Wed.

金狼の牙の再出発 1  

 武器による胼胝のついた手が、幾つかの瓶を丁寧に包んで荷物袋に入れている。
 羊皮紙の切れ端を眺めて、ぶつぶつと目の前の物品の数を数えていた美貌の青年が、やがてその手を止めた。
 荷物袋に詰めていたほうがその気配を察し、振り返る。

「おーい、そっちはどうだ?」
「・・・・・・大丈夫なようだ。アウロラのメモにある物はちゃんと揃っている」

 ギルとアレクは忘れ物が無いかどうかをしばらく点検していたが、やがて納得がいった様に頷きあった。
 ≪クドラの涙≫という唯一無二の宝石の探索依頼に端を発した、とあるクドラ教司祭の秘儀の目撃から、既に3ヶ月が経っていた。
 北方貿易の雄である大商人・オットーの依頼を失敗した事から、宿の評判を落としたと居辛くなり、一時は深緑都市ロスウェルからの盗賊ギルドの使いがあったのをいい事にそちらで仕事をしていたのだが、

幕間01

成り行きで竜を倒すということまでやってのけた為、早く帰って来いと親父さんから言われたのだ。
 そして”金狼の牙”たちは≪狼の隠れ家≫へ戻ってきた――なんと、ロスウェルの盗賊ギルドから盗賊を1人引き連れて。

幕間03

「・・・アッシュよ。よろしく」

 顎の辺りで切りそろえられた黒髪と、鋭く射抜くような目が印象的なその若い女性は、最初こそ頑なであったが、次第にざっくばらんな≪狼の隠れ家≫の他の冒険者たちにも馴染んでいった。
 今は数少ない女性冒険者の2人と話し合い、近々パーティを組むための仲間探しを始める予定でいるらしい。
 ・・・さて、帰ってきたはいいものの、しばらくは”金狼の牙”らの冒険を称える者達がひっきりなしに宿を訪れ、寛ぐ暇も与えられなかった。
 下手にまた評判を上げるようなことになっては困るので、しばらく依頼を控えようと、宿に据えられた呪いの水晶「悪魔たちの挽歌」にひたすら挑戦していたのだが・・・。
 実はつい昨日、やっと地下7階において大悪魔アスモダイの討伐に成功し、見事に水晶の呪いを解いたのである。

幕間08

 クリアしたジーニ曰く。

「・・・・・・なんでそろいも揃って、悪魔召喚の適性があたしにないのよ!?」
「悪魔召喚って禁呪じゃないんですか?」
「違うわよ!でも使いづらいんじゃ意味がないわ!」

 悪魔が使っていた呪文は錬金術だったり死霊術だったり、はたまたただの高位魔法であったりして、それはそれで銀貨を代償に得ることができるのだが、現在のジーニにはこれ以上魔法を収める器が不足していた。
 とにかく”金狼の牙”たちは、信じられないことにまたもやリューンを旅立つ用意が必要になったということである。
 ギルは親父さんと相談した上で、北方のキーレに赴く事にした。

「キーレかあ・・・どんな街だろうな?」
「さあ。・・・地図作製組合の人は、帰ったら早く報告を下さいねと念を押してたが」

 城砦都市キーレ。
 リューンから北へおおむね徒歩で15~20日ほどかかる場所にある街。 
 北の蛮族と国境を接する城砦都市であり、ほうぼうの都市や城から兵を割いて守っている、文明世界側の防衛拠点である。
 親父さんによると、「蛮族討伐で名を挙げようと各地から猛者が集まる、腕試しにはもってこいの街」だとか。
 一時期には蛮族の手に落ちていたこともあったと言う。

「わしが冒険者をやっていた頃は、世界は今よりも混乱していた。群雄割拠の時代だったからな。混乱に乗じて、妖魔が大挙して街に攻め込んでくることも珍しいことではなかったよ」

キーレ出発前1

「・・・・・・親父さんが冒険者やってたのって、いつの話だよ・・・・・・」
「なあに、1000年や2000年も昔の話ではないさ。今だって、きっと大して変わってないだろう」

 親父さんはこともなげに肩をすくめた。
 とは言え、リューンでぐずぐずしている場合ではない。
 ジーニは賢者の塔へ、禁呪を持ち帰って封印指定を頼んだ導師へ事情を説明しに。
 エディンは盗賊ギルドへ、前の依頼で情報を売ってくれた幹部にお礼と挨拶をしに。
 アウロラとミナスは吟遊詩人の寄合所へそっと立ち寄り、店主のトミテへロスウェルで受けた依頼の話をしに。
 残ったギルとアレクで荷物袋を整理して必要な品だけを詰め直し、不要と判断したものについては、親父さんに託すこととなったのである。
 中には、好事家に売れば結構高く売れるだろうという剣術書や呪文書、アイテムなどもあるのだが、

「色々な思いの籠ったものだから、知らないところに売ってしまうのも・・・」

という意見が仲間に多く、冒険で有効活用してもらおうと、後輩冒険者や他の宿の冒険者に売ることにした。
 作業の終わった2人が一息ついていると、相部屋のドアが軽くノックされた。

「ギルさん、アレクさん?親父さんから差し入れです。そろそろ手を休めろって・・・」
「おっとエセル、グッドタイミング。今ちょうど、作業が終わったトコだったんだ」

 弾むようなギルの台詞とは対照的に、アレクが黙ってドアに近寄り開ける。
 そこにはお盆の上に揚げじゃがとホットミルクを乗せたエセルが立っていた。
 急に白皙の美貌が近くにあって、エセルの顔が朱に染まる。

「あ、えと、アレクさんありがとうございます・・・」
「いや。どうぞ入ってくれ」

 エセルは必死に顔に集まった熱を冷まそうとしながら、丸い小さな卓へ2人の軽食を手際よく並べる。
 塩と乾燥したハーブが掛かった揚げじゃがを大きく頬張りミルクで飲み込むと、ふとギルが思い出したように言った。

「そういえばエセル。前に買った香水、どうだった?」
「あ、すごいいい匂いで勿体無いから、滅多につけないんですけど・・・大事にとってありますよ」
「そっか。大事にしてくれるのはすごく嬉しいけど、使われないのはちょっと寂しいな・・・・・・って。あ、そうだ!」

 ギルは整理の終わった不要な品の中から、一枚の鏡を取り出してエセルに見せた。

「これ、高そうだからって冒険の途中で持ってきたのはいいんだけど、値段の折り合いがつかないまま売れなくってさ。良ければエセル、これ使わない?」
「え!?」

 エセルは驚きの声をあげた。
 ギルの手にあるのは、縁に金の装飾がついた見るからに高価そうな鏡である。
 鏡面にはまったく曇りというものがない。
 躊躇したエセルは、慌てて首を横に振った。

「こ、こんな高そうなもの、私が勝手に貰うのは・・・」
「だーいじょうぶ。親父さんや娘さんには、俺から話しておくからさ」

 なおも固辞しようとするエセルに、軽くため息をついてからアレクが口を出した。

「受け取っておいてくれ、エセル。・・・こいつの幼馴染として忠告させて貰うが、こうと決めたら絶対譲らないぞ」
「う、う、う~。本当にいいんですか・・・?」

 にこりと笑ったギルが首肯すると、彼女は大事そうに捧げられた鏡を受け取り、その精妙な細工にしばし見入った。

「綺麗・・・・・・本当に素敵」
「親父さんから聞いてると思うけど、俺たちまた旅に出るから・・・。何か面白そうな物があったら、また土産にするからな」
「はい!・・・・・・皆さん、また無事に戻ってきてくださいね」

 鏡を抱きしめながらエセルが言った。

「あれをしたこれもやったって、”金狼の牙”が評判になるたび・・・誰かが無茶をしたんじゃないかと、心配になるんです」

 だから、と続けようとしたエセルの唇を、いつの間にかギルの人差し指が押さえている。
 彼は悪戯っぽく笑って言った。

「大丈夫だ。≪狼の隠れ家≫でエセルや、親父さんや娘さんが待っててくれるって分かってるから・・・だから俺たち、ちゃんと帰ってこれるんだよ」
「ま、こいつが無茶やった時は俺も止めるから、安心してくれ」

 アレクはそう言って少し冷めてしまったホットミルクを飲んだ。
 その台詞にずっこけたギルが抗議し、アレクが静かに切り返し・・・・・・2人の様子を見て、エセルはついつい笑ってしまった。
 そう、”金狼の牙”は必ず帰ってくる・・・ならば笑顔で皆を出迎えるのが自分の仕事。
 エセルはそう結論付け、それ以上彼らには何も言わなかった。

2013/03/13 23:09 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 2

コメント

そういえば死者の宴で手に入る鏡って、プレミア付だから売れないんですよね・・・修正されたのかな?

URL |  #- | 2013/06/05 21:01 | edit

コメントありがとうございます

>6月5日の匿名様へ
コメントありがとうございます、お返事遅れてすみません!死人の宴がバージョンアップなさったのは存じ上げているのですが、未プレイのために鏡の確認は出来ていません…ど、どうなんだろう…(笑)

URL | leeffes #zVt1N9oU | 2013/07/23 16:19 | edit

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