Fri.

金狼の牙の辺境戦 1  

 複雑な練成陣を書いているジーニを眺めながら、肘をついて寝そべっているエディンが大きく欠伸をした。
 その横では、真剣な眼差しで陣に書かれたルーン文字を読み解こうとしているアレクが胡坐をかいている。
 ここは≪狼の隠れ家≫ではない別の宿の、屋根裏部屋で――とある魔術師が同業者との相部屋を拒んで借り受けたという、錬金術の実験を行うための工房でもあった。
 薬瓶による錬金術を作っていた工房からの紹介で、ジーニが以前にもここで、碧曜石と紅曜石を素に≪霧影の指輪≫というアイテムを練成したことがある。
 とは言え、今現在は夜。
 城砦都市キーレでの仕事が一区切りつき、要港都市ベルサレッジを経由してここまでやってきたのだが、ミナスやアウロラはすっかり疲れきって寝ている。
 ギルはと言えば、1人だけ別行動でガロワの森に行っている。身につけたい技があるらしい。

「それにしても、ギルすごく喜んでいたな」
「アウロラに≪静謐の繭≫与えるのに≪カナンの鎧≫取り上げてから、ずーっと≪鉄の鎧≫だったからなあ。魔法の鎧ってのが嬉しかったんかね?」
「そうだな・・・とりあえず、ギルの使う技ならあの鎧の特殊能力も上手く使えると思う」

 彼ら”金狼の牙”が、ベルサレッジにおける命がけの戦いの報酬として手に入れたのは、勇者の血を引く末裔たちが所有していた素晴らしいマジックアイテム3品であった。
 鑑定したジーニなどは、エディンとアウロラが落ち着かせるまで眼を爛々と光らせ興奮状態で、ずっと詳細な効果を喋り通しだったくらいである。
 その3品とは・・・・・・。
 まず、ドワーフ族が作ったという≪薔薇の指輪≫。これは魔法に対する抵抗力を上昇させる他、精神を正常化して味方に閃きを与えると言うので、パーティの生命線であるアウロラが持つことになった。
 次には≪天翼の短剣≫。器用さだけではなく知力にも秀でているアサシンの魔力を名匠の手によって封じた武器で、一定確率で真空刃を放ったり、落ち着いた状態で振るえば飛行が可能になる翼を得る。
 これを誰が持つかはかなり紛糾したのだが、結局、一同を代表してアレクが持つことになった。
 最後に、ギルが装備した≪冷界の魔鎧≫だが、これは・・・・・・。

「氷の精霊の加護がありますさかい、あのあんちゃんにちょうどええですわ。魔法にはめっぽう疎いようですからな」

 にょき、とアレクの懐から出てきた雪精トールが、2人の会話に口を出す。

「魔法に対して強いとか言ってたな。俺は鎧のサイズがリーダーにぴったりかだけ気にしてたから、そっちはあんまり聞かなかったんだが」
「対魔法結界を氷の精霊の魔力で張るんですわ。無効化させてしまえば、きっつい魔法でもへっちゃらでっせ」
「・・・・・・俺だと、魔法を直接でも間接でも使うことが多いから、無効化結界は有効に使えない。ギルなら大丈夫だから」
「そんなすげえお宝を、貰う身分になるとはねぇ。・・・・・・親父さんが聞いたら、腹を抱えて笑いそうだが」

 何しろ、キーレの城砦についた時、あまりにリューンと違うその荒々しい雰囲気に、ギル以外の”金狼の牙”は飲まれかけてしまったのである。
 前もって親父さんから、

キーレ出発前2

「蛮族討伐で名を挙げようと、各地から猛者が集まる街としても知られている。腕試しにはもってこいの街だ」

とは聞いていたものの、これほど露骨だとは思ってもみなかったのだ。
 さすがアレクは戦士らしく、すぐ気を取り直してミナスとアウロラを庇いつつ歩き始めたし、エディンは元々内心の動揺が伝わりにくい眠そうな表情を崩す事はなかったので、ジーニに軽口を叩いて我に返らせたのだが。
 キーレでとった宿の顔ぶれも、リューンでは中々お目にかかれないようなものばかりで、ミナスなどは始終落ち着かない様子であった。
 ・・・・・・彼の場合は、どちらかと言えば元踊り子の南国出身だと言う女性から向けられた視線のせいもあっただろうが。
 とにかく到着直後はそんな調子だったので、禿頭の店主からやぶ睨みにされて、

「・・・見ねえ顔だな。この町は初めてか?」

キーレ到着後2

と問われた時に一番先に反応したのはギルであった。

「うん、そう。ここ宿でいいんだよな?」
「おお。おまえらも、この街にとどまるんならここを根城にすることになる」
「へー、そっか。分かった」
「キーレの正規軍からは一定の信頼を得てるから、蛮族が攻めて来たときに一緒に戦うのも、暗黙のルールのうちだぜ」

 店主はそう言いつつ、この街について”金狼の牙”へレクチャーを始めた。

「正規軍の連中にも禄でもない奴が多いが・・・。『一般の』市民は、それに輪をかけたゴロツキだぜ」

 ごつい手が、少しひびの入った皿に肉と野菜の炒め物を山盛りによそう。

「血を見ることでしか生きられねえような連中が、この街には集まってやがる。おまけにこの辺境には、南の官憲の力がほとんど届かねえからな」
「ってこたあ、もしかして・・・・・・」

 何かに気づいたようにエディンが呟く。

「気づいたか?むこうで重罪を犯して、この街に逃げてくる奴も少なくねえ」
「・・・・・・暗黒街ペテンザムもびっくりの無法地帯だな、こりゃ」

 唸るように言うエディンへ、店主は粗雑に淹れたビールのジョッキを渡した。

「この街にはこの街なりの掟や秩序ってやつがあるが・・・まあ、外からすりゃ無法と思われるかもな。なじめねえんなら、とっとと出て行くのがてめえのためだぜ」

 それでも”金狼の牙”たちはキーレに留まった。
 キーレ流の掟に馴染んだ・・・・・・とまではいかないものの、許容できない範囲ではなかったのだ。
 それまでリューンで依頼をまったく受けてなかったこともあり、彼らは鬱憤を晴らすかのように様々な討伐依頼を片付けていった。
 偵察目的の奴隷傭兵部隊、補給路を襲ってくる蛮族歩兵部隊、黄昏の原に跋扈するイス・ビュリュー率いる竜騎兵、切り風渓谷に棲み付く翼竜・・・・・・。
 イス・ビュリューとの対戦の時などは、ギルに傷を負わせられて立腹したアレクが、

「俺の名はアレクシス!尋常に勝負しろ、蛮族の戦士よ!」

キーレ到着後6
キーレ到着後7

と叫んで突撃したり、翼竜退治の目的で訪れた切り風渓谷では、一息ついた後に岩山の斜面を身の丈3メートルはあろうかという一つ目巨人が突進してきたり、色々ひやりとする場面はあったのだが・・・。
 それでもどうにか依頼をこなし、いよいよ依頼の貼り紙がほとんど片付いてしまった頃。

「よう。『切り風渓谷』で翼竜3頭殺したんだってな。たいしたモンだぜ」

キーレ到着後9

 ある日、キーレの兵法訓練所で蛮族たちから得た技を教授する師範が酒場に来て、その巨躯を誇るような立ち姿でにやりとこちらに笑いかけた。

「俺が行ったときには1匹が精いっぱいだった」
「・・・何か話があるんなら、単刀直入に頼むぜ」

キーレ到着後10

 嫌な予感の消えないエディンが、あえて薄笑いを浮かべながらそう返答したのだが、彼の勘は外れなかった。
 街の中心に位置する砦の本丸に集っていたキーレの高官たちから、なんと蛮族たちのキーレ総攻撃の報を聞かされたのである。
 
「前線基地が蛮族の大群に奇襲され、壊滅したのだ。配備されていた精鋭247人は、ほぼ全滅・・・」
「敵軍の規模は、およそ6000。その中には翼竜が6頭、一つ目巨人が少なくとも10人含まれていたらしい・・・」

 それらの話を聞き終わるか終わらないかのうちに、バン!!と大きな音を立ててアレクが卓を叩いていた。

「そんな大軍の動きを、どうして前もって察知できなかったんだ!?」

 半神半人と見紛うばかりの美貌の青年の怒りに、会議室は水をうったかのように静かになった。

2013/03/15 00:00 [edit]

category: 小話

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