Tue.

死人の宴 3  

 尖兵長ホルストを、後から追いついてきたミナスによる【黄金色の鳥】で打ち倒し、ギルが沼の中央にあった棒を沼から引き抜く。
 その先端には銀色の巨大な刃が付いていた。
 不思議な事に刃は全く錆びておらず、その表面には美しい女性の横顔が彫刻されている。

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「・・・これは、なかなかのお宝かもしれないな」

 ギルが引っこ抜いたそれを、ジーニが杖の≪カード≫を片手にじっくりと鑑定した。

「・・・・・・これは≪女神の尖兵≫ね。魔法とは少し違う、不思議な力が宿っているわ。恐らく実体のない相手でも叩き切る事が可能よ」
「呪いは?」
「かかってないわよ。そもそも、この横顔がクドラ女神の元の姿だったんじゃないかしら。・・・それを判別できる人は少ないでしょうけどね」
「じゃあ、こいつは取っておこう」

 鑑定の済んだ一行はギルとアウロラの怪我を癒した後、今度は南西のエリアを詳しく捜索し始めた。
 霧はなくなり、深い森のエリアへと辺りの景色が変わる。
 そんな薄暗い森を歩いていると、古ぼけた小屋が何軒か集まっている場所に辿り着いた。 
 きょとりと大きな濃藍色の目を瞠り、ミナスが辺りを窺った。

「ここがクドラの隠れ里?それにしては静か過ぎない・・・?」
「人がいないか探してみよう。警戒は怠るなよ」

 ギルの言に頷いた一行は、念のためと集落の中を慎重に歩いて回った。
 しかし、どの小屋にも人の気配というものが感じ取れない。もしや、この集落は放棄されてしまったのか・・・?と、一同が諦めかけた時。

「・・・こんな廃墟を漁っても、何も見つかりゃせんよ。死霊に食われる前に、さっさと帰るんだね」

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「・・・!?」

 赤い帽子を被った初老の女性が、ぼろぼろの小屋の1つから現れて、”金狼の牙”へ声をかけていた。
 驚いたジーニは、思わず飛び退る。
 それと対照的にギルが一歩前に進んで言った。

「廃墟だって・・・?ここは、クドラ教徒の隠れ里じゃないのか?」
「あんた達が何者か知らないけど、見てのとおり、ここはただの廃墟さ。クドラ教徒の村なら滅んじまったよ」
「村が滅んだ!?一体、何があったというの?」

 勢い込んだジーニの疑問に、女性はゆったりと口を開いた。

「森の奥に住み着いた死人使いが、突然攻めて来たんだよ。生き残ったのはこの年寄り1人・・・これでこの村も終いさ」

 そして彼女は小首を傾げて言った。

「ところで、あんた達は一体何者なんだい?なぜクドラの村に関心があるのかね?」

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「俺たちは、”金狼の牙”というリューンの冒険者だ。っこでなら、≪クドラの涙≫の事が分かるんじゃないかと思って来たんだが・・・」
「・・・残念だったね。あの宝石は、もうここには無いよ。死人使いに奪われちまったのさ」

 ここじゃなんだから、と女性によって家に招き入れられた冒険者たちは、各々が藁を編んだ円座に座り込んでとりあえず寛いでいた。
 女性の話にあった死人使いについてギルが訊ねると、それにはこう答えがあった。

「奴は死霊やゾンビを操って村を襲うと、≪クドラの涙≫を奪ったんだよ。・・・私の息子夫婦や、他の村人達を殺してね」
「やれやれ・・・つまり、≪クドラの涙≫を手に入れるためには死人使いって奴を倒さなきゃならんのか」
「・・・あんた達が奴を倒せるなら、あの宝石を譲ってあげるよ。ただし、あれには呪いが掛かってるから、一度私の所に持って来ておくれ」

 森の外に持ち出すことのできない呪いというものが、≪クドラの涙≫にはかかっているのだと言う。
 女性が自分はクドラの司祭である旨を明かすと、アウロラは唇をやや震わせてから問うた。

「なぜ・・・そこまでしてくださるのですか?私のことにもお気づきなのでしょう?」

 アウロラは、格好こそ≪氷心の指輪≫や≪静謐の繭≫という賢者や魔術師の好むようなアイテムを身につけ、あえて僧侶らしくない姿になっているものの、この女性がそれに騙されている様子はないと考えていた。
 つまり、クドラ司祭である女性にとっての敵――聖北教会の者である事。
 すると女性は、ククッと小さくのどの奥で笑ってから言った。

「そりゃ、聖北教会は嫌いだがね。あんたはここで教化を進めようとする奴らみたいな、濁った目はしていない。自分に間違いは無いって疑わない奴とはね」
「それは・・・・・・」

 アウロラが教会の一部に感じている迷いを当てられ、微かに身じろぐ。
 簡単な法術は、信仰に乏しい一部の信者たちにすら扱える。
 彼女は、それは法術というものが、聖北教会が崇める唯一神が自分の信者たちの行いを正しいと思って力を授けているわけではないからだ、と感じていた。
 法術も魔術師たちが操る魔法と同じで、ただルーンなどに代表される呪文ではなく、聖句に端を発するが為に違うものと思われているのではないか――それがアウロラの抱く考えである。
 実際はどうかは彼女は知らない――ただ、これを他者に主張する事は異端と思われかねないことを、アウロラはよく承知していた。
 第一、法術が神から授けられていようがいまいが、彼女の信仰心そのものについては揺らぐ事は無いのだ。
 そう思い、だからこそ秘していたのだが・・・・・・。

「おまけに、あんた達の仲間には異種族であるエルフがいる。聖北の僧侶に他者への寛容さが無けりゃ、一緒にここまで旅なんてできないだろう?」
「えっ、僕?」

 ミナスが細い指で自分を指した。

「そう、坊やさ。・・・・・・この子を連れてるなら、クドラのことを打ち明けても酷い事にはならないと思ってね」

 リューンで知られるようなクドラ教徒はそもそも、クドラを崇める人々の一部でしかない。クドラ教徒の中にも穏健派はいるし、そうではない一派については穏健派も困らされているのだという話もした。
 貴重な話を色々と聞いた”金狼の牙”たちは、ここなら死霊も入り込まないと保障してくれたクドラ司祭の家に一晩泊り込んだ翌朝、最後にと忠告をもらった。

「死人使いの居場所はよく分からないけど、多分、森の中央部にある古城にでも住んでいるんだろうから、よく探してみるんだね」
「・・・・・・ご忠告感謝する」

 アレクが腰を折って礼を述べると、女性は小さく首を縦に振って別れの挨拶をした。
 教えられた死者の森の中央部へ移動すると、またもや霧が立ち込めてきた。
 ミルク色の靄の中に、不意に大きな影を見て驚いたミナスが、ぎゅっとギルのマントを掴む。

「どうした、ミナス?」
「ギル、あれ・・・・・・」
「ん?・・・・・・・・・これは・・・」

 霧に包まれた丘の上に、何やら建物があるようだ。
 視界を確保しようとジーニが召喚した風をコントロールし、辺りの霧を一時的に払うと、崩れかけた小さな城が建っているのが見えた。
 外壁は蔦と苔に覆われており、この城が放棄されてからの年月を物語っている。
 あのクドラ司祭の女性が言っていた事が正しければ、ここが死人使いの居城だろう。

「ちょっと待ってろ。・・・・・・こいつが領主の住居じゃなく、防衛用の砦なんだとしたら・・・」

 エディンは仲間を制して辺りを捜索した。
 城の外壁沿いを彼が調べてみると、正面入り口以外にもう1つ、小さな入り口があるのを見つけた。
 防衛用の砦ならば、伝令用に必ず人目につきづらいところに裏口を設けているはずだ――そう考えたエディンの勘は大当たりだったわけである。
 鍵が掛かっていないことを確かめると、”金狼の牙”たちは≪クドラの涙≫を取り戻すべく、死人使いの城へ乗り込んで行った。

2013/03/12 19:33 [edit]

category: 死人の宴

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