Tue.

死人の宴 5  

 床には哀れな老人の死体だけが残されている。懐を探ると、赤い宝石の嵌め込まれた古い首飾りが見つかった。
 恐らくこれが奪われた≪クドラの涙≫だろう。
 頷いたギルが仲間の顔を見渡して言った。

「これで良し・・・それじゃあ、あの婆さんのところに戻るとしよう」

 クドラの集落跡に着いた”金狼の牙”は、司祭である女性の家を訪ねた。

「おや、あんた達。≪クドラの涙≫は取り戻せたのかい?」
「ああ、ちゃんと死人使いを倒して、宝石を取り返してきたぞ」

 ギルが掲げ持った首飾りを見て、司祭は目を細めた。

「・・・そうかい。よくやってくれたね。死んだ村の皆に代わって、お礼を言うよ」
「ところで、宝石に掛けられた呪いを解いて貰いたいんだが・・・」
「ああ、約束だからね。ちゃんと解いてあげるよ。家の中にお入り」

 招かれて見覚えのある家の中に入り、ギルはテーブルの上に≪クドラの涙≫を置いた。
 司祭は何か白い粉を振りかけながら呪文を唱える――すると、”金狼の牙”たちの目の前で白い粉が蒸発するように消えてしまった。

「・・・これで大丈夫。宝石を森に縛り付けていた呪いは解けたよ。さあ、持ってお行き」
「・・・・・・お婆さん、お世話になりました。私の迷いや、クドラ教の実情を教えてくださって、感謝いたします」

 頭を下げたアウロラに、彼女は皺を深めるように笑った。
 この時、不意にギルの脳内へ、エディンが教えてくれたオットーの裏事情が思い浮かんだ。

(確か、オットーの商会は経営が傾きつつあるんだったな)

 す、とギルの手が動き・・・彼は首飾りを再び司祭の手に乗せていた。

20130312_14.png

「・・・やっぱり、止めとくよ。これは、婆さんが持っていてくれ」
「どういう事だい?これを手に入れるために、あんた達はリューンから来たんだろう?」
「この宝石は、クドラ教の秘儀『死者復活の儀式』に使う祭具らしいじゃないか。もしかして、婆さんなら村の人を生き返らせる事ができるんじゃないかと思ってさ」
「・・・良く知ってるね」

 司祭は目を瞠った。

「そう、あんた達の言うとおり、≪クドラの涙≫は秘儀に使う祭具さ。そして、私はそれを行う事ができる最後の司祭だよ」

 彼女は戸惑いながら、”金狼の牙”へ秘儀について説明する。

「でも、いいのかい?秘儀に使うと、宝石は力を失ってしまって、ただの石ころになっちまう。儀式の後で持って帰っても、意味は無いんだよ?」
「構わないさ。それより、クドラ教の秘儀とやらをこの目で確かめる方に興味があるんだ」
「・・・ありがとうよ」

 司祭はそっと礼を述べた。
 ・・・こうして、”金狼の牙”はクドラ教の秘儀『死者復活の儀式』を見届けることになった。
 司祭の案内で、集落の奥にある村人達の墓地にやって来た。
 しっかりとした古い墓の他に、粗末な新しい墓が数多く見られる。恐らく、後者の方が死人使いの犠牲者達だろう。

「・・・儀式の前に、これをあんた達に渡しておくよ。きっと何かの役に立つだろうさ」

 司祭が差し出したのは、ずいぶんと古びた呪文書であった。それぞれの表面には掠れた文字で【陽春の息吹】、【雪夜の静寂】と名前が書いてある。
 アレクが驚いたように言った。

「これは・・・クドラ教徒が使う呪法じゃないのか?」
「なに、田舎のオババから教わった呪いとでも言っておけば、聖北の坊主共もとやかく言うまいよ。上手く使っておくれ」

 しゃんと背筋を伸ばすと、司祭は打って変わって張り詰めたような声で言った。

「・・・それじゃあ、『死者復活の儀式』を始めるよ。あんた達は、離れた所で見ていておくれ」

 そう言うと、司祭は新しい墓の1つに近づき、祈りの文句を唱え始めた。
 その胸には、妖しい輝きを放つ≪クドラの涙≫が飾られている。
 やがて祈りが最高潮に達したその時・・・突如、司祭の手にナイフが閃いたかと思うと、一息でその胸に突き立てられた!

「なっ・・・!」

 あまりのことに、ジーニが声をあげる。
 次の瞬間、司祭の身体が閃光とともに消え去ると、後には一組の若い男女が地面に横たわっていた。
 繋がれた2人の手には、≪クドラの涙≫だと思われる黒ずんだ物体が握られている。

「・・・・・・命をもって命を蘇らせたのですか。なんという・・・」

 アウロラの目から、ひと筋の涙が零れていた。
 一晩だけとは言え――忌み嫌われているだけと思っていたクドラ教の司祭から、彼女が受けた恩は大きかった。
 その恩人が躊躇いなく命を捨てた事は、自分たちが手を貸したも同然なのだ。
 無言で自分を責めようとするアウロラの肩を、ぽんとギルが叩いた。

「とにかく、この2人を起こそう」

 そして事情を説明し、彼らの未来を見送る――それこそが最期に彼女が頼んでいった事に他ならないと、ギルは分かっていたのである。
 地面に横たわった男女を助け起こすと、2人はすぐに目を覚ました。
 状況が分からず戸惑っている2人に経緯を説明し、集落の様子を見せると、かなりショックを受けている様ではあったが、少しずつ話をしてくれるようになった。

「・・・そうでしたか。私は村の司祭の息子でヤンと言います。こちらは妻のヤドヴィカです」

 どことなくお人よしそうな笑みを持つ青年は、あの逝ってしまった司祭の面影の濃い仕草で、冒険者たちへ自分の思いを打ち明けた。

「一度死んだ自分達が、母の秘儀で生き返ったと言う話は、正直、まだ良く理解できません・・・ただ、村の様子と≪クドラの涙≫の状態を見る限り、信じるしかないようです」

 そう言って俯いた彼に、アレクはこれからどうするのかと訊ねる。
 息子夫婦はしばらく顔を見合わせた後、おもむろに口を開いた。

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「残念ですが、私達だけではこの村を再建するのは無理でしょう。恐らく、森を出て町で暮らす事になると思います」
「幸い、私の実家が近くの町にあるので、まずはそこを頼ろうと思います。心細いですが、義母の気持ちに報いるためにも、お腹の子を無事に産まなくてはいけませんから・・・」
「えっ・・・お腹の子?」

 びっくりしたミナスがヤドヴィカを良く見ると、確かにお腹が少し膨らんでいるような気がする。

「村の再興は無理かもしれませんが、クドラ神への信仰と我が家の血は絶やさないよう、生き抜くつもりです」
「そうか・・・頑張ってくれよ」
「無理はなさらず、健やかな赤ちゃんを産んでくださいね」

 ギルとアウロラに言われ、夫婦は照れくさそうに微笑んだ。
 その後、森を出て近くの町まで2人を送り届けると、”金狼の牙”は懐かしいリューンへの帰路に着いた。
 依頼人のオットーには睨まれるだろうが、先の危うい商人とのコネなど無用の長物だ。
 そんなものより、クドラ教の秘儀に立ち会えたという経験の方が、遥かに価値がある。
 久しぶりの充実感を味わいながら、冒険者たちは≪狼の隠れ家≫のエールに思いを馳せるのだった。

※収入0sp、≪女神の尖兵≫≪鏡≫≪年代物の酒≫×2【熱病の呪い】【陽春の息吹】【雪夜の静寂】※

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■後書きまたは言い訳
50回目のお仕事は、大地の子さんのシナリオで死人の宴です。依頼が二種類あり、それぞれで分岐があったりするのですが、討伐ルートをアウロラの夢落ちにして済み印をつけず、本当の依頼を探索ルートとして引き受けてみました。いかがだったでしょうか?
このシナリオを行うのであれば、同氏の「異教徒狩り(4-5レベル対象)」を事前にプレイしてからの方が面白かったりするのですが・・・まあ、今さら言っても仕方ないですね。(笑)

今までクドラ教の秘儀目撃EDだけやったことが無かったので、こちらのエンドを目標に動いてみました。
とは言え、8000spもの大金に繋がる≪クドラの涙≫を、特にこれといった理由もなしに司祭の老婆へ渡すこともできかねたので、途中でシナリオにないアウロラとクドラ司祭の問答(っぽいもの)を挟んでおります。2人の立場の違いを少々強調する為に、地の文で「老婆」となっていたクドラのお婆ちゃんは一貫して司祭と表記させてもらっています。
これによって、アウロラの教会や神様に対するスタンスや、クドラへの考えと言うものも絡めてみました。助祭扱いの時にミナスを助けるため教会から出奔した彼女は、一見するとそこらにいる真面目なシスターだけど中身はちょっと違う・・・という感じです。異教徒判定されかねない法術(秘蹟)への考え方ですが、「魔法は魔法。神への信仰は信仰」として別個に考えているということです。
アウロラはまだ少女の頃に騎士である親をなくし、財産争いで散々苦労した後に司祭の養女となった人ですので、それなりに冷めた部分(冷静沈着持ち)があるのではないかな、それが法術への考え方じゃないかな、と書いていて思いました。
上手く表現できていればいいのですが。

それからちょろっと何気なく書いてますが、エディンはSIGさん作の「鼠の行路」で技能を教える側の人という設定です。駆け出しの時に、【盗賊の目】【盗賊の手】の両技能を「鼠の行路」で購入していたのは、それが理由だったりします。
当時の二つ名は、髪の色と担当場所にちなんで黒鼠。
・・・・・・すいません、全然その手のネーミングセンスは持ち合わせておりません。
シナリオでは盗賊ギルドの幹部さんの性別は明記されておらず、口調からすると男性かもしれない・・・と思っていたのですが、情報屋の女性とエディンの絡みの方がビジュアル的に面白かったので、女性とさせていただきました。もし違っていたら申し訳ございません。

さて、汚名クーポンこそつきませんでしたが、”金狼の牙”は依頼を初失敗という事になります。オットーの依頼は完遂してませんからね。
それがこれからの布石になったりするのですが・・・さてどうなりますやら。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/12 19:35 [edit]

category: 死人の宴

tb: --   cm: 1

コメント

拍手ありがとうございます。

>>大地の子様
あばばば、はじめましてLeeffesと申します。拍手をいただき、こちらこそありがとうございます・・・!
やはりあの幹部さんは男性だったんですね・・・やってしまった。女にしちゃった、大地の子さんも絵師のありさんもゴメンなさい・・・。
面白いとのお言葉ありがとうございます、これからも続き頑張ります。

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2013/03/13 06:49 | edit

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