Fri.

金狼の牙の辺境戦 2  

 気まずい静寂を打ち破ったのは、”金狼の牙”たちをこの会議室へと導いた男――ルカ少将だった。

「俺たちの怠慢がなかったとは、言い切れねえな。蛮族の奴らがまとまりだしてるって噂は、一応耳に入ってたんだが」
「ではなぜ・・・っ!」
「落ち着けって、アレク。お前が先に切れたから俺が暴れ損ねたじゃないか」

 ギルはそっと幼馴染の肩を叩いて、巨躯の方へ視線を向けた。彼もまた、視線でアレクと同じことを問うている。

「予想以上に速かったのさ。今回蛮族をまとめあげてる野郎は、かなりの大物にちがいねえ。しかも今までなら、これ見よがしに旗を掲げて太鼓叩きながら攻めてくるんだが、奇襲とはな」

 ルカ少将の言を補うように、皺だらけの指でトントン、と卓を叩いて注目を集めた老婆が口を開く。

「わたしゃ、いつもは軍と関わりないんだがね・・・。こいつらも、普段から兵力が足りないってことで各地に増援要請をしてるのさ」
「あんたは・・・たしか呪術を教えてる・・・」

 ギルの呟きに老婆は首肯した。

「話を続けるよ?ここしばらく、蛮族に大きな動きはなかった。中央の連中も、兵を割くのをしぶっていたのさ。ここのやつらのせいばかりではないんだよ」
「・・・・・・で?いつごろここに来るのよ?蛮族の軍勢は」

 杖の髑髏を顎に当てながらジーニが平静な声で問うた。
 キーレ軍の中将だと言う兵法訓練所の剣術師範が答える。

「早くて、3日後。遅くて5日後だ。すでに正規軍は、襲撃への防備を固めている。義勇兵・・・・・・いや街中にも、今日中に知らせる手はずだ」

 各地へ送り込んだ増援の要請が数万単位で集結するのは1月ほど。
 明らかに、時間が不足していた。
 緋色の眼を沈着さに煌かせたアウロラが、

「私たちにどうして欲しいとおっしゃるので?義勇兵としてただ参加してくれという訳ではないようですが」

と、ごく柔らかに声を発した。
 顎鬚を落ち着くために扱いてから、おもむろに中将が言う。

「・・・・・・うむ。君たちは『切り風渓谷』で翼竜3頭を仕留めたことで、評判が立っている。戦に参加してくれるだけでも兵の士気は上がるだろう。しかし・・・・・・」

 彼は言った。
 蛮族がキーレに到着するその前に、遊軍を出撃させるのだと。
 キーレの精鋭100人をルカ少将が率いる、その軍の中についてくるようにと。

「任務は・・・蛮族がキーレに攻め込むのを待ち、兵力が城壁に集中したところを見計らって側面から奇襲。頭目の首を取る」

 流石に呆気に取られた様子でアレクが叫んだ。

「・・・・・・蛮族の頭目を!?」
「そうだ。蛮族は普段、頭目の族長みずからが軍の先頭付近に立って進軍する」

 その時の頭目は兵に囲まれているので、狙いを定めるのは難しい。
 だが、城攻めの時ならば、いかに勇猛果敢な蛮族の頭目と言えど、みずから先陣を切ることは有り得ない・・・それに対して、戦力の中枢は城壁付近に集中するだろう。

「頭目を倒す機会は、城攻めの瞬間しかない」

 額に汗を滲ませた中将が、”金狼の牙”一人一人の顔を見やりつつ、自分の口にした作戦の意味が彼らにじっくりと染み渡るよう、わざとテンポを落として話した。
 呪術師の老婆によれば、蛮族はもともと部族単位のバラバラな集団であり、今回の軍勢も1人の指導者が無理矢理まとめあげているだけだろう、とのことである。
 まともにぶつかればキーレの勝ち目は薄い・・・・・・普通の戦なら下策中の下策と蔑まれかねない今回の作戦を、中将はあえて提案せざるを得なかったわけだ。
 ギルは仲間たちの顔を黙って見つめた。

「・・・何事もやらねばいけない時がある、ということです。主も導いてくださるでしょう」
「言うまでもないだろう」
「お前さんがリーダーだ。お前さんに従うさ」
「あたしの指輪と魔法に感謝しなさいよ。じゃなきゃ、こんな作戦受けられないでしょ?」
「言ったでしょ、ギル。僕はどこまでも皆と一緒だよ!」

 ゆっくりとギルの口の端が上がる。

「わかった。”金狼の牙”が協力しよう」
「・・・・・・感謝する」

 感に堪えないような顔で中将はギルの手を取った。
 大変だったのはこの後で、砦本丸の広場に集結した遊軍100人へ、なんと彼ら冒険者達が士気をあげる為のアピールをさせられたのである。
 傍らのルカが目配せをするのにギルが一歩前に進み、

キーレ到着後11

「俺たちはまさしく、3頭の翼竜を倒した者だ!これから君たちとともに戦う!」

と、≪護光の戦斧≫を捧げ持った。
 時刻はちょうど夕方、荒涼とした地平線に沈んでいこうとしている黄昏の光がギルの捧げる斧の刃に照り返って、広場を一瞬だけ黄金色に輝かせた。
 まるでそれは、荒々しくも美しい戦女神から、危険極まりない精鋭たちへ賜るプレゼントのようであった・・・・・・と後にこの現場を見た者たちは語る。
 ・・・・・・そして。
 軍馬を与えられ、100人の精鋭と壕に潜った”金狼の牙”たちは、斥候の合図で外に出た。
 ルカ少将の案内する指の先。

「蛮族の奴らは降伏勧告なんてヤワな真似はしねえぜ。戦はもう、始まってるのさ。見ろ」

 段々慣れ親しんできた赤い砂岩に囲まれた城砦には、蛮族の軍団が怒声とともに殺到している。
 城壁も矢の雨も恐れぬ、まさに突撃だ。

キーレ到着後12

 固唾呑んで出撃の瞬間を待つ。
 数分の後、ついに静寂は破られた。蛮族の陣営から、天地に轟くような銅鑼の声がひとつ!

「蛮族のやつら、出やがったぜ!」

 そう叫んだすぐ後、ルカの軍馬は走り出していた。
 ”金狼の牙”たちも、100人の精鋭たちも、自分の軍馬を駆って後を追う。
 ルカ少将は、その巨躯に違わない怪力の持ち主であった――なんと巨大な斧を両手に二振り構え、屍の山を築いていた。

「見ろ。あそこに見えるのが、俺たちの目指す敵の大将だ」
「あいつが・・・」

 ギルは呻くように言った。
 蛮族兵の向こうに見え隠れする、竜騎兵に取り巻かれた黒い鎧の長身の男。自ら走竜に跨り、戦場を指揮している様子である。
 迫り来る蛮族たちの軍隊を、呪術師たる老婆の【隕石落とし】が降り注ぎなぎ払うも、次から次へと手勢が増えるせいで厚い陣容が薄まる気配がない。
 翼竜や一つ目巨人たちが遊軍に気づき、蛮族の兵たちとともに動き始めると、

キーレ到着後13

「僕たちに任せて!」

と叫んだミナスが、渓流の魔精・ナパイアスを召喚して、当たるを幸い薙ぎ倒していった。
 それでも、一向に状況は良くならない。
 焦れたルカは戦場をよく見定め――小さくギルを呼んだ。

「おい、勇者殿」
「・・・なんだ?」
「右手を見ろ。少しだけ、蛮兵の層が薄いだろう」

 彼の太い指が示す方向には、確かにまだ指揮官が突撃した軍勢を呼び戻せず、数が少ないままになっている。

「全軍を突っ切ればたちまち道をふさがれる。二手に分かれるんだ」
「・・・・・・・・・なるほど。そういうことか」
「キーレ正規軍は、これから敵の真正面に突撃する。その隙を突いて右手の道を・・・・・・」
「俺たちが突っ切る、と」

 ギルとルカの力のこもった視線が、つかの間交差した。
 真正面からの突撃――それは全滅しに行く事と同じだ。
 しかし、敵の頭目さえ潰す事ができれば、どれだけの犠牲を遊軍が出したとしてもキーレ正規軍にとっての勝利となる・・・。

「必ず、”金狼の牙”が敵の大将を討ち取る。牙は一本じゃ肉を千切ることもできないが・・・六本揃えば、どんな相手でも食い破ってみせるさ!」
「頼んだぜ、勇者殿よ」

 ルカを先頭に、キーレ兵数十名は千を越える蛮兵の渦の中に消えていった・・・・・・。

「ぐずぐずしてられねえ、リーダー。敵将をとっとと倒しに行こうぜ」
「ああ。勝利は・・・我らの手に!」

 ギルが口にしたのは、あの黄金色に輝く広場の中で、ルカ少将が遊軍の兵士たちの士気をあげるために叫んだ言葉だった。
 それが今はこんなにも悲痛に聞こえる。
 アウロラはそっと眼を閉じ、先程までともにあった兵士たちの無事を天に祈った。
 ”金狼の牙”たちはギルの合図で、敵兵の手薄な右手の道を駆け抜けた!

「邪魔よ!どきなさい!」

 ジーニが周りに張り巡らせた【旋風の護り】が、近寄ってこようとする敵兵や矢の雨を四方八方に散らす。
 やがて怒涛の勢いで敵陣を抜けた冒険者たちの先に・・・・・・。

「いた。あいつだ・・・!」

 血を吐くようにアレクが言った。
 敵将が逃げる様子はない。
 走竜に騎乗して屹立し、見下ろすようにこちらを見据えている。
 いつになく厳しい眼差しに変わったエディンが零す。

「フン・・・・・・泰然自若だな。王者の風格というやつか」

 いつ破れるとも分からない緊張の中、ごく自然な仕草で、すっと斧を持ったギルの手が上がった。

「行くぞ!食い破れ!」
「・・・おおおおおおお!!」

 こうして”金狼の牙”たちは、敵大将と戦いを繰り広げた。

2013/03/15 00:01 [edit]

category: 小話

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