Tue.

死人の宴 4  

 古城の中はガラクタや食器の残骸、木片などが散らかっている状態だった。
 裏口のすぐ近くにあった地下への階段を降りると、そこは食料庫だったらしく、酒樽だったものや空き瓶が転がっている。
 エディンが酒びん用の棚の残骸をよく調べると、まだ中身の入っている瓶が1本見つかった。蓋を開けて匂いを確かめると、上等な蒸留酒の様だ。

「へへ、良い拾い物をしたぜ」

 エディンは年代物の酒をそっと荷物袋に入れた。

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 さらに城を歩き回り、武器庫らしき部屋や殺風景な小部屋などを確かめるも、これといった収穫は無いし誰かがいる様子も無い。
 正面玄関のほうには死人使いの罠があるかもしれないと、一行は先に二階を調べることにした。
 入ってすぐの扉をエディンが調べるために触れた瞬間、指先に弱い痛みが走った。
 罠かと思って確かめるが、特に異常はないようだ。 

「何でぇ、今のは・・・・・・?」

 首をかしげながらも扉を開けると、そこはいくつもの本棚が置かれた縦長の部屋であった。
 本棚に分厚い本が何冊も収納されているところを見ると、ここは死人使いの書斎らしい。

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 どれも見たことの無い不気味な皮の装丁がされている。

「杖はこれだけど、死霊術には興味ないんだけどなあ・・・」

 やる気がなさそうにしていたジーニの手が、とあるところでぴたりと止まった。
 不審げにアレクが名を呼ぶ。

「ジーニ?」
「・・・中々嫌な物を見つけたわ。これは、賢者の塔では絶対に教えてくれない強力な術よ」

 彼女が見つけたのは、【熱病の呪い】と呼ばれる術であった。敵1体に呪いをかけて死に至る熱病を発症させる術であるらしい。
 賢者の塔が禁呪に指定しているその高位魔術の魔術書を、彼女は嫌そうに摘み取った。

「これは塔に持っていって、封印指定して貰わないと・・・こんな所に放り出して、誰かが持っていったら大事になるわ」
「ジーニは使わねえの?」

 ギルのきょとんとした顔に、ジーニは噛み付くような様子で応える。

「冗談はやめて。禁呪なんてあたしの身体に収める予定はないわ!」
「落ち着けってば・・・・・・聞いてみただけだって」

 その剣幕に驚いたアレクがギルに代わって宥めると、ジーニは咳払いをひとつして「とにかく」と続ける。

「いい?禁呪の類は使うと、少なからず術者に滅びの原因となる『何か』をもたらすの。高位の術者はそういうのを防ぐ術も心得てるけど、今そう言うのを完璧に行なえるって人は滅多にいないし、失敗したら周りに被害がいくのよ」

 だから自分は使わないのだと、彼女は語った。
 塔に持っていけば礼金くらいはくれるだろうと言われ、ギルはジーニに任せるよと笑った。

「だから許してくれよ。ジーニが仲間思いだってのは理解したからさ」
「余計な事は言わなくて宜しい」

 こつんと杖の髑髏でギルの頭を叩いたジーニは、すっきりした様子で微笑む。
 そんなやり取りを、先行して次の扉を調べに行っていたエディンが中断させた。

「オイ、ご歓談中申し訳ねえが・・・多分、次が本命の潜んでる部屋で間違いなさそうだ。罠や鍵はねえが、人の気配はするし死体の匂いがしてたぜ」
「・・・扉を開けたらいきなり魔法が飛んでくるとか、ないだろうな」
「そう思うなら、支援魔法かけちゃって行こうよ」

 そう言って、ミナスは早速手慣れた様子で【蛙の迷彩】を唱え始めた。
 たちまち、”金狼の牙”たち全員の姿が周りの風景と同化していく。

「・・・そうですね。用心して入るくらいしかできませんでしょう」

 アウロラも小さなエルフに同意して、【祝福】と【信守の障壁】を唱えた。

「主よ、我らの力を十全に引き出し、またその身を不可視の力で護りたまえ・・・」

 すっかり準備の整った一行は、意を決して扉を開けた。
 そこは――書斎と同じ縦長の部屋であった。
 床にはいくつもの死体が転がっており、部屋の奥には祭壇か何かのような石の台座がある。

「む・・・・・・」

 アレクが唸る。台座の奥には険しい表情の老人がこちら側を向いて立っていたからだ。
 その手に掲げられた三つ目の頭蓋骨は、明らかに”金狼の牙”に向けられている・・・!

「卑しいネズミ共め!炎の玉で燃え尽きるが良いわ!」

 老人の手から発せられた凄まじい勢いの炎が、冒険者達の視界を塞いだ。
 やがて・・・紅蓮が収まった時、勝利を確信していた死人使いの顔色が変わる。

「なんと!?」

 彼らは立っていた。――かすり傷で。
 ギルが吠える。

「やっぱりこんなこったろうと思ったよ!」
「ち・・・!」

 死人使いが頭蓋骨を掲げると、床に転がっていた死体や人骨が動き出すとともに、死霊が部屋に呼び出された。
 どうやら、死人使いに対する攻撃を骸骨の戦士が阻む布陣らしい。

「まず、護衛をどうにかしないと!」

 召喚していたスネグーロチカの冷気を防がれたミナスが、焦りの声をあげた。
 髑髏のついた杖を掲げていたジーニの手が動く。

「こういう時は焦っちゃダメよ」

 杖を持っていた右手の中指には――翠色の美しい鉱石がはめ込まれた指輪があった。
 その魅力的な輝きに、束の間、死人使いの気が逸れた。

「今よ!」

 ジーニの合図で、ギルとエディンが並んで走る。
 彼らの狙いは――骸骨の戦士!

「おらあ!」
「そらよ!」

 それぞれ、不浄な者によく効果を発揮する【磔刑の剣】と【破邪の暴風】でもって、大ダメージを相手に与える。
 その合間を縫うように、

「雷よ!」

と言って、アレクの指先から生まれた小さな稲妻が真中に陣取っている骸骨へとぶつかった。
 一体が崩れるのを見て、にやりとジーニが口の端を上げる。

「いらっしゃい、風よ!さあ、こいつらを吹き飛ばしなさい!」

 ジーニの導きにより、わらわらといる屍人形・・・ゾンビたちがその腐肉を削られていく。
 それでも、普通のゾンビより強化されているらしく、しばらく抵抗を見せたものの、誰一人傷つく前に、ミナスが呼び出したイフリートの吐息に焼き払われた。
 その炎ですっきりした部屋の中を、前衛の3人が縦横無尽に暴れる。
 エディンがレイピアで突いた骸骨をアレクが叩き壊し、ギルは【風割り】で相手を粉々に砕いてしまった。
 アウロラの長い聖句が終わると、その華奢な肢体が白く輝いて仲間たちを包み込み、たちまち【炎の玉】による火傷を癒す。

「・・・・・・はっ!?」

 すべてはあっという間の出来事で、死人使いが≪エメラダ≫の呪縛から我に返ると、すでにほとんどの死霊や死人が動けなくなっていた。
 ミナスの誘導したスネグーロチカが、ついに邪魔者のいなくなった死人使いを抱きしめる。

「くっ・・・!生意気なエルフの小僧め!」

 それでも自分には禁呪がある――不敵に微笑んだ死人使いは短い呪文を終えると、自らの魔力を叩きつけるかのようにアウロラを指差した。

「あの小娘の身体に呪いを!熱く癒える事なき病を!」
「主よ・・・汝が使徒の身を護りたまえ!」

 アウロラの祈りは通じ、彼女は死人使いの魔法に上手く抵抗してのけた。

「夢であなたと戦う自分の姿を見ました。――その呪いは通用しません」
「な、なんてことだ!」

 狼狽し、転移の術を使うために距離を取らねばと後退した死人使いの背後から、

「悪ぃが。・・・あんたの負けだ」

という声がした。
 慌てて振り返った彼の視界に、いつの間にか傍に寄っていたエディンが≪スワローナイフ≫を構えているのが入る。
 蒼い美しい刀身が、黒い衣装のど真ん中――心臓の位置を突き刺した。 
 倒れた死人使いが、それでもしわがれた声で呪いを紡ごうとする。

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「ば、馬鹿な、『大魔道』であるワシがこんな雑魚共に敗れるとは・・・」
「フン、雑魚はお前だ!覚悟!」

 ギルが斧を振りかざし、死人使いの首を刎ねた。
 それと同時に、周りにあったゾンビの身体が崩れていった。

2013/03/12 19:34 [edit]

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