息をついた。
 既に、閉じ込められてから2日が経過している。
 唯一、希望の光だと思えるのは、村での依頼を引き受けた際、リューンの≪狼の隠れ家≫宛に手紙を送ってあったことだ。
 短期間で終わらせるつもりはあったが、何かで遅れるような事があれば仲間が心配するだろうと、親父さんに事情を書いておいたのである。
 それを読んだ仲間が、はたしてどのくらいで自分の異変に気づくのか――ギルはいけないと思いつつ、焦燥を感じた。

「・・・喉が乾くな」

 それにしても、とギルは先程までの夢を思い返した。
 どうしても名乗らない変な老人――あれは一体誰なのか――?

「くそっ・・・だるくなってきたな。水が無いのが・・・痛いぜ・・・」

 今までさっぱり見つけられなかったものの、もしかしたらどこかに湧き水があるかもと、ギルは倦怠感の抜けない身体を立ち上がらせた。
 あてどなく、この2日間ですっかり構造を把握した炭坑の中を歩く。 

老賢者4

「亀裂が入ってる・・・。向こう側には行けないな」

 ここを越えられば、行動範囲も広がるだろうにな・・・と、ギルはため息をついた。
 炭坑の元々の入り口にも移動してみるが、分厚い岩たちで塞がれていて、その向こうをうかがい知ることはできない。
 収穫のまったく無いまま、ギルは焚き火を燃やしている所へと返ってきた。

「・・・やっぱり水はない。余計な体力を使ってもどうしようもないな・・・」

 ギルは早く仲間がこっちに来てくれないだろうかと思いつつ、また毛布を敷いた場所に横たわってマントを外し包まった。
 疲労を少しでも避けるため、すでに靴は脱いである。
 せめてオオバコでもあれば、足の裏に貼り付けて置けるのにと愚痴りながら、彼は暗い坑道の天井を見上げた。
 ――そうして。一体、どのくらいの時間が経ったのだろう。

「ここは・・・」

 彼の意識はまたもや、謎の空間に囚われていた。
 再び氷の鈴が鳴るような独特の音がして、ギルは思わず呟いた。

「・・・あの夢か・・・」

 す、と自然に彼の眼前へ人影が現れる。

「爺さん・・・また会ったな・・・」

 かの老人は、変わらぬ様子でギルをじっと見つめている。
 その視線の強さに、たまらずギルは言い募った。

「あんた・・・誰なんだ?どうして、俺の夢に出てくる?」
「・・・・・・・・・」
「いい加減にしてくれよ・・・!」

 老人の豊かな口髭が、発言につられてゆっくりと動く。

「お前は、私を知っている」
「んなこと言ったって・・・」

 ギルは子供のときのように口を尖らせ、老人をねめつけた。
 そしてまたもや、老人が消えていく気配がある。

「待て・・・フィレモン!」

 己の台詞にぎょっとしたギルは、手袋をしたままの手で自分の口元を押さえた。
 手が震えている。
 一体、自分はいつの間に老人の名前を知っていたのだろう――?
 しかし老人は、確かにギルの呼びかけに気づき、その場に留まっていた。

「そうなのか・・・?あんた、フィレモンって名前なんだな・・・?」
「我が名は、フィレモン」

 老人はゆっくりと頷いた。

「やっぱりだ・・・。だけど、どうして俺は・・・。アンタに会った事なんて一度だってないのに・・・」
「私は助言する。お前はお前が真に知りたいことを私に問うべきである」
「・・・真に知りたいこと、ね・・・。じゃあ聞くが、ここはどこだ?」
「そうではない。お前は自らを偽っている」

 ふと、老人が何を言いたいのかを何となく察したギルは、諦めて口を開いた。

「・・・分かったよ。あんたが頼りになるとは思えないんだが・・・水が、無いんだ」

 ギルは両手を広げた。
 その動作のまま、彼に尋ねる。

「どうすれば、手に入る?」
「・・・・・・・・・」
「おい、どうした。・・・答えられないのか?」

 まさかとギルが思った瞬間、老人の口が言葉を紡いだ。

老賢者5

「水は、流れ落ちるものだ」
「そんなことは知ってるさ。俺の希望と一緒でね。手の平からさらさらとこぼれ落ちるのさ」
「お前は、前を見つめすぎているのだ。障害は、越えるべきだけのものではない」

 ギルはぽかんと口を開いて相手を見つめた。

「・・・何言ってるんだ?」
「さらばだ、ギルバート」

 その言葉とともに、また謎の空間が白の領域に取って代わり、光が――!!

2013/03/16 11:36 [edit]

category: 老賢者

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